ヴィリスとサラマナ
一人の黒髪の少女がレッドカーペットが敷かれている廊下を歩いている。この少女こそ、世界で十指に入る大国であるギリエル王国の王女、ヴィリス・ギリエリスである。蒼い切れ長の眼、透き通るような肌はまるで絵に描いたようだ。彼女は氷の魔法使いであり、ギリエル魔法科学園で魔法の技術を磨いている。長い廊下を抜けると、彼女を送るための馬車が待っていた。彼女は自分の住んでいる館に向かって
「必ず優勝してみせます!行ってまいります!」
と叫んだ。今日は魔法対戦大会である。1ヶ月間に渡り、魔法使いが自分と同じ能力を持った分身で闘う。その様子は全世界に中継される。トーナメントの優勝者には莫大な財産や名誉、魔法学校の学長になれる権限などが与えられる。この日の為に世界中の魔法使いや魔法学校の生徒や武道家が練習を重ねてきたのだ。
彼女が馬車から降りると、たくさんの同級生の女子が迎えに来ていた。彼女は「姫様」と呼ばれ、ファンクラブができるほどの人気がある。よく手入れされていて、色とりどりの花が咲いている中庭を通り、装飾が施された大きな校舎に入る。彼女は何人もの女子を引き連れて教室に入る。そこに指どおりがよさそうな茶髪を一つに纏めたスタイルの良い女子がいた。ヴィリスの親友であり、初日の対戦相手であるサラマナである。
「おはようヴィリス。ヴィリス相手でも手は抜かないよ。よろしくね。」
「こちらこそ。私たちが対戦するのは何回目かしら。」
二人は同じクラスで成績も同じくらいなので、よく魔法の実践授業で対戦する。いわゆる腐れ縁である。
「まだ対戦までは時間があるけれど、何をするの?」
「対戦の準備もとっくに済ませているから、暇になるね。」
この大会の持ち物に関してのルールは指定の服を着ること以外は無い。武器や火薬の使用も許可されている。魔法さえ使えればこの大会に参加することができるのだ。ヴィリスは前日に全ての準備を終えていて、この後の時間をどう過ごすかは決めていなかった。
「良かったら、私と屋台を見に行かない?」
サラマナの提案にヴィリスは頷いて同意した。
「行きましょう。」
彼女は後ろのファンの女子に向かって振り返りながら言った。