閉じられた瞳
そ、そろそろ大詰めの様です。
衝突音が響き、トラックのタイヤが悲鳴を上げる。
初夏の昼下がりの白けたような視界の中、ひときわ鮮明な血の赤。
ジワジワと黒いコンクリートを侵食するかのように広がるその色は余りにも現実味に欠けていて。
……少女はその一瞬の出来事を惚けた様に眺めていた。
手足は震えていて力が入らない。
四つん這いで恐る恐る近づく。
そして男まであと少しという所でむせかえる様な血の臭いにえずいた。
男の両足は太ももから先がなくなっていた。
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熱い。
足が熱い。
胸が熱い。
肩が熱い。
頭が熱い。
そしてそれらの熱が唐突に身を引き裂かれる様な痛みへと変わり、男は呻きながら目を開けた。
どうやら仰向けで倒れており、顔が横を向いている様で、生暖かいアスファルトが顔の横にあり、周りの物が酷く大きく見えた。
そして、その視覚は妙に暗くて霞んでいて遠かった。
何が起こった?少女は無事か?
はっきりしない意識の中でそんなことを思い、周りを確認しようと頭を動かそうとしたが、何処かにぶつけたのか、後頭部に鋭い痛みが走ったので男は出来るだけ動かないことにした。
ぼんやりと少女がやって来た。
霞んだ視界でも分かった。
少女は泣いていた。
よかった、無事だったんだね。
そう言って安心した男は満足気な微笑を浮かべる。
「_____」
ぽろぽろと大粒の涙をこぼしながら少女が何か言ったが、近くにいる筈なのにやけに声が遠く聞こえていたせいで、少女の言葉が責める様な口調だったことしか男には分からなかった。
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視界が更に霞み、歪み、暗くなって少女の顔も見えなくなった。
傷の熱さとは対象的に、指先は冷たい。
男は血と共に体温が流れ出るのを感じていた。
そして、意識が途切れる間際に男は再び少しだけ満足そうに微笑むと、霞んでもう何も見えなくなった瞳を閉じた。
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……
野次馬。
ざわめき。
交差点の端。
サイレンの音。
そして、
目を閉じた男。
その顔は
腹が立つくらいに満足そうで。
泣きたくなる程幸せそうで。
少女はその後、何がどうなったのかよく覚えていない。
テストです。
え、テストなのにこんな物書いてて大丈夫かって?
……大丈夫じゃないに決まってるじゃないですか。
※因みに、男は足がなくなっていることに気付いていません。