壊れた
だって、そうなんだもん。
葵の台詞は葉を混乱させた。
どういう意味と聞こうにも、帰ってくる答えは分かっている。かといって、それが見当違いだったときの対処は分からない。
葵『無理やりキスされて、いつのまにか月は過ぎて、その間に沢山悩んだ。正直に言うと食事が喉を通らない日もある。』
葉『俺のことで?』
葵『一人になると寂しいけど。それを癒してくれるのは、いつも葉だったから。でも、病んじゃったちかりんがいるから、気のない素振りを続けてた。』
葉『・・・なんとなく分かってた。けど、マジで?なあ、本気なのか?』
何度も確認する。あれだけガードが固かった葵は本当に友達の一線越えを許してくれたのか。
葵『やっぱり、ちかりん?』
葉『いや・・・千香のことは、もうどうでもいいんだけど・・・本気なんだよな?』
葵は小さな声で『うん。』も言いながら頷いた。その顔は、いつも見ている葵とは違って見える。
葵『ママが帰ってくる前に。』
葉『・・・あ、ああ。』
早速、葉は葵の胸を・・・
葵『添い寝してくれるだけでいい。』
葉『まさかソフレ?』
葵『ううん。気が早すぎ。』
十分後。葵がぽつりと。
葵『やっぱり、安心する。もういいよ。』
葉『は?』
葵『確信し・・・。』
葵が体を起こしたとき目に映ってしまった。目に映ったものは人。それも二人が良く知る人。
千香『う・・・うう・・・。』
大粒の涙が溢れている。葉はまだ気づかない。葵も葉に伝えることができない。
葉『もっと安心させてやるよ。』
葵『ん!?待って・・・。』
葉が本気になった。葵はこの間にも千香がいた方向を確認する。が、既に姿はなかった。
葉『どこ見てんだよ。』
葵『千香・・・。』
その言葉を聞いて葉はその手を止め、スマホを手に取った。
葵の家で用事?
何してんのー
・・・
(・・)
まだかなぁ(。-_-。)ちかつ〜ん
(・・)
葉『全然、気が付かなかった。』
葵『私も。』
ピロン
嘘つき(・・)
葉『かえって説明する手間が省けた。』
そういうことーバイバイなー
葵『千香はもういいんだ。』
葉『あの事件から面倒臭い奴になったから。』
葵『・・・どうなのかな。』
葉『何が?さっきから安心するとか、どうなのかとか何なんだよ。』
葵『人見。』
葉『人見?その名前嫌いなんだよ。』
葵『私、人見大輔の隠し子。で、葉は多分、人見大輔と白瀬色葉の子。私と葵は異父母姉弟。』
葵の言葉に葉は怒りを覚えた。良く、そう簡単に嘘をつけるなと。ブーメランだけど。
葉『根拠は。』
葵『根拠はないけど、普通の人とは違う何かが・・・。』
グサッ
千香『・・・。』
葵『う・・・あ・・・。』
葉『な、何やってんだ、お前!!』
そこに立っていたのは無表情の千香。葵の横腹を包丁で刺した。
千香『何が目的か知らないけれど、私と葉を騙したなんて許せない。クールなフリして空かしてるのも、ずっと気に食わなかった。上から目線で説教したり。ね、葉。』
葉『・・・!?』
包丁は葉の眉間を指す。葵も一瞬の出来事に呆然としていたが、事を理解し始め呻き始めた。
千香『もう付き合い始めて一年が過ぎる頃だよ。でも、最近は日曜日に遊ぼうって言ってもはぐらかしちゃうし、葉から呼び出されて、わくわくしながら待ち合わせ場所に行っても、抱かれるだけ。その後はすぐバイバイ。』
葉『じゃあ、別れよう。その・・・あれだ、友達のままで別れよう。』
千香『やだ。そんな幻想なんかやだ。恋人だよ。ドライブしたり、遊園地に行ったり、チョコの交換したり、ショッピングしたり・・・そういう恋人になりたい。』
葉『友達に戻っても出来る。』
千香『友達のままじゃ結婚出来ない。』
葉『そんな先のことなんて知るかよ。今のこの状況はどうすんだよ。』
千香『・・・。』
葵『うう・・・痛い・・・助けて・・・。』
横腹が真っ赤に染まり、医学の知識が無くとも出血多量の結末は脳裏に浮かぶ。葉は包丁を持つ千香の手首を掴んだ。
葉『殺人者になりたくなければ、それを離して救急車呼べ。まだ辛うじて間に合う。』
千香はまるで精神が閉じられた人間のように俯いた。
千香『怖い・・・。』
葉『お前が一番怖えよ、馬鹿。あーくそ。』
部屋の中にあるダメージジーンズを切り葵を止血した葉。救急車を呼んだ後に考えた。千香はどうする。と、考えは無駄になる。刺されたと救急車を呼べば、セットで警察が付いてくる。
葵が運ばれる。葉はそれに付き添う。赤い包丁を持った千香は俯いたまま連れて行かれた。
救急車内で葉は葵を励まし続ける。頑張れとか、負けるなとかよりも、意識を保つ為に、他愛ない雑談を続けた。
しかし、緊急事態でなくとも話題は尽きるもの。心拍計の音と生々しい息遣いが聞こえるだけ。
結局、葉は葵の側に居るだけで何もできなかった。俺って何なんだろう。最低な男なんじゃないか。千香の我慢にも気付けず、瀕死の葵も励ませず。そもそも二股かけて誰が得をしたのか。
救急車は母親が入院していた病院に着いた。




