誕生
「何をそんなに慌てとる。普通の陣痛じゃろう」
「え?え?は、早くないですか?まだ妊娠がわかってから半年も経ってないですよ?」
十月十日って言うよね?
「何をたわけた・・・・・・はあー記憶喪失じゃったの、そういえば。猫人間の妊娠期間は短いのじゃ!」
あ、そ、そうなの?
「それってもしかして常識ですか?」
「幼子でも知っとるわい!妊娠期間は種族によって違う!・・・・・・やれやれ儂は父親のお守りにきたわけではないのじゃぞ・・・・・・」
バタン!と家の扉を開けるとミナリーの悲鳴が木霊していた。
「はっはっ、あ゛ーっ!!・・・死ぬにゃっ!!こんなっの死ぬにゃっ!!」
「ミナリーさん、お気を確かにっ」
「ミナリーっ、大丈夫ですか、あっご主人様!先生!」
痛みに苦しむミナリーの傍でリンとエリーゼが腰をさすり手を握りながら励ましていた。
「先生を連れてきたからもう大丈夫だ。ミナリー!」
「あっあっい、いたっいにゃっ!・・・ふうぅー、ふうぅーっひいっ!」
可愛らしいミナリーの顔があまりの激痛に歪み、涙と汗でぐちゃぐちゃになっている。
確かに妊娠5、6ヶ月の割に、この一ヶ月あまりでミナリーのお腹はパンパンに張り出していた。
元々大きい方ではあったが、エリーゼ程ではなかった胸も驚く程ふくらみ、まるでスイカのような見事な爆乳へと変貌していった。
「体勢を動かさんか、これでは出てくるもんも出てこれんわ!」
「え?ど、どういう体勢ですか?」
俺が見たことあるドラマでは分娩台で今ミナリーがしている様なゆったり座るように寝そべって膝を立たせる体勢だったんだが・・・・・・。
「四つん這いにさせんか!」
は?四つん這い?あ、でも確かに動物の出産って四つん這いだったかも・・・・・・。
人間も実は四つん這いで産む方が楽という嘘か本当か分からない説を聞いたことあるな。
「ミナリー、動けるか?」
「うぅ・・・にゃ~・・・・・」
陣痛はどうやら波があるらしく一端おさまった時に体勢を変える。
パンパンに膨らんだ胸がたゆんっと揺れ、ボテっと張り出したお腹が重力でさらに重そうだ。
ミナリーの汗で首に張り付いた髪の毛を見ながら、俺は思わず最近の媚態を思い出し生唾を飲んだ。
だ、だって胸が、スイカップに変貌したぼよんぼよんの胸が、着替えの時に見てしまった色気づいた頂が、ボッテリとしたお腹が、より色っぽく俺を誘うんだもん。
もちろんお腹に負担をかけないようにゆっくりジェントルにまさに今させた四つん這いで愛を深めた矢先の陣痛だった。
焦った、焦りましたとも。
生まれてくる子に一生頭が上がらないかもしれない。
「ううぅ~っ!あっあっあ゛っ・・・!」
「ミナリーっ!ミナリーっ!」
「やかましいの!順調じゃ!猫人間のお産は軽い!ほら、いきむのじゃ!」
「うううううーっ!にゃあ゛ああああっ!」
ミナリーの叫び声が家中に響き渡り、出たり入ったりしていた子供の頭が完全に見えた時、突然俺の視界が青く染まった。
「な、なんなんだ・・・・・・!?」
周りをキョロキョロ見回すと、そこは確かに俺の家で、目の前には苦悶の表情で歯を食いしばるミナリー、真剣な表情の先生がいた。
だが、その全てが青く、そしてゆっくりと動き、俺だけがまるでその世界から隔絶されているようだった。
「これは一体・・・・・・っ!」
すると目の前に小さなビジョンがいくつも浮かび上がった。
どれも同じピンクの髪をした男の子の姿だ。
有り得ない程大きな物を軽々と持ち上げる男の子。
遠くの物を正確に射止める男の子。
切りつけられても動じない男の子。
風の様に俊敏に動く男の子・・・・・・。
俺は瞬時にこれはこれから生まれてくる子供の未来かもしれないと思った。
ゆっくりと手を伸ばして一つのビジョンを掴む。
他のビジョンは消え失せ、掴んだビジョンが大きく輝き部屋中に広がった。
男の子はニコッと笑うとミナリーのお腹に吸い込まれていった。
「おぎゃー!!おぎゃー!!」
「生まれたぞ・・・・・・何をぼやっとしとるんじゃ!男の子じゃ!」
赤ん坊の泣き声でハッと我に返ると世界は元に戻っていた。
「ミナリーおめでとうっ!ご主人様もおめでとうございますっ!」
エリーゼが涙目で声をかけてきた。
リンが先生から赤ん坊を受け取って布で優しく拭いている。
「ご主人様・・・・・・」
呆然としているとリンが産着を着せた赤ん坊を渡してきた。
猫耳はないが、うっすらピンクの髪の毛が見える。
真っ赤でシワシワの顔をみた途端、訳も分からず涙が溢れ落ちた。
「うっうっ、みゃああっ!!」
ミナリーの苦しそうな声を聞いてパッと顔を上げると、まだ先ほどのように苦しみ喘ぐミナリーの姿があった。
「ミナリー、大丈夫っ?」
「落ち着かんか、もう一人生まれるぞ!」
「・・・・・・え?は!?」
「猫人間は多胎が多い!驚くことでもあるまい!」
ま、まじで!?!?
