血の宴2
ボクはこれでも貴族の当主だ。
領地を立派に治めているし、領民達からはごく普通に慕われている。
ペット達からすれば、この程度の地位よりもボクという存在の意味の方が強く、人間の決めた階級などは些末なものらしいけど。
ボクに似合うのは王の座だとかいうお馬鹿さんもいて救いようがない。
人間達の王になど、なろうと思えばすぐにでもなれる。
でも傀儡の王がいるのに、自分が王になるなんて馬鹿なことはしない。
平和が一番だし、ボクが面倒くさい思いをしなきゃならないのは嫌だ。
暴動など起こされたら皆殺しにして、そのうち国中皆殺しにしてしまいそうだ。
それはさすがにまずいとボクでも思う。
だから今の適度な地位で満足している。自分で直接管理できるぐらいがちょうどいい。
国民は別にどうでもいいけど、ボクが幼い頃から祝福してくれている領民達は愛おしいし。
貴族なら、名乗るにしても多少の箔がつき、ただの子供としては扱われない。
今だってほら、家紋をちらつかせたらとりあえず中に入れてくれて、相手をしてくれている。
「まだお若いのに、ご両親を……。おかわいそうに」
目の前の男は、心にもないことを言っているのだろう。ボクはすでに冷徹と有名になっているらしい、怖い怖い少年王のお友達だ。
ベルとリファが取り繕っているが、視線をボクから外さない。まるで異質な物を見ているかのようだ。
きっとボクのことを、目の前に立つ人間すべてに忠誠か死の選択を迫ると思っているのだろう。まだ自分達がボクに何もしていないのに乗り込んできたから、不思議に思っているのだ。
ボクは別にケダモノではないから分別はある。
理由がなければ何もしないのにね。
「しかし我が屋敷の使用人を保護していただいたようで、なんと礼を言ってよいか」
「殺されるって逃げてきたのに、保護とか笑えるよ」
ボクはくつくつと笑う。ボクは虎の威を借る狐のように見えるだろう。
ボクの背後には王様がいるから、媚を売るって誤魔化すか、始末しなければならない。
しかしボクは王様にすすめられてここに来ていると告げたから、始末は最悪の手段だと分かるだろう。
偵察にやっていたペットがボクの印の中に戻ってくる。
家の中ではむき出しにしているが、外ではズボンで隠しているのから入るのに少し手間取ってくすぐったい。
本当はロングブーツもはきたいのだが、自分の趣味のために自分の身を危険に晒すのも馬鹿らしい。
腕ならもっとやりようもあったのだろうに、これに関してだけは困っている。
下腹や尻にある者に比べればずいぶんと軽い『困った』だが。
しかし戻ってきたペットが面白いことを囁いた。
情報というのは、多く持っている方が、上から見下ろすには都合がいい。知っていればより楽しめる。
「ボクはねぇ、あいつに面白いことがあるからここに行けって言われたんだ」
「あいつとは……陛下のことで」
「そう」
もちろん嘘だ。あの無口な男が必要以上のことを語るはずがない。
連絡用に置いてあるペットが驚くぐらい人間の子供らしくないのに、わざわざボクに必要のないことを言うはずがない。
必要があることでも悟れという、ボクを信頼しきった態度を取る。
主として悟ってあげなければならないので案外難しい子だ。
悟れないような無能な主はいらぬとでも思っているだろう。
「ボクは退屈なんだぁ」
足を組みにやにやと笑ってみせる。
ボクは自分で言うのも何だけど、性格は悪い。
とっても人が悪いのだ。
「何か楽しいことなぁい?」
わかりきったことを尋ねてみる。
可愛い子供の姿をしているボクの特権だ。
子供だが、大人に混じれなくもない歳で肉体の時間が止まってしまった、ボクの特権。
「血の臭いが染みついてる家だから、きっと何かあると思ったんだけど」
答えなど決まっている。
問題は、この男がどう捉えるか。
生きるか死ぬかの選択だ。この男はどんな選択をするのだろう。
ボクは頬杖をついて待った。
「そうですか。陛下はこのようなことに興味が」
男はぐふっと気色悪く笑った。
ケトルは血塗られた王だ。
実際にやらせたのはボクで、やったのはペットだけど、世間的には彼がやったなどと疑われている。
もちろん誰もそのようなことは表立って口にしないが、皆そう思っている。
無実のケトルにペット達の罪を着せてしまったが、彼もペットのようなものなので何も問題はない。
ボクが楽しむのは、人が追い詰められた時にどうするかだけだから、彼が追い詰められることがあるなら見物なのだ。