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モザイク5〜MOSAIC PART 5  作者: AKI
失踪編
10/61

フリーライター

差出人不明のお香が送られてきた。隣の家と間違えたんじゃないかと尋ねてみたけれど検討がないという。一本だけ試してみたけれど、安物っぽい。そうそう、葉を二週間ほど観察してみた。やっぱり、なんか変。隠し事がありそう。今日、学校から帰ってきたら・・・


ピンポーン


ん・・・まさか、サムが連絡なしで帰ってきた?サラリーマンだったら基本は定時に帰って来るだろうから心構えが出来るのだけれど、ミュージシャンという職業の帰宅時間は毎日バラバラ。で、夜遅くなったり、最悪、朝帰りの場合は、その理由がミエミエなのに、多少は怒っているけれど、それを伝えることが出来ない私がいる。お風呂会議の場で強気になれるのは、二人が男と女ということを忘れないようにしようという場だからだろう。普段、私は女を忘れてるのかもしれない。テレビでかっこいいと感じる俳優さんがいる、いないということはまた別な問題。夫に魅力を感じなくなったのは私がサムを男としてではなく、パパとして認識しているから。子供が家を出て再び二人きりにでもなれば、私も女を取り戻すのだろうけど。


ピンポーン


私『あ、忘れてた(笑)』


モニターには、帽子を深々と被った男の人が映っていた。セールスはお断りだ。


私『どちら様でしょうか・・・?』


男『白瀬色葉(しらせいろは)さん。ですよね。』


え・・・私の旧姓を知ってる・・・。


男『お母様の不幸、幸せを共にするはずだった最愛の友人様の不幸、お悔やみ申し上げます。』


何これ・・・あなたは大富豪の娘だったと言われるパターンじゃないの!?やっだ!?うっそ!?ホントに!?・・・でも、母さんの不幸と、人見の不幸を知ってる・・・幸せを共にするはずだったことまで・・・。


男『私、フリーライターの島田祐一(しまだゆういち)と申します。』


私『フリーライター?』


島田『あなたの波乱万丈な人生を本にまとめたいのです。』


私『・・・。』


島田『あなたが不審がるのも無理はありません。しかし、今の時代、情報は溢れているのです。私たちライターの仕事は、そんな溢れた情報を統合して、限りなく真実に近づける事であります。ノンフィクションとして、あなたの人生を取り上げたいのです。』


私『夫が有名人だってことも、子供が思春期だってことも知っていますよね・・・。』


島田『もちろん。取材をして、すぐにまとめるわけではありませんので。』


私『私は過去を捨てて今を生きているので・・・過去のことにお答えする事が出来ません。』


島田『そうですか。印税も入りますよ。』


私『夫の給料で十分ですし、私が貯金もちゃんとしていますから、印税なんていりません。』


島田『旦那様が不慮の事故に遭われたらどうします?専業主婦のあなたでは貯金を食い尽くすのを待つだけでは。』


私『不慮の事故・・・まさか!?』


私は急いでサムの携帯に電話をかけた。


佐村『ストップ、ストップ。ドラム走ってるぞ。』


仲谷『ごめん。佐村達とのセッション久しぶりだから。もう一回行こう。』


佐村『いや。今日はそろそろいいんじゃないか。ダメなときはとことんダメだからさ。俺も含めて・・・ちょっとバイブ鳴ってる。』


私『サム、無事!?』


佐村『無事?何、言ってんだよ、お前(笑)』


私『良かった・・・実はね、家にフリーライターを名乗る人が来てるの。島田さんって人。知ってる?』


佐村『島田・・・俺はライターの知り合いはいないしな・・・要件は?』


私『私の半生を書きたいんだって・・・。』


佐村『・・・無理だろ。』


私『うん、そうだよね・・・丁重にお断りするよ。サムが良いって言っていても断っていたと思うけど。』


ピッ


島田『旦那様の安否の確認は取れましたか。』


私『・・・申し訳ありませんが、お断りさせてもらいます。今の私は幸せなんで。』


島田『本当に幸せですか。』


私『・・・』


島田『郵便受けに私の連絡先を書いた紙を投入しておきます。気が変わったらいつでもご連絡を。では。』


島田の言ったとおり、郵便受けには島田の連絡先と思われる番号が書かれた紙が入っていた。


本当に幸せですか。


なんだろう・・・私は二人の子供に恵まれて、一軒家に住んで、サムの稼ぎだけで将来安泰だし、人見の助言どおり炊事以外は程々に頑張ることを許されてるし、幸せなはず・・・。


ガチャ!!


苗『たっだいまーっ!!みてみて!!模擬テスト・・・だけど・・・100点・・・ママ?』


私『ぐすん・・・す、すごいじゃない。本番も頑張りなさいよ(笑)。』


苗『・・・あー、ズルしたと思ってるでしょ。せっかく頑張ったのに。』


苗が拗ねた。そんなつもりはなかったのに・・・そういえば、ここしばらくは嫌なことがあっても、何食わない顔を作ってたっけ・・・サムはともかく、子供たちにはなるべく、私の疲れた顔は見せないように過ごしてきた。だから拗ねちゃったんだ・・・叱るときはしっかり叱る、褒めるときはたっぷり褒める・・・そんな母親にならなくちゃ、ならなくちゃ、ならなくちゃ・・・。


バタッ・・・


苗『ん、何の音・・・あ、ママ!!』


私は目覚めると白い壁を仰向けで眺めていた。周りには誰もいない。個室のようだ。


ガチャ


私『苗・・・?』


島田『目覚めましたか。』


私『え・・・フリーライターの島田さん・・・苗は・・・苗は!?』


島田『落ち着いてください。娘さんは自宅です。本番のテストでも満点を取ると意気込んでいましたよ。』


私『あ・・・サムに電話しなくちゃ・・・。』


島田がニヤッと笑った気がした。


島田『あ、ご自宅に携帯電話は忘れてきてしまいました・・・申し訳ない。』


私『・・・ここは病室ですか?』


島田『はい。窓はないですが・・・それ以外の何に見えます?』


私『・・・。』


島田は部屋から出て行った。苗は自宅か・・・時計もない・・・今、何時なんだろう・・・。


苗『ぁぁ!!ぉぉぃぃぅぉ!!』


島田『しー・・・あんまり、煩いと・・・。』

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