難題
さて、時刻は1時40分。いよいよ文化祭もピークに達し、だいたいの生徒が高揚感こそ持っているもののやる事はやり尽くしてしまっている状態であろう現在になっても、僕は体育館に全校生徒を集める方法を欠片も思い付いていなかった。
「そもそも無茶振り過ぎると思うんだよな」
そう、一端の学生に何百と言う規模の人間を動かす力なんてないのだ。それこそ教師や生徒会長と言った肩書きを持っていたとしても難しいだろう。ましてや僕は少し勉強が出来るだけの二年生。特別人望を集めているわけでも無い。友達にお願いしていったらなんとかなったなんて夢のまた夢だ。
「……ふむ」
しかしここで諦めるのはどうにも釈然としない。せっかく任された仕事だしな。
少し考えて、僕は一人では埒が開かないと結論した。気は進まないが、こういうおかしな事を質問できる友達はあいつくらいだろう。
「──というわけでお前に質問があるんだが」
「なになに、どういうわけだよ」
漫画的ごまかしは通用せず、急展開な会話に当然のごとく首を傾げる義光。
どうせ居るだろうとは思っていたがまんまと自分のクラスへと戻ってきていた義光は、紅茶のペットボトルを一口仰ぐと僕より先に話し始めた。
「それより聞いたか? 上田が斉藤に告ったらしいぜ!」
「おいおい本当か」
上田君と言えばウチのクラスの男子の中でも奥手な印象が強い奴だ。その上田君が告白などとは思いもよらなかった。ましてやお相手は我がクラスの元気印こと斉藤さんだ。二人が話しているところなんて見た事がない。
「マジですよお兄さん。信じられねえ気持ちは分かる。俺も最初は信じられなくて7、8回は聞き直したからな」
「それは聞きすぎだろう」
「しかも上田本人にだ」
「お前最高にうざい奴だな!」
いや、上田君も告白した当日くらい周りに振れ回りたかったかもしれないな。それなら何回も自慢させてくれた義光は最高の人材だっただろう。
「おっと、それで結果はどうだったんだ?」
これで上田君フラれてたら義光ウザすぎるな。
「成功だよ。なんかあの二人結構仲良かったみたいだぜ?」
「そうなのか? 喋ってるとこなんて見た事なかったけどな」
「ああ、家が近所らしくてさ。学校の外では結構顔合わせてたりしたみたいだ。なんでも近所の公園で上田がハーモニカを吹いてたら斉藤が自宅の窓から手を振ってくれたってのが出会いのキッカケらしいぜ」
妬ましい話しだよなぁ、と義光が付け足した。
上田君とハーモニカか、凄く似合うな……。まあ彼なら鍵盤ハーモニカでも似合いそうだが。全体的に幼い感じだ。
「そうだそうだ。また告白の仕方が粋なんだよ。なんと出会いのキッカケになったハーモニカを中庭で吹いて斉藤を呼び出したらしいぜ。やるよなぁ、俺は正直上田を見くびってたわ」
中庭は北校舎と南校舎の間にあるのでこの教室からでも見える。さすがに文化祭の喧騒の中楽器一つの音を聞き取るのは難しいかもしれないが、ウチの文化祭はそこまで賑わっていないし、頻繁に聞いている演奏なら耳に残るかもしれない。
それにしたって凄い度胸だとは思うが。
「それじゃあ、上田君に乾杯だ」
「なんだそれ。乾杯」
自分のクラスで買ったペットボトルを軽くぶつけて杯を交わすと、そこで上田君の話題は終わった。
なんせこっちには本題があるのだ。
「なあ」
「ん」
「……」
どうやって尋ねようか。
義光相手だからと軽く見て全く質問の仕方を考えていなかったが、どうやったら全校生徒を体育館に集める事が出来る? なんて突然聞いたらちょっと痛い奴になってしまうだろう。
相談相手からの印象が大事ならそんなことは出来るはずが無い。
「どうやったら全校生徒を体育館に集める事が出来る?」
思えば義光からの印象なんてどうでも良かったね。
「は? んなことしてどうすんだよ。終業式でも始める気か? よし、是非やれ」
「現実逃避はいいがどう足掻いても文化祭の後には期末テストが待ってるからな。そうじゃなくて、なんか方法ないか?」
「はー、そんなこと言われてもなぁ。あ、体育館と言えば、なんか今体育館に変な部外者が何人かいるらしいぜ。体育館の出入口も通行止めにしてるんだとよ。改装業者を名乗ってるらしいけど責任者っぽい男が若すぎるしイケメンで信憑性が低いって話だ。野次馬心で結構人集まってるみたいだぜ?」
……確かに、僕が体育館から出たときもちょっと不自然なくらいの人がうろうろしていた。おかしいなとは思っていたんだけど、まさかもう悠達がそんなに目立っているとは。いや、まさかじゃなくやはりか。
しかしその手があったか。悠達の事を誇張に言いふらしていけば皆興味を惹かれてくれる。かもしれないってわけだ。手始めに目の前の馬鹿から行こう。
「へー、そんな事になってんのか。実は僕もそいつらについては一つ知ってる事がある」
「お、なんだなんだ。以外な情報源が生まれそうだな」
案の定食いついてくる義光に僕は良い笑顔で返す。
「実はあいつら宇宙人だぞ」
「マジで!」
「あぁ、今なら火星人の美女を紹介してくれるらしい」
「……いや、火星人はちょっと。……タコだろ?」
「責任者の男はイケメンだったんだろ?」
「!! ちょっと俺行ってくるわ!」
と、全速力で体育館へとかけていく僕の親友。
さすがにここまでチョロくはないだろうけど成功例が一つできると前向きになれるな。よし、まずは噂好きそうな女子に流していこう。
あぁぁあぁ、月曜に間に合いませんでした。
すいません、本当にすいませんでした。
ここまで読んでくれて真にありがとうございます。




