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モザイク5〜MOSAIC PART 5  作者: AKI
究明編
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復活!お転婆娘

私『うう・・・おえ・・・。』


吐いても吐いても吐き気が治らない。でも、我慢しなくちゃ。この病気は治るんだ。私は素敵な時代に生きているんだ。そう思いながら、現状に必死で耐えている私。せめて、葉が成人するまではという思いが駆け巡るのだ。


佐村『もう、いいかな。』


ユキ『え、なんで?もっと飲もうよ。』


堀『こいつ、最近付き合い悪いんだよ。前の店のでも殆ど呑まなかったし。』


佐村『じゃあ、俺帰るから。請求堀で。』


堀『ちょ、ちょっ!?』


佐村は店を後にした。地方から帰ってきて、遊びたい気持ちはあるけれど楽しくない。


佐村『ただいま・・・返事はなし。靴は二足・・・深夜過ぎだもんな。』


人の気配がしない家。いつもならば機嫌の良し悪しはあれど、お帰りなさいという言葉が返ってきた。それが当たり前のことだと思っていた自分を戒めるかのようにリビングで眠ろうとする。


布団を掛けてくれる人もいない。その人の生命は残り少ない。それをわかっているのは自分と医者だけ。無意識的にそれを隠してしまっているのが辛い。


佐村『伝えることなんて出来ないよな・・・あのヤブ医者め・・・俺が調べないとでも思っていたのか・・・。』


頭によぎってしまうのは、あのとき自分がキレて強制的に離婚していれば、こんな辛い思いをせずに済んだのに。思ってはいけないことを思ってしまう。だから寝付けない。


理由は違うかもしれないけれど、それは私も同じだった。


私『眠るのが怖いんです。』


眠ってしまったら、目覚められなくなるかもしれないという得体の知れない不安が私を襲っている。


看護師さんは被害妄想だと言う。きっと気休めだ。真面目な顔をして、心の奥底では真実を隠し通す自信という名のタバコをぷかぷかと吸いながら、患者が弱っていく姿が可笑しくて堪らないから、マスクを付けているんだ。


佐村さん、指何本に見えますか。


私を試して何が面白いんだ。早く、ここから逃げ出したい。


サムに電話で話もしたいけど、仕事中だったらマズいし、真夜中だし、遊んでたりしたら傷つくし・・・。


いや待てよ。今の時代、無料でメールでやり取りできるんだ。


プルプルプル


佐村『こんな時間になんだよ。』


仕事中だったらごめんね。一人だと寂しくてメールしちゃった。


佐村『・・・。』


今、自宅。二人とも寝てるみたいで、俺も寂しい。


私『返ってきた。』


一人だと寂しいよね。不安な時期だと尚更に。


不安なのか?大丈夫だって。数ヶ月後には退院できる。


退院したら遠出したいな〜


佐村『遠出か・・・遠出・・・。』


北海道か沖縄、それとも海外でも行くか。


うん。でも、再開した仕事は優先してね。


仕事一本じゃ俺も持たない(笑)


私『なんか、ぎこちないなぁ。文字だけじゃ・・・表情や声色がないと安心できない。』


今の子たちなら違和感ないんだろうけど・・・本当に笑っているのかもわからない文章のやり取りで心が癒されるはずがない。もし癒されるとしても病人に対する気休めの言葉以下だ。


ありがとう。


もしも、サムが側にいれば、照れ笑いで嬉しい気持ちを誤魔化すだろう。でも、文字ではこれ以上返しがない。ましてや私が習得しているのは一昔前のEメール。スタンプで誤魔化すことも出来ない。


佐村『終わりか・・・精神的には俺の方が参ってんじゃないのか・・・。』


精神的に参ってるのはあの子。


キーンコーンカーンコーン


千香『おはよ・・・。』


グサッ!!グサッ!!グサッ!!


視線が痛い。逃げ出したい。明日も同じなら、もうこんな所に来たくない。


葉『おはよう。最近、遅刻寸前のギリギリばっかじゃん。』


千香『よ・・・。』


言葉が喉に詰まる。葉は最近、毎日喋りかけてくれるけれど、千香は言葉を返せないから朝の一方的なやり取りで終わってしまっている。


その度に後悔して、休み時間はトイレですすり泣く日々。クラスの女子はそれを知っているはず。高校生だから露骨なイジメはないけれど、千香がトイレにいることを承知で陰口をしにやってくる。


最近、開かない扉があるんだよね


知ってる。あそこでしょ。


正直、迷惑だよね。


お腹痛いときとか。


絶対に確信犯だ。千香を罵るために・・・また一人、入ってきた。


あ、葵。そこ知ってる?


