謝りたい事がある
白い病院を見上げるのは好きじゃない。その病院の窓から顔を出すのも好きじゃない。思春期の青年にとってはとにかく関わりたくない場所。
そんな場所にいるのは何故か。自分のせいなのか。はたしてそれは悪いことなのか。良いことと思っているから此処に来た。
葵と千香。親しくなることで愛を覚え、傷つけてしまった。その二人への償い。いや、それならば病院だけではなく警察署にも行くべきだ。
しかし、葉は警察署に脚を向けることが出来ない。千香が捕まるなんて現実味のないことに不思議な感情が芽生えたからだ。
葵が傷つく方がよっぽど現実味のあること。千香が傷つくことも。自分自身が傷つくことも想定内。
同じ場所に留まり続けていると、周りの風景や音も変化する。それは自然だけの事象だと思われがちだがそれは誤りだ。現に都会に近い街の病院でも同じようにそれは変化を続けている。
一台の車が葉の前に止まった。それは葵の母親だった。困惑したような表情で葉にも気付かぬほどだった。
葵の母親とは数える程しか会っていないからか仕方がない。でも、あの表情。あれが親の顔なのか。自分の親の顔はどんな顔だっただろうか。
葉『ただいま。』
返事はない。病み上がりだから、もう寝ているのだろうと思ったら声が聞こえた。
佐村『おかえり。』
それは父親の声だった。違和感は拭えない。
葉『母さんと苗は?』
佐村『母さんは寝てる。苗は自室だ。飯は苗と俺で外に食いに行くつもりだけど、お前はどうする。』
葉『・・・俺はいい。食欲もないし。』
佐村『そうか。ところで夕方の事件のこと知ってるか。』
知ってるも何も・・・触れたくない話題だ。父親はその時間に俺が何をしていたのか問い詰める。俺は彼女の家と答えた。
佐村『母さんはあの事件をテレビで見てから、お前の帰りを待ってたんだ。』
顔を見せてやれ?寝てるんだろ。なんで、わざわざ・・・わかったよ。
二人が飯に出掛けると、母親の部屋をノックした。返事は聞こえた。ただ覇気がない。
母親はベッドに横たわっていた。悪いけど、喋ることなんてない。強いて言えば病み上がりを早く治してくれ。
私『千香ちゃんの家で事件があったみたい。』
葉『千香の家で?マジかよ、一体何が・・・』
無関係を装うのは得意だった。だから事が起きた。しかし、母親は俺の上をいく。得意な事が不得意になる。
葉『千香に電話してみる・・・出ないなあ。』
私『普段、電話なんかしないでしょ。』
葉『う。』
私『あそこで何があったの。』
現場は千香の家じゃない。葵の家だ。でも、真実は伝えられない。ややこしくなる。部屋に重たい空気が漂い始めた頃、母親が口を開いた。
私『謝りたい事があるの。』
俺は戸惑った。母親が俺に謝りたい事がある。何故、今なんだ。千香の事件に関わっていると疑っていた事についてだろうか。それなら謝る必要なんてない。むしろ、俺が謝るべきだ。




