お前
何かが割れる音が聞こえた。
千香『馬鹿なことしか出来ない私なんて生きていてもしょうがないって言ったのは葉でしょ!!』
葉『そんなこと言ってないだろ!!なんで馬鹿なことしたんだって聞いただけだろ!!ハサミを床に置け!!』
千香『嘘つきの命令になんて従いたくない!!』
葉『晴樹に綾乃のフリしてメールさせてたのは謝っただろ!!』
千香『二人だけの秘密をバラすなんて最低!!触んないでよ!!痛い!!』
葉『ハサミなんて持ち出すからだろ!!』
ガチャ!!
葉『・・・あ。』
千香『・・・。』
佐村『・・・お前、何してんだ!!』
私『葉・・・。』
サムが千香ちゃんに掴み掛かっていた葉の襟首をつかんだ。
葉『なんだよ。事情も聞かずに殴んのかよ。』
まるで、あの頃の人見みたい・・・。
あれは二年生の修学旅行二日目の夜。人見が私たちの部屋に遊びに来たんだ。男子と女子の部屋は完全に別れていたから、みんなが寝静まった深夜にこっそりと忍び足でやって来て、私の布団の中に潜り込んだんだ。
人見『よっ(笑)』
私『え・・・うわ、隣の部屋に行けば良かったのに・・・。』
人見『なんで?』
私『だって、友達止まりなんでしょ・・・。』
人見『お袋さんに認めて貰えるように頑張るから、待ってろって(笑)それにしてもこのメンバーじゃ寂しかったろ?』
私『うーん。大声じゃ言えないけど公子は麻里と一緒のグループだから、あっちが良かった。』
人見『俺も室伏がいなくなったから退屈なんだよ。』
二人とも停学処分を受けていたから班決めに参加出来なかったんだ。麻里と佐村は修学旅行なんて馬鹿馬鹿しいという理由で不参加。
時の経つのも忘れて人見とお喋りした。内容なんて覚えていない。きっと普通の高校生の恋人同士がするような他愛のない会話だ。でも二人はあくまでも友達同士。そんなことも知らない先生が見回りにやってきた。
飯塚『人見!!』
人見『・・・。』
私『マズい・・・巻き添えを喰らうかも・・・。』
布団の中に隠れている人見をなんとか守ろうと私は人見の上に乗った。それが仇となった。こんもりしている私の布団を怪しいと思った先生は思い切り布団をめくった。
飯塚『何してるんだお前ら!!』
私『あ、あの、やましいことはしてないですよ!!』
人見『痛たたたた!!』
飯塚『来い人見!!』
私『待ってよ、先生!!私と人見の関係は知ってるでしょ!!』
先生は聞く耳持たず、人見の胸ぐらを掴んだ。
人見『事情も聞かずに殴んのかよ!!』
人見は思い切り殴られた。今の時代じゃ暴行罪になる勢いだった気がする。
飯塚『お前ら、一階に来い。』
お前らと言うことは私もということ。
私『失礼します・・・。』
人見『右の掌折れてんのに、何が出来るって言うんだよ!!』
私『人見・・・ここは素直になろう・・・もう、停学は喰らえない。』
飯塚『停学なんて誰が言った。他の奴らに示しがつかないから殴っただけだ。お前らの関係は知ってる。』
知ったかぶりされると悲しくなる。私と人見はただの友達だ。今日でそう確信した。私が覆い被さったとき私を抱き締めなかった。だから掛け布団が不自然な高さに見えて先生に見破られたのかもしれない。
私『知ってるなら人見くんを殴らないで良かったじゃないですか!!』
私は初めて怖い飯塚先生に口答えをした。でも人見が・・・。
人見『飯塚なんかにわかるわけないだろ。俺たちの複雑な事情なんて。』
複雑な事情・・・。
私『待って。千香ちゃん、なんでハサミを持ってるの?』
佐村『ハサミ?葉に抵抗しようとしただけだろ。』
葉『・・・。』
千香『・・・葉、行こ。大人の人と話しても解決しない気がする。』
葉はサムの腕を掴んで睨み付けた。サムはこう見えて、自分の息子の睨みに負けるほどのビビり。
葉『母さん。俺、高校はやめないけど、この家を出るから。相談したいこともあったけどやめた。このカッコ悪い親父のせいで。』
佐村『出て行け。そんな息子に育てた覚えは・・・。』
葉『俺はお前に育てて貰ったなんて思っていない。』
葉がサムの事をお前って言った。私もこんな息子に育てた覚えはない。なんで・・・16年間・・・大切に育ててきたのに・・・。
葉が千香ちゃんの肩を抱き寄せながら出て行った。サムは私を責めてる。俺をお前呼ばわりするなんて、育て方を間違えたんだろって。私は反論出来ない。あまりのショックで反論する気力も残っていないだけ。
ああ・・・頭が痛くなってきた・・・。
ふら・・・ふら・・・
佐村『あいつが帰ってきても、俺は・・・ん、どうした?』
バタッ・・・
佐村『い・・・ろ・・・は・・・。』




