不思議な魅力
即答されて2時間ほど経った頃。背中合わせで眠っていた葵が寝返りをうった。
その姿が余りにも無防備だったから少し触れてみた。起きない。
腰と首に手を回したら起きた。
葵『えっ。』
葉『ふぁ!?ZZZ・・・痛ーっ!!』
葵『本気で千香のことを思っているなら、こんな真似しないんじゃない?千香が戻って来なくてもいいの?』
葉『・・・。』
葵『シュンとしても千香は見つからないよ。一度、振った娘かも知れないけど、発見なんて形で再開するのは嫌じゃん。』
葉『・・・とりあえず出よう。ここで長居してても意味がない。』
葵『話逸らして。人探しの為に休憩しただけだから、割り勘でいいよ。』
葵を無視して葉は部屋から出た。部屋から出ると最端の部屋の前で男の脚に裸の女が泣き叫びながら捕まっていた。
話が違う。
一人だけのはずだった。
私はどうすればいいの。
もう捨てられたくない。
葉『千香・・・?』
千香『葉・・・。』
男は視線を感じたのか、誰だよと言いながら近づいてくる。
葉『そいつの連れだよ。』
距離を詰めようとする葉の腕を葵が掴む。葉が葵の顔を覗くと深刻な表情をして首を振っている。それを見た葉は一瞬、歩みを止めたが、ゆっくりと葵の目を見つめ首を振り、男と対峙した。
葵は千香に駆け寄る。
千香『二人でホテルに・・・。』
葵『千香を探してて、休憩しただけだよ。』
千香『弁解なんかしなくていいよ。もう関係ないから。』
千香はそう吐き棄てる。疲れ切った様子だ。間近で千香を見た葵は気づいた。絶え間なく震えてる。
葵は鞄から歓楽街に入る前に着替えた制服を取り出し千香に着せた。というより羽織らせた。
葉『人様の女に唾つけて無事に帰れると思ってんのか。』
男は千香の方から近づいてきたと説明する。なんでもするからと。
葉『あ?』
家出して来た。だから、お金と寝床がいる。
葉は千香を睨んだあと、男の腹を殴った。倒れ込んだ男に無言で蹴りを入れる。顔を背ける千香の顔を見て、一瞬だけ動作が止まった隙に男は逃げ出した。
千香『・・・。』
葉『おい、なんとか言えよ。』
千香は初めて見る葉の姿に怯えている。
葵『残念。千香は心が参ってるみたい。』
葉が千香の顔を凝視し続けると、千香は声をあげて泣いてしまった。嬉しくて泣いたんじゃない。怖くて泣いた。
千香『その顔嫌い!!どっか行って!!』
葵『うーん・・・とりあえず葉はどっか行こうか。』
葉『いや、千香の家まで、少し離れた場所からついて行く。』
葵『うん。その方が安心かもね。』
葵は千香の手を握り帰宅を促した。立ち上がった千香は葵の手を離さない。葵が歩き出すと千香は脚を引きずりながら必死で前進していた。
葉『脚やられたか。』
千香『ほっといてよ。』
放っておけるはずかない。葉は千香の前で後ろ向きの中腰姿勢になった。
葉『これなら嫌いな俺の顔を見ずに家に帰ることが出来るだろ。早く帰したいんだよ。』
千香『今さら家に帰っても、ママに怒られるだけだから、もう帰りたくない。』
と言いながらも、千香は葉の背中に乗った。言葉と体が相反するのは心が疲れている証拠。家に着く前に眠ってしまったのは心が癒されている証拠。
葵『おばさん、千香見つかったよ。』
千香の母『・・・。』
葉『俺の背中。』
葉の背中で眠っている千香を見て、千香の母はほっとしたような顔をした。明日までに見つからなければ、然るべきところに相談するところだったそうだ。
母は娘を抱き締める。娘は不貞腐れている。こういう場面をまじまじと見てるとむず痒くなる。二人は家を後にした。
葵『あーよかった。』
葉『他人事だからだろ。』
葵『まあまあ。俺の女になんちゃらって言ってたの、ちょっと古臭いけどカッコ良かったよ。』
褒めているのか貶しているのかはっきりとしない言葉に葉は黙り込む。それが可笑しかったのかわからないけれど、何故か照れ臭そうに葵が笑う。
葵『不思議な魅力、理解したかも。ははは。』




