大嫌いだった
いい稼ぎ方を見つけて一年が過ぎた1988年のある日。いつものように街を徘徊していると薄汚い男に呼び止められ、小さな声でこう言われた。
工藤『姉ちゃん、いいブツがあるよ。』
姉ちゃんと呼ぶな!!美知を思い出す。
私『薄汚い男の相手はしないよ。スーツでバッチリ決めてから来て。』
工藤『見た目でわかんだよ。悪い女だろ?』
私『薄汚い男と悪い事しても何にも得られないから薄汚い男とはしないよ。目立ちたくないから散って。』
工藤『まあ、待て。これ、わかるだろ。いいブツだ。』
男はいいブツを私にだけ見えるように見せた。・・・それは草だった。既に経験済みで、お金持ちの私はそれを衝動買いして、家に帰りすぐに吸った。誰にも迷惑はかけていない。でも、咎められることはある。
ガサゴソ・・・ガサゴソ・・・
中川『これ、なんだ。』
私『・・・。』
中川『これは、なんなんだと聞いている。』
私『煩いな。わかってんでしょ。』
中川『未成年なのに・・・乾燥大麻所持の現行犯で・・・。』
私『見逃してくれるなら、いいことしてあげるよ。無料で。そこの路地入ろう。』
中川『は・・・ちょ、ちょっと待て!?むは・・・・・・・・・わ、わかった、保護者か近親者に連絡を取れ!!』
私『保護者か近親者・・・?』
母さんや美知に私の現況を知られるわけにはいかないということで、人見を兄として呼び出し事なきを得た。
ガチャ
人見『なんだ、この部屋・・・。』
私『ふー、疲れた。あ、勝手に触らないで。』
人見『いつの弁当だよ、これ。』
私『それは昨日の。』
人見『こっちは。』
私『それは・・・半年前と思う。でも、その横のは三日前の弁当だと思う。』
人見『俺はどこに座ればいい?』
私『・・・わかった。片付けるよ。』
なんで、深夜近くに部屋掃除をしなくちゃならないんだ。
人見『うわっ!?ゴキブリ!?』
私『はい、パーン。パンパーン。ほら、捨ててきて。』
人見『俺、虫無理なんだよ・・・。』
私『・・・。』
部屋を片付け終わったのは二時間後。もう眠たい。でも説教が始まるみたい。
人見『いつからやってたんだ。』
私『今年の春。繁華街で売人さんに声をかけられたんだよ。』
人見『繁華街・・・?お前、何をしてたんだ?』
私『あ、遊んでただけだよ。』
人見『金は?』
私『・・・。』
人見『月に一度は最低限の生活費を送るから馬鹿なことはやめろよ。』
私『好景気のせいで、みんな病気だからやめられるわけないよ。私も含めて。人見も遊んでるんでしょ?』
人見『それを言われたらな・・・。』
私『白瀬は女だからとか言うつもり?』
人見『わかった。稼ぎ方については自己責任で勝手にやれ。草は絶対に断ち切れよ。エスカレートして薬に手を出すかもしれないからな。』
私『でも、ミュージシャンってこういうのやってるでしょ。』
人見『誘われたことはある。でも、俺はやらない。佐村も麻里もやらないだろう。鈴木さんはわからないけど。仲間に迷惑はかけられないからな。白瀬も仲間だろ?』
普通ならば、人見の言葉に感動してやめるんだけど、私の場合はそうならない。どんなに私がいい娘を演じても、友達以上の関係にはなれないと宣言されているから。
翌日から人見の提案でバンドのお手伝いをすることになった。ライブがある日はそのお手伝い。練習がある日はそのお手伝い。何にもない日は金稼ぎ。
そんな生活が三ヶ月程続いたところで、私はやらかしてしまった。貸しスタジオの男子トイレ掃除のアルバイト中、鍵が壊れている個室で草を吸っていたところを腹痛の佐村と鉢合わせた。
私『・・・すぅ・・・すぅ・・・。』
ガチャ
佐村『あー腹痛え・・・。』
私『すぅ・・・!?』
佐村『お前・・・何してんだ・・・。』
私『えーっと・・・お掃除・・・。』
気まずい沈黙のあと、佐村が口を開いた。
佐村『二度とバンドの手伝いに来るなよ。お前の存在がバンドを崩壊させるかもしれない。』
私『二度と来るなって・・・好きで手伝ってる訳じゃない。』
佐村『じゃあ、来るなって。』
私『・・・うう・・・あーっ!!二度と手伝いになんか来るもんか!!』
佐村『本当にムカつくな、お前の言動!!ちゃんと説明しろよ!!』
私『来るなって言ったところで終わりだったでしょ!!がああああ!!』
ガチャ・・・
人見『・・・っち・・・くそっ。』
私『このやろ!!このやろ!!』
佐村『痛え!?なにすんだよ!!』
人見『二人ともやめろって。』
佐村『人見だったよな。こいつにバンドの手伝いをさせるって言ったのは。こいつ、個室で草を吸ってたんだぞ。週刊誌に書かれたらどうする?早くバンドから離させろ!!』
私『こんなお遊戯会バンドなんて・・・。』
佐村『お遊戯会だと!!』
人見『まだお遊戯会なのは事実だ。俺たちは成長途中なんだよ。白瀬のことなんだけど・・・。』
人見は私のことを説明した。
佐村『なるほど。依存症の売春婦じゃ真面目に働けないわけだ。』
私『・・・。』
人見『まだ若いから改善できる。』
佐村『保障は?こんな爆弾娘を連れ歩けるほど、バンドは大きな船じゃないだろ。お前らが言うには成長途中のお遊戯会バンドなんだろ?』
私『人見・・・佐村大嫌いだから、ここでは働けない。バイバイ。』
とにかく、この頃のサムは大嫌いだった。後々、聞いてみると、あの頃は売れる事しか考えられなくて、メンバーでもないくせに時々現場にいる私という存在が煩わしかったみたい。
昼頃に帰宅した私はしばらく寝た。目覚めたのは人見と佐村のドアのノック。
ガチャ・・・
私『・・・。』
佐村『・・・。』
人見『相変わらずの部屋だな(笑)』
サムにまで知られてしまった。でも、当時のサムは自分のバンドで手がいっぱいだったから、私を救い出すことは出来なかった。私もサムが大嫌いだった。




