不幸が見える男
不幸が見えてしまう男の話です。
切ない恋の話を目指そうと思うので報われない話が苦手な方は『Uターンプリーズ!!』(なまらいい発音)です。
男は珍しく家から出て、ファミレスの窓際の席に座り街行く人の波を眺めていた。
暗い茶色の髪は伸びっぱなしでうしろで束ねている。前髪が顔を隠して表情はいまいちよくわからない。
注文したハンバーグはまだかと待っている男の目には様々な不幸が映っていた。
ウエイトレスが注文したハンバーグを持って近づいてきた。と、早速彼女の不幸が目に浮かぶ。
多分…というか絶対彼女は急に飛び出した子供にぶつかって転ぶ。また待たなきゃいけないか…。
その時彼女が進もうとした場所の席に座っていた小さな少年がトイレ!と言うと椅子から降りて走り出そうとし、ウエイトレスにぶつかった。ウエイトレスが子供を巻き込んで転ぶ。当然ハンバーグをぶちまける。あーあ…。
ウエイトレスが慌てて起き上がる、子供が泣き出す。ウエイトレスは子供の親に謝っている。あれは確実に子供が悪いのにな……と思いながらドリンクバーの白ブドウソーダを飲む。と空になったのかズゾゾゾゾーと結構大きい音が出てしまった。慌てて口を離す。
ひと段落ついたのかさっきのウエイトレスがこっちに寄ってきて商品は落としてしまったのでもう少し待ってくれないかと謝罪してきた。いえいえ、あなたも大変ですね、頑張ってください。と慰めてみる。ありがとうございます、と若干涙目で言われた。
またハンバーグを待っていると窓からチラリと制服を着た少女が見えた。そして、少女の不幸が脳裏に焼き付く。
赤、赤、赤。
真っ赤に染まった不幸。
思わず立ち上がり全力で走って店を飛び出す。あれ、お金払ったっけ?そんなことがチラリと浮かんだが気にしないことにした。後ろで無銭飲食だとか聞こえたが全力で無視して走る。
交差点で少女を見つけた。
ずっと家に篭っていたせいで体力が衰えていた様で身体が軋むが無視して走り、少女を突き飛ばす。
そして、交差点を曲がろうとした資材運搬のトラックの固定紐が解け、大量の金属ポールが降ってきた。
……だから家から出たくなかったんだよなぁ。
ポールをまともに喰らい、飛びかけている意識の中、とても無機質な誰かの声を聞きながらそんなことを思った。……まあ今回は助けられたからいいか。
そこで男の意識は途切れた。
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男は物心ついた頃から他人の不幸が未来予知という形で見えた。
目に入った人、知っている人の些細な不幸、大きな不幸。ありとあらゆる不幸を無差別に。些細な物は実際よりは色褪せて、人が死ぬ様な物は赤く染まって見えた。
様々な不幸を見るうち、多感な少年は心を壊した。
それからは人と会うことを拒み、家に篭りきりになった。
両親が死んだ今では、人に会わなくてもいいという理由で個人ブログのデザインなどをネット上で数万円で請け負ってちまちまと稼ぎ、生計を建てている。
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目覚めた時、見知らぬ白い天井が見えた。あれ?ここどこだっけ??と周りを見回そうとすると貫かれる様な激痛に襲われた。
その痛みで思い出した。
少女を助けて自分が不幸をかぶった。でも何とか助かったみたいだ。
女性の看護師さんが点滴を変えようとしたのかやってきて自分が目覚めている事に気づくと慌ただしく医者を呼びに行った。
その後、医者から怪我の状態の説明を受けた。あちこち骨折していたが内臓破裂とかは無いらしいから大丈夫だろうとの話だった。
あと個室にしてもらった。
病院なんてどんなとんでもない不幸を見てしまうか分かったもんじゃない。
登場人物には会えて名前をつけていません。男は一貫して男のつもりです。
……べ、別に名前を考えるのがめんど臭かったからとかそういうのじゃないんだからね!!/////