1時間弱でもう一人の赤ん坊が生まれた。
紫がかった暗い色の髪をした女の子だった。
その子が生まれる直前、同じように青い世界が現れた。
「本当にお疲れ様、ミナリー」
全てが終わり、先生が帰った後で、ぐったり横になっているミナリーを労う。
「ありがとうにゃ、ご主人様・・・・・・」
二人で見つめ合った後、自然と同時にすやすやと眠る赤ん坊たちの方を見つめる。
一つしか買ってなかった赤ん坊用のベッドや産着を急遽買ったり縫ったりでてんやわんやだった。
これからが大変なのじゃぞ!先生はそう言って去っていった。
「名前どうするにゃ?」
「う~ん、少しは考えてたけど、予想より生まれてくるのが早かったのと、二人分も考えてなかったからな・・・・・・ミナリーは付けたい名前ある?」
「ご主人様につけてほしいにゃ」
そ、そっか。
困ったな、俺こういうの苦手なんだよな。
そもそもこの世界の常識的な名前とかわかんないし。
「俺がつけたら変な名前になるかも・・・・・・」
「テルーナにはいーーっぱいいろーんな名前があったにゃ!変じゃないにゃ!」
そ、そか、色んな種族とか国とかあるもんな。
う、うーん。
「長男だからタロウ・・・・・・ミナリーの子供だからミナタロウいや、長いか・・・・・・」
「ミナタにゃ?」
「いやミナタロ・・・・・・ミナタがいい?」
「ミナタ!いい名前にゃ!ミナリーと似てるにゃ!」
ミナリーが気に入ったのならそれが良い。
「よし!お前はミナタだ!」
まだうっすらとしたピンクの髪の毛を撫でた。
「女の子は・・・・・・ミナコとか・・・・・・?」
「ミナコがいいにゃ!!」
え、自分で言っといてナンだけど安直すぎない?
「いいの?」
「うん!ミナリーに似てるにゃ!」
それミナって付けば何でもいいんじゃ・・・・・・。
「ミナリーに似た素敵な名前だとおもいます」
「いい名前だと思います」
エリーゼとリンの賛成もあり、子どもたちの名前は長男がミナタ、長女がミナコに決まった。
子育ては激務だった。
3時間に一回は泣き声で叩き起され、片方が泣けばぐっすり寝ていたもう片方まで泣き出す。
ミナリーの胸に吸い付く姿は天使のように可愛らしいのに、授乳後上手くゲップさせられなければマーライオンと化す。
飲めばすぐ出る。
おしめを替えてやろうとおしめを外したときに限って、消火活動をされる。
将来優秀な消防士になるだろう、ミナタよ。
ミナコは身体が小さくミルクの良い匂いがする。
ミナタは泣き声が大きく既にちょっと汗臭い。
男って・・・・・・涙ちょちょ切れるぜ。
そんなこんなで子育ては大変だが、二人共見てるだけ自分の目が溶けんじゃねえかってくらいにめちゃくちゃに可愛い・・・・・・!!
あと、エリーゼとリンも含めてみんなで育てることができたのが大きな幸いだった。
ヘヘーイもどこで覚えてきたのか子守唄を歌ったり子どもたちが泣いてるとあやしてくれる。
今では子供たちを寝かすことと笑わすことについては天才的だ。
『おれっちはミナリー姐さんの力になりてえだけなんでさ・・・・・・(キリッ)』
ドヤ声がウザかったが、実際助かっているので感謝している。
みんなで子育てをしてるおかげで、子供たちを可愛いと思える心の余裕が生まれているのかもしれない。
その内生意気なことを言ったり、反抗期がきて「パパ嫌」とか言われるのかもしれないけど、その時はこの時期を思い出そう。
子供は三歳までに一生分の親孝行をするっていうしな。
この子たちのためにも俺はやるべきことをやらねばならない。
「奴隷の子は奴隷か・・・・・・」
ロムルス王国は人間至上主義であるため混血を禁じている。
奴隷に他種族を持つことは許されているが、奴隷に産ませた子は奴隷である。
また、人間の場合本人が望み諸条件を満たせば奴隷身分から解放されるが、他種族は一生解放されることはない。
他種族の奴隷の子供は永遠に奴隷であり、その子孫たちも然り、所謂ワンドロップルールが適用される。
つまりミナタもミナコもこの国にいる限り永遠に奴隷なのだ。
「そんなの絶対に嫌だ」
最初はオズさんの息子のガボさんのように人間の子供であるというように偽装しようと考えたが、そういうものが過去に大勢いたためか最近は調査が厳しく諦めた。
そしてもう一つ大きな問題があった。
ミナタには耳こそなかったが、尻尾が生えていた。
混血の身体的特徴は人それぞれのようだ。
現にミナコには猫人間の身体的特徴は何もない。
生まれる前は猫耳の娘を少し期待してた自分がいたのは事実だが・・・・・・ミナコはミナコのままが一番可愛い!
もちろんミナタもだ!
親バカ上等!
そういうことで届け出を出さなかったため、二人はこの国から隠して育てなければならなくなった。
今はまだ良いが、大きくなってもずっとこの家に閉じ込めておくのは可哀想だ。
今までこの世界に馴染んでちょっとずつ自分の力と仲間を増やすので精一杯だったけど・・・・・・。
「今のままではダメだな。もっと大きく動かなければいけない時が来たのかもしれない」
俺はフロリアを訪れた。
色々現実と違う点があるかと思いますが、ファンタジーということで許してください・・・・・・




