奴隷
宿は華やかな通りをずっと過ぎた郊外にあった。
何かすげー寂れてるし、不気味なオーラを漂わせている。
看板には”ドラキュラ館”とある。
お化け屋敷…?
「よう、ローラ!」
顔馴染みなのか、マルスは恐れもせずにズカズカと入っていった。
「あら。マルス…待ってたわ」
カウンターにいるこのボロい宿屋を経営してると思われる女性が振り返った。
紫色の髪に同じく紫色の瞳、長身に真っ白な肉付きの良い身体はこれでもかというほどフェロモンを撒き散らして、マルスに歩み寄ると垂れかかった。
身体の豊かな膨らみをマルスの身体に押し付け、胸板を綺麗な長い指でなぞっている。
エ…エロい!
「相変わらず良い身体してんな」
「あなたもよ、マルス…。ジョンも大きくなったわね。あら、この子は?」
お色気ムンムンのお姉様がチラリとこちらを一瞥した。
その視線だけで男としてはかなりクるものがあるのだが…!
「そいつは冒険者志望の俺の連れだ。優秀だぞ」
決めつけないで下さい。
俺はそもそも平々凡々で…。
と考えていると、急に腕に柔らかな物体が当たった。
フニュ
あー!至高の感触…!
「じゃあ試して見なくては…ね?」
ローラさんは俺の耳に息を吹きかけるように囁くと、首に顔を埋めた。
「いてっ!」
チクッとした痛みが俺の首を走った。
しかし不快な痛みでは無い。
それどころかじんわりと体中に安心感と快感が広がっていく。
少しするとローラさんは顔を離し、ペロリと俺の首を舐めた。
心地の良い倦怠感が身体を包む。
癖になる…。
「やだ、坊や。あなたすごく美味しいわ」
ローラさんのこの言葉で俺ははっと我に返った。
この人、やっぱり!
ローラ 約300歳 女 吸血鬼 HP120000
「さっ…さんきゅーべりーまっち」
危ない、レディの前で年齢を口走るところだった。
「あら、驚かないのね。大物だわ」
「そらそうさ!こいつは偉大な奴になる。俺が保証する」
その後、ローラさんはマルス、ジョンの血も次々と吸っていった。
「これがここの宿泊料だ。金が無い時に使うといい。まぁ長期間の宿泊はおすすめしないが」
俺たちはローラさんに通された10人くらいが寝れる雑居部屋に荷物を置いた。
まだ早い時間なのか、人は俺たち以外いない。
ちょうど昼時らしく、俺たちはマルスの奥さんが持たせてくれたサンドウィッチのような物を食べた。
俺にとってこの世界に来て初めて口にした食べ物だ。
パンの中に柑橘類のような物を見つけてビビっていた俺だが、これがかなりいけた。
フルーツサンドの様な味で、一口食べてようやく俺は自分のお腹が空いていたことに気付いた。
怒涛の半日だったからな。
「よし。じゃギルドに向かうか」
俺たちは荷物をクローゼットにまとめて入れると鍵をかけて部屋を出た。
先ほど来た道を繁華街の方へ歩いていく。
「あれが大ギルドだ」
マルスの指差した方には、堅固な石造りの城があった。
天使の籠の中からテルーナを見た時に一番目立っていた建物だ。
「すげー…」
見た目もすごかったが、中もまたすごかった。
いくつもある窓口は銀行いや、お役所くらいあるな。
「こっちだ」
マルスについて新規登録者受付と表示されている窓口に向かった。
「新規登録者の方ですね。こちらにお座り下さい」
「は…はあ」
また受付嬢が美人だ!
リタ 22歳 女 人間 HP50 MP10
人間か~異世界に来ると人間すら美しくなるんだなぁ。
それかまた別の美的基準があるんだろうか。
「では、出生証明書を拝見できますか?」
「え?」
き、聞いてねーぞ!
