速報
葉から電話だ。嬉しい。久しぶりに息子と話せるんだ。が・・・彼は怒っていた。
葉『なんで俺に報告なしで退院してんだよ。』
私『あ・・・お父さんから聞いてなかった?』
葉『着拒してるからわかんねえよ。』
私『ごめん・・・他意はないの・・・私から伝えれば良かったね。』
葉『は?当たり前だろ。俺は家族じゃねえのかよ。』
電話は途絶えた。どうやって葉が私の退院に気づいたのかはわからないけど、サムを追求しよう。
私『葉、怒ってた。退院の件、伝えられなかったなら私に言ってよ。』
佐村『直接、会って言おうと思ってたけど、あいつとはどうもソリが合わなくて。』
いまさら高校生の息子に対して、何を言っているのだろう。サムが葉を恐れているのか、葉がサムを避けているのか。
どちらにしても父子関係は良好ではないようだ。そこで提案。
私『私、とっても不安なんだよね。』
佐村『わかってる。』
私『本当にわかってる?今が不安というわけじゃなくて、その後が不安なの。』
家族の形が壊れたりしないか。
佐村『・・・なあ。もう長くない事を承知で聞いていいか。』
サムは深刻そうなトーンで呟いた。私は断る理由がないから頷いた。
それは葉が本当に自分の子かどうかというくだらない物だった。当たり前だよ。
私『もう長くないから、ちゃんとした経緯を説明しなくちゃいけないね。』
確かにサムとの子作り期間中に失敗ばかりして悩んでいた。サムもそれを解消しようと強引に事を済まそうとした。それに私が驚いて、泣いて、家を出て、人見の家に駆け込んで抱かれた。サムなんかより優しく抱いてくれたから、私も身を任せた。
それはサムの工作で行為自体を恐れている私の扉を開く鍵を人見に演じてもらうことにしたのだろう。それは成功した。だから葉が生まれたんだ。
ただ同時に疑惑も生まれた。葉は人見の子ではないのか。それはない。人見がそんなことするわけない。私自身も二週間経ってからサムとの子作りを再開させた。もちろん葉はまだ身籠っていない。
私『ということ。』
少なくとも私の記憶では。尤も、もう二十年近く前のことだし、病気でなくとも当時の一日を鮮明に覚えていることは難しい。
ー速報ですー
アナウンサーの声がテレビから流れている。
佐村『女子高生が女子高生を刺したって、また物騒な事件だな。』
私『あれ?近所だよ、これ。』
よく耳をすませばヘリの音が聞こえる。
佐村『どこだ。』
私『うーんと・・・公園でしょ・・・まっすぐ行くと・・・どこだろ、思い出せない。』
どうやら記憶の消失は進行中のようだ。
佐村『綾乃ちゃん家の方向とは逆方向だよな。』
私『あ、そうそう。じゃあ千香ちゃん方面だね。高校がある方・・・だったかな。』
変だ。確信を持てない。頭が痛くなってきた。
私『・・・千香ちゃん方面が北で、綾乃ちゃん方面が南で、病院は東?』
佐村『病院は南だろ。どうした?』
私は俯いた。ショックだったから。最近の記憶の方が消失気味かもしれない。今までの償いとして、真面目に生きてきたつもりなのにあんまりだ。
よくよく見ると中継も近所じゃなかった。ただ葉の通う学校の名前が出てるし、年も同じということは同級生だ。
私『葉ってなんで私が退院してること知ってるんだろう。LINE?』
佐村『LINEは多分拒否されてる。病院に行ったしか考えられないだろ。』
私『じゃあ、なんで病院に?』
サムが葉に電話をかける。出ない。私もかけてみる。出た。
私『今どこにいるの?』
葉『関係ないだろ。』
私『関係なくもないかもしれない。今、テレビでね・・・。』
あの速報を伝えると動揺することもなく、葉は何も知らないような声で応えた。
私『病院にいるんでしょ?』
葉『・・・。』
電話が切れた。やはり葉が関係しているのか。それとも思春期特有のやつだろうか。




