表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/11

キャラバン:篠田輔


「悠! いるかー! 悠!」


 委員長と別れた後、全速力で体育館へ戻って来た僕はそう声を張り上げた。

出るときは騒音に満たされていた体育館は随分静かになっていて、僕の声が予想よりも大きく響く。


「なんだなんだー? そんなにデカイ声出さなくても聞こえるぞ。どうした、輔。人集めは終わったのか?」


 元々あった舞台よりも5メートルほど手前へとせり出した立派な舞台から悠が現れた。相変わらず上等な服装にだらしが無いネクタイの組み合わせだ。


「客引きの方はまぁまぁだ! それのことで聞きたいことがあるんだけどさ。いつ頃に人を集めたらいいんだ?」

「いつでもいいぜ。こっちの準備はもう出来てる」


 なるほど、それで他の連中がいないのか。ここでの仕事は終わって休憩なり帰宅なりしているんだろう。


「分かった。じゃあ今から動き出す。成功するかは分からないけどな」

「そこは成功させてくれよ」

「僕だって失敗させようとは思ってないよ」


 それだけ言って出口へと振り返る。

吹奏楽部に準備をして貰っているんだ。言いだしっぺの僕も急いでいかないと。


「あ、そうだ輔」


 去り際の僕の背中を悠が呼び止めた。


「お前さ、まだ帰りたいのか?」

「? 何がだよ」

「いや、別にいいや。任務達成まで頑張ってくれよ」

「任務って……おおげさだなぁ。まあ任せとけって」


 今度こそ出口へ走り出す。

あぁそうだ。途中で台車を借りていかないとな。




   ∮




 学校の階段っていうのは比較的緩やかな作りになっている。はしゃいでる間に転げ落ちたりする奴がいるからだ。

だから登るのはそんなに苦労しないものなんだけど、台車を両脇に抱えた状態の僕は今にも死にそうだった。


「くそっ、二回に分けりゃあ良かった!」


 委員長と吹奏楽部との待ち合わせ場所は北校舎の四階端。校舎を俯瞰してコの字型に見た場合なら左上にあたる部分だ。


「あら、篠田君遅かったじゃない。あなたが急かすからこっちはもの凄く急いで楽器を運んで来たのよ。まあ義光君と上田君が、だけど」


 やっとの事で目的地に着くと、汗だくで横たわっている男子二名と吹奏楽部の面々が出迎えてくれた。吹奏楽部の生徒は皆一様に僕を不思議そうに見ている。

そりゃあそうだ。彼女らは演奏会が終わって一息ついているところだったのだ。そこに僕が変なお願いをしたもんだからこんなところまで楽器を運ばされて、まずはお礼を言わないとな。


