最後の登校
葉は千香との待ち合わせ場所に来ていた。
千香『良かったーっ。来ないかと思ってた。』
葉『大量のメールを送りつけてたくせに良く言うよ。きっと、エイプリルフールのネタだから落ち込まないで。』
千香『絶対にそうだよ。葉が二十歳になったときのエイプリルフールのネタだって(笑)』
葉『ははは・・・昨日、母さん帰ってきたんだよ。』
千香『えっ!?良かったじゃん!!やっぱりネタだったんだ(笑)』
葉『ただ、空気が最悪だったから、俺はリビングに顔を出してないんだよ。』
千香『空気って・・・?』
葉『帰ってきて早々の夫婦喧嘩。内容は知らないけど。』
千香『夫婦喧嘩なんてどうでもいいよ。仮に離婚して苗字が変わっちゃっても葉は葉なんだから。』
葉『どういう意味?』
千香『こういう意味。中学最後ではじめての手繋ぎ登校。』
葉『同じクラスの奴らに見られたら最悪だって。特に晴樹とかにイジられたら面倒く・・・。』
ギュッ
一方、その頃。
私『(いらいら・・・いらいら・・・。)』
佐村『ないな・・・こっちか。』
そこでもない。苗の洋服を見つけられないサムにいらいらしてるのだ。でも、自分から私に苗の洋服の場所を聞いてくるまで絶対に教えるもんか。
苗『私、家に居たい。外に出たくない。』
私『一人になるからダメ。お兄ちゃんの卒業式を見に行く?」
苗『家に居たい』
私『じゃあ、パパに同行。洋服の場所知ってるでしょ。取って来なさい。』
佐村『苗は家に居たいんだろ。全部の鍵を閉めれば大丈夫なんじゃないか?』
私『ダメだって。サムが家に居るならいいよ。家に居るのに息子の卒業式に出席しない最低の父親みたくなるけど。』
佐村『俺の立場を考えろよ。普通の仕事をしてるわけじゃないから、顔が知れ渡ってんだよ。』
私『それを選んだのは自分じゃない。』
佐村『そんな俺を選んだのもお前じゃないか。」
私『指輪をくれたのはそっちだった。』
佐村『それを笑顔で受け取ったのはそっちだったろ。』
私『指輪をはめる指さえわからなかったくせに。』
佐村『あの頃は優しかったよな。指輪をはめる指の位置をさりげなく教えてくれたし。』
私『あの頃は優しかったって、それはコッチの台詞。』
ブチッ
ん、何の音?
佐村『葉が思春期に入るか入らないかの時期に私は死ぬかもしれないなんて言ってた奴が、健康体になったのは誰のお陰だと思ってんだよ。』
あ、キレたんだね。
私『子供たちのお陰。サムのお陰って言って欲しいんでしょうけど、人見のことも忘れてない?』
佐村『子供たちはまだわかるけど、なんで人見が出てくるんだよ。子供たちの前で人見の名前は極力出さないようにって約束だったろ。』
私『約束といえば、お前と呼ばないでって何度言っても・・・。』
佐村『俺は昔からお前と呼んでた。』
私『もっと優しく色葉と呼んでくれてた。』
佐村『人見と俺を比べるな。』
私『比べてなんかない。人見は私のことを昔の名字で呼んでくれてた。』
白瀬って。
佐村『比べてるじゃないか。』
私『・・・卒業式に間に合わなくなる。服はタンスじゃなくてクローゼットにあるから。ちゃんと鍵を閉めて出て行ってよ。』
私はそう言いながら家を出た。サムの頷きや苗の俯いた表情も見ずに。
晴樹『あれ、なんで二人が手を繋いでるんだ?』
葉『あっ・・・。』
千香『付き合うことになったの。ね?』
晴樹『マジで(笑)』
葉『い、いや、その・・・。』
千香『綾乃に負けたらね。』
卒業式まで、あと数分。私はギリギリ間に合った。葉も確認。