「こいつはポンメルンの生まれなんだ」
ずいっと横からマルスが顔を出してきた。
「あら…それはお気の毒なことですわ」
あれ、急に受付嬢が同情的な目で俺を見てきた。
「それでは、身元引受人の方は?」
「俺だ」
そう言うとマルスはカウンターに置いてあるブラックライトのような青い照明の下に左腕を差し出した。
ライトを当てると腕に文字が浮かび上がった。
マルス 男 人間 冒険者ランクC
「はい、結構です。では、新規登録の方も同じ所に腕を載せてくださいね。お名前は?」
「タカイ・マサトです。」
「種族は?」
「人間。」
「男性のかたですね?」
「はい。」
俺が質問に答える間、受付嬢は何かカチャカチャと手元にあるブロックを一列に並べている。
ガチャンと一際大きな音がすると、俺の左腕の上を光線のようなものが駆け巡るのを感じた。
「では逆の手をここに押し付けて。はい、これであなたは冒険者として登録されました。ランクはJからスタートし、Aが最高ランクです。クエストを受けて、どんどんレベルアップしてくださいね。クエストの掲示板はあちらです。クエストが完了したら、どこのギルドでも良いので、ギルドで報酬をもらってください。あと、一度受けたクエストが完遂できなかった場合は罰金を払っていただくことがございますので、くれぐれもご注意くださいね。頑張ってください。」
「何かすごいシステムだな。」
クエストの掲示板に向かいながら俺は呟いた。
「ああ、何でも大昔にハイエルフがいた頃に作られたシステムだそうだ。」
「ハイエルフはもういないの?」
「とっくの昔にな。エルフもその内いなくなっちまったら、この世界から魔法が消えるな。」
「そういえば、通りでダークエルフを見かけたけど。」
「ダークエルフはまだ少しいるな。あいつらは魔法も使えないし、それでも貴重な種族だから奴隷を買うとなるとかなりかかるけどな。」
「奴隷とかあるの?」
「ジョンは奴隷だぞ。」
「えええ!?そ、そうなの!?」
「はい。」
え、全然気付かなかったけど…!
ジョン 19歳 男 人間 奴隷(所有者マルス) HP123 MP10
本当だ…!
「大将も冒険者になったなら奴隷は持たないとダメだぞ。一人でモンスター退治なんてしたら命がいくつあっても足りないからな。」
「え、そんなに普通のことなの?」
「ああ。ただし、奴隷を物みたいに扱う奴等がいるらしいが、そんな奴らに奴隷を買う資格はねえ!奴隷の衣食住全ての責任を負い且つこいつらの人生を背負ってるという自覚がないとダメだ。」
「なるほど…因みに奴隷って何人くらい持つのが普通なの?」
「多いところで百以上持ってる奴もいるが、普通は4、5人じゃないか?うちはガキが多くてな、奴隷はジョンとあと家にいる一人だけだ。」
「そうなのか…。」
驚いたな。
そんな制度があるなんて。
「まあ最初は戸惑うことも多いだろうが、その時は遠慮なく聞いてくれ…お!良いクエストがあったぜ。」
マルスは”ダンジョン攻略”と書かれた紙を手に取った。
「ダンジョン、ターランの森でモンスターを10匹以上退治か、悪くないな、申請してくるぞ。」
マルスがクエスト申請カウンターで申請している間、俺はジョンの隣に座った。
「こんなこと聞くのもあれだけど…なんで奴隷に?」
ジョンは全然大丈夫ですよ、と笑顔で答えるとスラスラと話し始めた。
「僕はポンメルン出身なんです。ポンメルン公国は小さい国でちょうど1年程前に大東亜帝国に攻め込まれて滅びました。国は焼け野原になって、逃げてる途中で兵士に捕まってしまいましたが、運良く奴隷商人に売られて生き延びました。マルス様に買われたのは半年程前です。」
「そうか…。」
「僕は今幸せですよ。」
「え?」
俺の憐れむ心を察したのか、ジョンは俺にはっきりと言い放った。
「もちろん、家族と死に別れたことや、辛いこともありましたけど、マルス様に買われて、マルス様の明るいご家庭の仲間に入れてもらえて…。もしポンメルンで一生を過ごしたとしても農民としてポンメルンから一歩も出ることは無かったでしょう。でも今はマルス様に付いて色んな所を回って、一緒に夢を追いかけられる。幸せです。もしマルス様に買っていただけなかったらあのまま殺処分でしたし。それにその前にも奴隷商人と伝のある兵士に捕まってなかったら普通は殺されてました。」
「そっか。」
奴隷制があることで助かる命もあるってことか、殊戦時中に関しては。
「よし!じゃ俺も早く奴隷を買えるくらいお金を貯めないとな!」
「はい!」
「お、何だお前らやる気満々だな。大将の初仕事だもんな!よし!行くぞ!」
「おう!」「はい!」
マルスが戻ってきた後、俺たちはダンジョン、ターランの森にモンスター退治に向かったのだった。
はい、御大層なことを言っていますが、ただ単に奴隷ハーレムのためのこじつけです。ごめん、ジョン。犬みたいな名前つけてごめん、ジョン。
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毎度拙い文章ですが、ここまで読んでくださってありがとうございました!