「えーっと、皆、今日はごめん。あー、僕は篠田輔、ほとんどの人は知らないと思うけど、一応二年六組で、委員長、じゃない、部長と同じクラスなんだ」


『えー、私知ってるよー。あれでしょ? すごい成績良いって人でしょ』

『あー、聞いたことある。全国模試でも結構上まで行くとか。あんずちゃんより成績いいんだって』

『そんなに賢いんですかあの人っ。お願いしたら勉強とか教えてもらえますかね?』

『成績良い人ってもっと大人しい人だと思ってたわ。まさか急に演奏の予定増やされるとはね』

『まああたしらなら余裕っしょ。見返りに勉強でも教えてもらやぁいいし』

『ウチも前のテストひどかったからなぁ……』


 なにやらヒソヒソとしているが、悪口じゃなかったらいいな……。


「それで今日は、急にこんなお願いしてしまって申しわけないです」

『それはさっきも聞いたよー!』

「えーと、あぁ……」

「ちょっと見てらんないわよ篠田君。あなたは何かしらの理由で吹奏楽部にお願いしてきて、私達はそれを承諾したからちょっくら始めちゃおうぜ。ってことでしょ?」


 僕がまごついていた事をえらくザックリ言ってしまう委員長。

そこまで横暴な言い方をするつもりは無かったのだけど、概ねその通りだ。


「そう、そうなんだ。今日は僕のわがままに協力してくれてありがとう。僕がやりたいことには皆の力が必要で、僕一人では出来ない事で、だからありがとう」


『良よ良よー!』

『まかせんしゃい』


 快諾してくれる吹奏楽部の皆にもう一度お礼を言う。


「準備はあとどれくらいで出来る?」

「大きいものを篠田君が持ってきてくれた台車に乗せたらすぐにでも」

「じゃあ始めよう。こっちの準備ももう出来てるみたいなんだ」

「曲は校歌でよかったのよね」

「うん」


 準備を終えた吹奏楽部部員が楽器を構えて待っていた。

僕は横たわっていた義光を蹴り起こし、上田君にはハーモニカを吹くようにお願いする。


「義光、上田君はハーモニカ演奏だ。……俺達が何をするかは分かるな?」

「……おい、まさか」

「歌うぞ」

「ちょっと待てって! そんな恥ずかしいマネできるか!?」


 義光はまだグダグダ言っていたが、委員長がイントロを始めてしまったのでその声はかき消された。

我が校の校歌はトランペットから入り、パーカッション、トロンボーンとどんどんアップテンポになっていく元気な曲調をしている。

 様々な管楽器の音を取り込んで勢いよく色づいていく演奏隊は、歌が入りだす直前に音符に背中を押されるように歩き出した。


「かがやーくー大地ーにー学ぶー我らがー♪」


 僕が上田くんと斉藤さんの話を聞いて得た人集めのための方法のヒントは、まんまハーメルンの笛吹きと同じものだった。

 ウチの学校で唯一マジメに活動している吹奏楽部のレベルは高い。近所の祭でパレード演奏の依頼を受けるほどだ。

 だから僕も彼女らにパレードの依頼をしたのだ。校舎の一番遠い位置から体育館へのパレードをすれば相当人目に付くし、望み薄ではあるが、暇を持て余しているウチの生徒なら着いてきてくれるかもしれない。そうやってウチに生徒をハーメルンの笛吹きよろしく引き連れて体育館へ向かおう、というのが僕の腹だ。


「教えをー説くー我らの瞳をー!!」


 歌い始めた僕の隣で、やけになったように義光が歌い始めた。

綺麗な演奏の上に僕達の上手いとは言えない合唱が乗る。


「白亜の窓辺にーいまー筆をおきー!!」


 パーカッションを乗せた台車を義光と二人で担ぎながら三階に下りてくると、ついに多くの生徒と出くわした。

 皆一様にこちらを見ている。馬鹿みたいに口をあんぐりとあけている者もいる。

まあ、明らかに馬鹿は僕らのほうだが……それでも僕は、義光も、歌うのを止めなかった。


「赤き夕暮れにー身を焼かれようとー!!」


 大観衆の中を演奏隊と共に突っ切っていく。

先頭を歩く僕らはもろに奇異の視線を受けた。廊下で駄弁っていた生徒はもちろん、店番をしたいたと思われる生徒まで外へ出てきて僕らを見ている。演奏の音で隣の義光の声も微かにしか聞こえない中、それは孤独との戦いのように感じた。


「明日にともるーかがり火をー掴むその手はー!!!」


 少しでも大きな声を出そうと肺に空気をかき入れる。

義光に負けない大きさで歌おうと必死に声を出した。義光の声が大きくなったら僕も更に大きく歌った。

 歌う僕らの顔は羞恥と酸欠で真っ赤になっているだろうが、まあそれもいいだろう。


「今を生きー! 未来を描く我らはーー!!!!」


 ついに三階の端までやって来た。

永遠のように永く感じたが、まだ二階も回って体育館まで行かなければならない。

今度のパーカッションの移動は義光と上田君がやってくれる事になっていたので、階段まで来て義光が後ろへ消えていった。先頭が一人になると急に不安になる。


『ああー!! 永きにわたる我らが歴史よー!!』


 二階に下りても生徒の反応は一緒だ。

皆唖然として固まっている。ビンタでもして正気に戻してやりたい気持ちだ。

 二階に下りるとすぐに義光が戻ってきてくれた。ニヤニヤ笑いながら僕の肩を強く叩く。

大音量の中で感覚が麻痺しているのかあまり痛くは無かったが、とりあえず殴り返した。


『どれほどのー時がー経とうともー!!』


 二階も同じように通り抜け、ついに南校舎へと向かう渡り廊下を抜ける。

南校舎には職員室がある。先生達がもしも出てきたら僕が責任者として怒られなければ。

悠達の計画のためとは言え、これを始めたのは僕なのだ。


『ああー!! 我が友よー! 共に学びを育む友よー!!!』


 ついに職員室から先生達が飛び出してきた。

体育教諭の山本先生が驚愕しながらもこっちに詰め寄ってくる。

覚悟を決める。先生に怒られるのは嫌だし、定額や退学も遠慮したいところだが、そんなものよりあの邪魔者を退ける方が大事だろう。今僕は結構楽しんでいるのだ。


「先生すいません! 邪魔しないでください!!」


 だが、だが、事は僕が出張る前に終わった。

僕の後方から現れた何人かの男子生徒が先生を職員室に押し込めて扉を閉じてしまったのだ! ご丁寧な事に箒を使ってつっかえ棒までしてしまう。先生達は一時的に職員室へ閉じ込められた。


『共に明日を掴む者達よー!! 共に明日へ歩む者よー!!!』


 ふと、振り返る。

先生を制止するために僕が歌うのを止めたにも関わらず止まない合唱。とても義光一人で出せる声量ではなかった。


『いざ行こうー!! 我らが先へー!! ここより先へー!!』


 渡り廊下に収まりきらない行列。

何十、何百という人が共に声を合わせて歌っていた。

肩を組んでラグビーのスクラムのような格好で歌う彼らはとても楽しそうだった。

馬鹿みたいに大きく口を開けて叫ぶように歌っている。


『らーらーららーらーらーらーららららーらー!!』

 

 僕も前を向き直って共に歌いだす。

目的地の体育館はもうすぐ目の前だ。開け放たれていた扉を行列はくぐって行った。

ここから先は先頭に立つ僕もほとんど知らない。

悠、僕は一応言われたことはやったぞ。お前は何を見せてくれるんだ。


『らーらーららーらーらーーらーらーらーらーーーーー♪』


 吹奏学部の演奏が終わり、辺りがざわめきに包まれる。

今更何事かと笑い出す者や、暗幕の張られた真っ暗な体育館に目を凝らす者、皆多様な反応を見せていたが、その全てが甲高い機械の悲鳴にかき消された。

 キィィィイン!! と

マイクのハウリングの音が四方から響く。見ればそこら中の壁に大型のスピーカーが取り付けられていた。


「んっんー! あー! あー! いやーわり、わり。こんなデカイ音すると思わなくてさ。耳大丈夫かー?」


 ハウリングが鳴り止む頃に真っ暗なステージの上にピンライトを携えて一人の男が現れた。締まりの無い話し方の男は悠、とだけ名乗った。


「いやさー、俺ら今日はお前らと商売をしようと思って来たんだけどさ。まさかもう品切れになるとは……いやはや参ったねー」


 悠が訳の分からない事を言うのにはそろそろ慣れた僕はともかく、皆はひどく混乱しているようだった。あいつ誰だよ、と。

 だけど悠にはそんな疑問を叩き伏せる妙なカリスマがあった。


「俺達はキャラバン。全国を商売して歩いてる。本来なら退屈を買い上げて青春を売っぱらうんだが……」


 そこで悠は僕の方を見た。

あくまで見た気がした。というだけだが、何せ距離が離れている。


「お前らもう退屈してないみたいだし、今日は大サービスだ!! 全員タダで持ってけドロボウ!!!」


 悠が叫ぶと、バチンッ、と言う音と共に暗かったステージに眩しいばかりの照明が炊かれた。

ステージライト、スポットライト、多色電光、全てが全力で照らし出したステージには一組のバンドが立っていた。


『ちょっと待てよ!! あれもしかしてトリトリか!?』

『おいおいおいおい!!! マジかよ!! 有り得ないだろ!!』

『キャアァァァァァア!!!!』

『前行こうぜ!! 前! やべえぇぇ!!!』


 デパートの特売のように生徒達が走り出す。

生憎僕はトリトリと呼ばれたバンドは知らないが、相当な人気があるようだ。

そしてこれは僕個人の衝撃だが、バンドメンバーの内二人が知り合いだった。

 すぐさま皆はライブのムードへとなっていく。高校の文化祭に芸能人が来訪なんてこと普通はないからな。皆楽しそうだ。

 だが、生徒達の興奮はそこに納まらなかった。

一曲目のイントロが始まり、僕も驚愕する。


『輝く大地に学ぶ我らが志はー♪』


 さっきまで歌っていたから良く分かる。

驚いたことにボーカルを務めている莉奈の歌った歌詞は我が校の校歌と同じものだった。


「こ、これって!!」


 ウチの校歌のロックアレンジか!