葵『知ってるよ。だから何。』


気持ち悪いじゃん。


葵『トイレでスマホいじるのが?』


違うよ(笑)


二人は何かを察したのかスマホを弄りながら出て行った。


葵はスマホを開く。クラスの裏グルチャには、やっぱり千香の悪口が書かれてた。


葵はトイレに誰もいないのを確認して千香に話しかけた。


葵『ちかりん。』


千香『う、裏切り・・・者のくせに。』


葵『違うって。何度も説明してるでしょ。佐村くんはずっと待ってるんだよ。』


千香『なんで葵にそんなことがわかるの・・・葉の何がわかるの!!』


千香はドアを蹴る。


葵『何にもわかんないよ。あのスケベの何が良いのかも、わからないもん。』


千香『人の彼氏を罵倒すんな!!』


葵『あのとき、千香も罵倒してたじゃん。』


千香『・・・私はいいの。』


葵『あっそ。じゃあ、ずっと閉じ篭っていればいいじゃん。』


千香『ああもう!!ムカつくぅ!!』


葵『あ、もう少しで授業が始まっちゃう。ちかりんも送れないようにね。』


千香『ぐぅ・・・。』


放課後、千香は数人と談笑している葉の元へ向かった。千香が輪に入ろうとしたことで、その輪は散り散りになる。


葉『どうした?』


千香『よ・・・。』


やっぱり言葉が詰まってしまう。もう一生このままなのだろうか。


葉『一緒に帰るか?』


葉の助け舟にも乗れない千香。俯いたまま地面を踵で蹴ると、葉は少々強引に千香を船に引っ張り上げた。


手を強く握られたとき、あり得ないほどドキドキした。


千香『あばばばば・・・。』


葉『話したいこともあるから、家に上がってもいいだろ?』


千香『だいかんげい・・・えーっと、いいよ(笑)』


千香は何週間ぶりかに笑顔を見せた。意識せずに自然と出た笑顔は有無を問わずに美しいものだ。


二人は他愛のない話をしながら歩いた。葉はこの二週間の寂しさについて。千香は葵の悪口を延々と喋った。


千香『ただいま。さ、早く早く。』


葉『やっぱり、俺って出入り禁止中?』


千香『そんなんじゃないけど、ママも複雑だろうから。』


葉『そうか。』


千香『話があるって言ってたよね。』


葉『あ、ああ。正直に言うけど、もう別れた方がいいと思う。』


まさかの話に千香は困惑気味だ。


千香『なんで・・・わかった。葵でしょ。』


葉『違う。あいつは全く関係ない。』


千香『嘘だ!!それ以外、考えられない!!』


葉『千香のせいでもない。』


千香『じゃあ、何!?毎日ブルーで、やっと回復しかけてるのに追い打ちをかける気!?絶対に葵に乗り換えるつもりでしょ!!信じられない!!このバカ!!』


千香は葉に物を投げつける。葉はそれを避けようとはしない。全て無防備に受け止めた。それで千香の心が晴れるのなら、瞼に傷が入っても構わない。


千香『ご、ごめん!!大丈夫!?』


葉『大丈夫。そっちは気分晴れた?』


千香『はあ?ま、まあ、久しぶりに吹っ切れた声を出して、気持ち良かったけど。』


葉『な。ただ、俺の気持ちは変わらない。』


沈黙が流れる。気まずい沈黙ではなく、必然の沈黙。彼は彼女の答えを待つ。もしも、彼女の言葉ならば彼に止める権限はない。悲しい現実だ。


千香『わかった。別れる。』


葉『ありがとう。千香が嫌いになったから別れるんじゃないからな。』


千香『フォローは惨めだよ・・・。』


葉『あんな事件の後じゃ、俺がここに居づらい。友達に戻って隙を見て、お互いに一人だったら、もう一度付き合おう。』


一度は納得した千香だったが、また駄々をこね始める。


千香『自分がモテるって自覚があるから、そんなこと言えるんでしょ。だいたい・・・。』


あーだこーだと、気づいたら千香のペースに巻き込まれていた葉はなす術なく、関係は継続されることとなった。いつもの千香に戻って良しとするか。

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