朝
タクシーは昔の私のマンション前に止まった。
新庄『幾ら稼いでんの?』
私『ちょ、貯金。』
新庄はマンションを見上げながら、私にこう言った。この場面は覚えてる。
一緒に住んでいい?
私はうなづいた。独り身だったし、この生活から抜け出せるなら抜け出したかったから。
何故か酷く疲れてる。夕食後、新庄はソファ、私はベッドで眠りについた。
カーテンの隙間から朝の陽射しが射し込む。私はまだ起きないよ。朝は苦手なんだ。そんな私の頭を優しく撫でる大きな手が・・・。
佐村『起きろよ。子供が生まれたら陽射しが苦手なんて言ってられないだろ?』
・・・なんで全裸なんだろ。
私『あ、思い出した。』
佐村『思い出した?』
私『昨日はごめんね・・・せっかくの新婚旅行だったのに・・・。』
佐村『だったって、まだ初日じゃないか(笑)』
二日目も三日目もダメだってわかってるから。どんどんサムの機嫌が悪くなってくるはず。確か帰りの車の中は無言だったんだっけ。
千香『うーん・・・今、何時・・・もう6時か・・・ん・・・ん!?』
タタタッ
ガチャ!!
・・・・・・
ジャー・・・
ガチャ・・・バタン
千香『ヤバい・・・普通に来た・・・妊娠してないじゃん・・・。』
運悪くスマホのアラームが鳴りだした。
葉『ZZZ...』
千香『起きないんだ・・・鈍感で良かった。』
でも、焦っていた千香はスマホを葉のお腹の上に落としてしまった。
葉『ぐほっ!?』
千香『あ、ごめん!!あ、朝だよ!!』
葉『朝か・・・体調はどう?』
千香『い、いい方かなー。』
葉『マジで?触らせて。』
葉は千香のお腹を触った。
千香『・・・。』
葉『まだわかんないな。』
千香『あ・・・ダメだよ。』
葉『よくよく考えたら、もう覚悟決めてんだから良いじゃん。』
千香『ダメだって・・・チェックアウトしてバイト探さなきゃ・・・。』
チュー
千香『ダメだってば!!』
葉『そ、そんなに怒らなくても(笑)』
千香『しばらく私に触れないで!!あ・・・そうだ・・・これが噂のイライラだよ!!はやくチェックアウトしよ!!』
千香は扉を開けようとした。でも、開かない。しばらくガチャガチャしてると券売機のような機械があるのに気がついた。
葉『何にもしないなら、漫喫でも良かったんだけどな(笑)』
千香『でも、そっちだったら添い寝出来なかったよ。』
・・・まだ眠たい私の横には若いサムが来た。
佐村『今日は海沿いを歩こう。』
私『歩く・・・?』
確か新婚旅行二日目はサムが海に入ろうと言い出して、私と揉めたんだ。ビキニを着ることや、陽射しを浴びることが嫌だったから。サムも握手や写真が面倒だったから、歩こうとは言わなかったはず。
佐村『海岸沿いを歩いて、喋りながら見つけた店で飯食って、部屋に帰ってきたら怖さも無くなるだろ?』
私『・・・今の私に怖いものなんてない。』
私がそう言うとサムが笑いながら顔を近づけてきた。
佐村『葉が怖いんだろ?』
私『えっ・・・。』
佐村『16年間手塩にかけて育てた息子が巣立とうとしてるのが怖くて仕方がないんだろ?だから、葉が出て行ってすぐにお前は倒れたんだ。』
サムが私の手を握った。暖かい。そういえば何年もサムの手を握る機会なんてなかった。サムの手を握り返すとやっぱり暖かい。
佐村『色葉の手、冷たいな。』
私『冷たい・・・あ、やっぱりダメ・・・帰らなきゃ・・・。』




