退院と好意
退院の日が来た・・・もう、手の施しようがないのだろう。
私『お世話になりました。』
先生は、お大事に調子が悪ければいつでも、と嘯いてる。看護師さんに至っては目が泳いでる。今夜のことしか考えていないから。
佐村『歩けるか。』
杖をつきながらなら。ずっとベッドの上にいると重力が足枷になるんだね。リハビリは受けたんだけど形だけのもの。サムの肩を借りなければ倒れてしまいそう。
おっと・・・
私『ありがとう。』
佐村『急がなくていいだろ。車持ってこようか。』
お願いします・・・つーか、退院なんだから最初からそうしてよ・・・でも、サムっぽいからいいや(笑)
車に乗り込むと、このまま苗を迎えに学校まで行くという。サムにしては効率の良い計画だ。
いつの間にか、サムは私の入院中に苗を迎えに行くことに慣れていたみたいで、私が降りられないことも構わない様子。微笑ましいような空しいような。
苗が私の病状を気遣っている。本当に大丈夫なの?と。私は大丈夫だよ。と当たり前のように応える。苗は大人だから、それ以上追求しない。
大人な苗も私の腕に絡みつく。寂しかったんだね。私も寂しかった。苦労して手に入れた幸せを手放すことになるなんて考えたくないけれど、現実はそう甘いものじゃない。死は必ずやってくる。私の場合は普通の人よりも早く。
佐村『・・・。』
静まり返る車内。いつもは騒々しい訳じゃないけど、言葉が飛び交っていた。ラジオも音楽も流れていない。だから、私から喋り始めた。
私『葉は元気にしてる?』
佐村『知らない。』
私『どういうこと。』
佐村『そのままの意味だよ。あいつはあいつで勝手にやってるだろう。』
私『え、帰ってきてないの?』
佐村『姿は見るけど、話す事もないし。』
葉は母親の退院の事など露知らず。千香の扱い方を再構築し、都合の良い女として傍らに留めておく事にした。加えて、葵にも唾を付けようともがいていた。
葵『復縁を決心したんだね。おめでとう。』
葉『来るものは拒まずっていう精神。ところで年末はどんな感じ?』
葵『当然、お家で家族とこたつを囲んでゆっくりするよ。そっちは千香のとこがOKなら二人で過ごすんでしょ。親の質の違いね。この前の例外を除けば、それが普通。』
葉『普通じゃない親から生まれた千香は普通じゃないみたいな言い方だな。実際、そうだけど。』
葵『葉もね。』
葉『俺は普通・・・じゃないか。』
葵『一般人から見たら特異だよ。それが女子を惹きつける一因になってると思う。』
葉『お前は一般人か。』
葵『私?さあ。彼女持ちの男子と毎日二人きりで話してる寂しい女子って普通と思う?普通じゃないと思うよね。でも、私は普通なの。普通なの。』
葉『なんで二回言うんだよ。』
葵は首を傾げながら葉から離れた。そして、すぐに千香が来た。女の勘は葵の方が上なのか。
今日は抱きたい気分じゃない。
千香『あー避けた(笑)』
葉『俺、用あるから。』
千香『葉が用あるの?』
用なんてない。強いて言えば危険を察知して逃げた葵を追いかけたくなった。
でも、ストーカーみたいな事はしない。
葵『あれ?千香は。』
葉『撒いてきた。』
葵は眉間にしわを寄せながら、葉を無視しようと早歩きで歩き始めた。
それに着いて行くと案の定葵の家に着いた。
そそくさと鍵を使いドアを開ける葵。それに追随してもお咎めなし。
葉『親、仕事?』
葵は自室へ入ると、疲れたような顔をしてベッドに顔を埋めた。
葵『あーあ。』
葉『なんだよ。』
葵『また、招き入れちゃった。』
葉『家に入っても何も言わなかったから。』
葵『だって、そうなんだもん。』