 ここに来て生徒達のテンションはマックスを振り切った。憧れのバンドが自分の学校の校歌をアレンジして歌っている。人生単位で考えてもとんでもない事件だろう。


「あっはははっはっは!!」

「あら? 何を笑ってるの? 篠田君」


 喧騒の後方で僕が一人笑っていると委員長が耳元でそう尋ねてきた。

急に話しかけられたが、不思議と驚きはしなかった。


「いや、敵わないなぁと思ってさ」

「誰に?」

「またまた、分かってるんだろ? 悠にだよ」

「……あら、バレてたの?」

「今気付いたんだ」

「どうやって見抜いたのか、聞いてもいいかしら」

「んー、特に見抜いたとかっていうカッコイイ根拠じゃないんだけど」

「だけど?」

「なんというか、委員長はタイミングが良すぎるだろう?」


 それは例えば、帰り道。委員長が裏門から出る事を勧めてくれていなかったら悠達と出会う事はなかったし、思えば委員長がもう一つだけお願いを聞いてくれると言っていたのも頼ってくる事を促してくれていたのではないだろうか。


「それだけ?」

「いや、もう一つある」

 

 【本当にこっちで合ってるのかい?】

 【まー大丈夫だろ。あんずがここ通って来いっつったんだぜ?】

 【確かに彼女の言うことなら信用できるけど、凄く行き止まりくさくなってきたよね】

 【だーいじょぶだって】


 最初に悠と隼斗さんと会ったときの二人の会話だ。

 

「委員長って本名なんていったっけ」

「御堂あんずよ。失礼ね。覚えときなさいよ」

「いや、ふわ~、っと覚えてたよ。それで気付いたんだしね」

「ふぅん、まあいいわ。じゃあ行きましょうか」

「どこへ?」

「いいから」


 まぁいいか、と委員長の後をついていく。

どこへいくのかと思ったが、委員長が向かったのはすぐそこ、体育館の舞台裏だった。


「はい、着いた」

「言うほどの距離じゃなかっただろ」


 舞台裏も相変わらず薄暗くて、人の輪郭くらいしか見えない。

今ここには4、5人しかいなかった。他のキャラバンのメンバーはスポットライトなどを動かす役目に従事しているのかもしれない。


「よお、輔。調子はどうだ」


 人影の内の一人は予想通り悠だった。


「どうだろな。凄い大役を果たしたと思ったら全部悠に持って行かれた、みたいな?」

「ハハッ、わりぃな。でもなかなか楽しいもんだったろ? 主役ってのは」


 ……あぁ。

あれが主役ってやつだったのか、と今になって思う。確かに、あれは僕のあこがれていたポジションかもしれない。とっくに諦めていた場所だったかもしれない。


「悪くなかったよ。最高の気分だった。最初は怖かったけどな」

「当たり前だ馬鹿。そんなの俺だって毎日怖ぇよ。だけど楽しいからやめらんねーんだ。大人になんか成ってたまるかってんだよな」


 いや、悠はもう少し大人になって欲しい気もするが。


「そこで、この楽しさを知ってしまった輔に聞きたい事があるんだが」

「なんだよ」

「俺達の商隊に入らないか? つまりまあ、キャラバンの仲間にならねーか?」


 なんという魅力的な誘いだろう。

おそらく、こいつらは年中こんな楽しい事をやっているのだ。それはキャラバンのメンバーの顔を見れば分かるし、悠の人となりからも分かる。僕は無人花火大会の犯人もこいつらなんじゃないかと思ってるほどだ。だが──


「いや、止めとくよ」

「……両親の事が理由か?」

「!!」


 そうか、そういえば委員長はキャラバンの一員なんだから悠がその事を知っていてもおかしくない。

確かに、僕の両親は執拗なまでに僕に勉強をさせようとする。それはもちろん僕のためを思ってなのだろうが、勉強以外の事を許さない徹底ぶりは若い僕にはうっとうしいものだ。


「……そうじゃない」

「へぇ、本当にか?」

「本当だよ」

「なら、証明できるか?」

「どうやってだよ」

「こうやってだよ。あんず、電気」

「分かったわ」


 委員長が返事をして、パチっと舞台裏の電気を付けた。

古びた電球は数秒間瞬いて、光を灯した。


「え?」


 父と母。

舞台裏に見えていた人影の輪郭の内残りの二つは僕の両親の物だった。

二人は僕がここへ入ってくる前からずっとここにいたのだ。

それを見て、僕は、

 

