話せないこと
夢というものは、現実とリンクしていることが多い。それは母親譲り。
チラ、チラ、
葉『ん?』
昼休み直前、自習中の教室で談笑していると視線を感じた葉。その主は葵だった。目を向けると葵は視線を逸らして、一応授業中だというのに、何処かへ立ち去った。
夢のことを思い出し、追いかけるか、追いかけまいか。談笑中に選択は一つだけ。追いかけることなんて出来ない。ちょっと待ってろ。
チャイムが鳴り、葵を追いかけようとする葉を引き止めたのは千香。
千香『どこ行くの?』
葉『ちょっと用事。』
千香『ダメよ〜ダメダメ(笑)ランチは一緒って約束でしょ!!』
葉『パン買ってくるだけだから。』
千香『うー、じゃあ、いつもの所にいるから、急いでね。』
教室を飛び出すと、葵は廊下の端の方の壁にもたれかかっていた。
葉『俺のこと見てたよな?』
頷く葵。
これはあの夢の通り、葵にまで惚れられたっていうエロゲ展開の予感。にやにやを抑えながら葵に詰め寄る。俺に用があるのかと。壁ドン行くか。壁ドン行くか!!
ド・・・
葵『お母さん入院してるんでしょ。それ、千香に話した?』
葉『・・・いや。』
葵『彼女でもない私が知ってるのに、マジ彼女が知らないっておかしいよ。』
葉『ネガティブな情報は避けてるんだ。正直、そんなに長くない感じだし・・・。』
葵『長くないならチャンスじゃん。嘘つきになる前に言っておかないと、ちかりんがショックを受けちゃうよ。』
葉『それもわかるけど・・・つーか、なんで・・・。』
葵『不思議な魅力を感じたから言ってるの。私のパンあげる。千香が待ってるよ。』
そう言い葵は教室に戻っていった。葉はいつものように千香の元へ。でも、母親が入院中ということを伝えることは出来なかった。
私『外に出たい。母さんも、そんなこと思ってたんだろうなあ。』
まだ40代の私は、つい最近まで普通の主婦をやっていた。突然倒れて、癌患者になったのは数ヶ月。術後の経過を見て退院する予定で、その日が待ち遠しい。
術後の経過は私的には良好。献血のやつに捕まれば、比較的自由に院内を歩けるようになったし、動悸息切れも改善に向かっている。ただ癌の再発率、転移率は高いと先生に言われた。
今、サムが先生の元に話を聞きに行っている。明日にでも退院できたらいいな。
佐村『・・・。』
私『あ、どうだった?』
佐村『現状で退院することは出来るけど、再発率が高いから、すぐに戻らないといけない可能性があると言われた。』
そうなんだよ・・・それがあるからなあ・・・でも、外に出ることが出来るなら今すぐにでも出たい。
私がそういう趣旨の発言をするとサムは暫く考え込んで深く頷いた。
そんなに考え込むことかな?
私『私が家に帰ると不都合があるの?』
サムは首を小さく振りながら出て行った。先生に伝えに行くのだろう。
1時間後、先生が部屋に来て衝撃の事実を告げられた。
再発、転移すれば、持って一年前後というところです。
一瞬、先生が何を言っているのか分からなかった。何度か聞き直してやっと意味がわかった。私は目を潤ませた。
佐村『転移しなければ80歳を超えて生きられるんだ。 何も怖いことはない。』
恐れるものは何もない。嘘だ。怖くて身体の震えが止まらない。
先生に一言、二言尋ねよう止まらない思ったけれど、浅く頭を下げて部屋から立ち去ってしまった。
サムと二人きり。
私『知ってた・・・?』
佐村『ああ・・・ここにいても、家にいても、それは変わらないと手術以前から言われてた。』
私『そう・・・そうなんだ。そっか、もう短いんだね。覚悟はしてるって言った覚えはあるけど、全然怖い(笑)』
サムからさらに情報を引き出すと、私の腫瘍は悪性で、急性心不全が名ばかりの脅し病という事も嘘。
佐村『騙すつもりはなかったんだけど、話せなかった。』
私『私が中卒の馬鹿だからだよ。調べもせずに、のろのろと病室で過ごしていたんだもの。』
久々の喧嘩になった。俺も麻里も瞳もそうだから学歴うんぬんは言うなと。久しぶりの喧嘩の終焉は一瞬止まったところで二人同時に吹き出したから。
こんなことで喧嘩している場合じゃないと。