「あっはっはっはっは!! もしかして父さんと母さんも悠に拉致られたのか!? いい年して何やってんだよ。ご近所で噂になっちまうぞ。篠田さん家一家揃って拉致られたらしいわよ! っつってな!」


 笑っていた。笑えていた。

腹を抱えて笑う僕に父が怒鳴る。


「お前は何を笑っているんだ!! 約束の時間にも家に帰って来ずに! 勉強はどうするつもりだ!!」


 そう言って怒鳴る父はなんだか状況に翻弄されているようで、ひどく精一杯に見える。


「分-かってるよ! 勉強はするって! だけどこれからは他の事もやるぞ、僕は。というかさ、そろそろ志望校とか決めとかないか? そこに合格できる勉強をしてたらいいだろう。それとも志望校は僕が決めてもいいのか?」


「お前は、何を……」


「なんの目的も無く努力するってのはしんどいものなんだよ。実はやりたい事も出来たし、やっぱり僕の志望校は僕で決めるよ。そこにいける学力を保ってる分には僕の自由ってことで、いいか? 父さん」


 父はしばらく黙っていた。

莉奈達のライブの音が大きく感じる沈黙が長く続き。


「……ふん、好きにしろ」


 言って父は母を連れて体育館の裏口へと向かっていった。


「ありがとう、父さん」


 去り行く父の背中にしっかり届くように声を張った。


「……今日は早く帰って来い。寿司を取るぞ」 

「分かった」


「……で、親じゃないとするならどうして俺の誘いを断るんだ?」


 父の背中が見えなくなると悠が口角を挙げてニヒルな笑みを演出しながら言った。


「別に嫌ってわけじゃないんだぜ。だけどキャラバンのトップは悠だろ」

「ったりめーだ」

「だから、僕は生徒長に会なるよ。それでこの学校をめちゃくちゃ楽しくしてやる」

「なるほどな。そしたらこの学校のトップは輔か」

「ああ、トップ同士、いつか勝負する事があるかもな」

「なんの勝負だよ!」

「追々考えとく」

「……まぁ、この学校でトップをとるのはいいが、お前ももうキャラバンのメンバーだからな」

「おいなんだそれ。……まあいいけどな」




 そして、ついにライブが終わった。

僕達が話をしている間に皆はなんと5回も連続で校歌を歌っていたらしい。

悠達はこっそりだいたいの機材を片付けてトラックに運び込んだようだ。まああれだけの人数がいるんだからちょろい仕事だったろう。

 生徒達はいまだ興奮さめやらぬ様子で体育館ではしゃぎ回っている。


「あ、俺の携帯番号とかいるか?」


 去り際に悠がそんな事を聞いてきた。


「いや、もしなんか用があったら委員長に頼むからいいよ」

「そうか。……あ、それと」

「なんだよ」

「この後の先生やらに怒られる役目はお前に任せた。余ったスピーカーとかはやるからなんとか頑張ってくれ」

「……えっ」


 混乱している僕にマイクを投げつけると悠は颯爽と去っていく。


「じゃあなーー!! あっはっはっはっは!!!」


 ……あの野郎! 最後にとんでもない片付け残していきやがった。

発つ鳥は後を濁すなよ!


「ったくよぉ。……あ、ちなみに委員長は一緒に怒られてくれたり」

「嫌よ」

「そっか」


 くそぉ。

はぁ、とりあえず片付けの前に。

 僕は悠から受け取ったマイクを持って舞台の上に上がった。

高ぶりきったテンションの持っていき場所を失った何百という生徒が眼下に写る。


「アレだぁ!! とりあえず後夜祭でもやるかお前ら!!!!」


 とりあえず片付けの前にもう一発お祭り騒ぎだな。








 


 お疲れ様です。


……なんというか、どうも僕の書きたかったものになりえなかったというか。キャラバンを主軸に置こうと思ったら主人公違いのスピンオフになっていたというか。どうにも不完全燃焼です。

 まだキャラバンの皆には続きがあると思いますが、とりあえずはここで終わります。


 ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございました。

駄文極まりなかったと思いますが、また出会うことがあれば目を通していただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