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新魔法


「なるほど、つまりこれは防御シールドみたいな呪文をいじって姿を消すことに応用したんだな」


「・・・・・・」


「は、はいそのような理論のように思います」


「じゃ例えばどうだろう、この元の呪文に炎の接頭語つけたら炎の壁ができたりしないのかな?」


「・・・・・・」


「そ、そうですね。オフィーリア様、この呪文に炎の接頭語をつけたらどのようになるのでしょうか?」


「そのようなことは許されておらぬ。我々は邪悪な人間とは異なる。魔法は己が身を守るため、悪しき人間どものように他者を傷つけることに使ってはならぬ」


「いやだから、相手の攻撃から身を守るにしても敵の特性を鑑みて防御した方が効率的だと思っただけで」


「・・・・・・」


「あ、そのような考え方もありますね。敵の特殊な攻撃からより身を守り易くなると思いますが、いかがでしょうか?」


「エリーゼ、効率とやらを重視した思想は性根の腐った人間の発想ぞ。結局は自らの利益しか考えぬ。魔法は自然の摂理の一端と心得よ。祖先から引き継いだものをむやみやたらに崩してはならぬ。心を乱す汚れた人間から離れよ」


「文句あるなら俺に直接言えよな!!さっきから無視しやがって!性根腐ってるのはどっちだよおい!」


「・・・・・・」


「こ、の、や、ろ、う・・・・・・!」


「ご、ご主人様、こらえてくださいませ・・・・・・!」


帰ってから私がそのお怒りを受けますので今はどうか・・・・・・とエリーゼが小声で訴えてきたので頭を冷やすことにする。


今一番困ってるのはエリーゼだ。


これ以上エリーゼを困らすわけにはいかない、それに確かにオフィーリアはエリーゼに教えると言っていたのを無理言って参加したのだから仕方がない。


魔法の研鑽のため、俺はこの屈辱的な待遇と延々と聞かされる人間の悪口に内心憤怒しながらも耐えた。


家に戻ってから、即”お怒り”という名目でエリーゼをベッドに押し倒したのは言うまでもない。


あっという間に、怒りによる赤面ではなく二人ともだらしなく溶けきって上気したピンク色の顔色になってしまったのはご愛敬だ。


舐め回したくなる艶やかな白い肌が桃色に染まっていき、浮かび上がる汗は甘露のように甘く頭を痺れさせる。


美しい顔が恥じらいから押し寄せる快楽で眉を困ったように寄せ唇を噛み悶える表情に変わる。


瑞々しい身体を組み伏せ、振動が部屋中にエリーゼの耐えきれぬ声と共に鼓動のように響く。


潤んだ瞳が必死に愛おしいと叫んでこちらを見つめてくる。


艶やかな唇はだんだん半開きになり男を誘う。


誰に聞かれる訳ではないのに独占したくてその声を唇で無理矢理ふさぎ、舌を奪う。


細い手首を掴んで身体をベッドに縫い付け何度も沈み込ませる。


目の前の女がただただ愛おしい、愛おしい。


快楽の波が去る時間は早く感じられるが、現実では大層な時間が経っているものだ。


そっと下に降りると、山菜集めから戻ってきたリンの包丁の音が心なしか強く肝を冷やした。


ミナリーは明らかにご機嫌斜めで、その日の夜は二人のご機嫌取りに奔走する羽目になった。



「まかり成りません」


「どうしてにゃー!」


「お身体を考えてください」


「もうじっとするのは嫌にゃー!」


「歩くのはかまいません、しかし剣を握るのはやめてください」


「素振りしてもいいって先生言ってたにゃ!リンの意地悪!」


「先生がしても良いとおっしゃったのはご主人様がなさっているような素振りです。バク転したり、木に飛び乗ったりするのは素振りではありません」


「あの素振りは5回で飽きるにゃ・・・・・・」


「では5回にしてください」


「うう~、リンのチビ!石っころ!」


石っころってなんだ?石頭のこと?


日課の素振りをしながら、二人の言い争いを小耳に挟んでいたのだが、気になる単語に思わず視線を向けてしまうと、そこには角が今にも伸びそうなリンの姿があった。


「私・・・確かに、確かに、チビではありますけど・・・・・・」


あ、あれですね、地雷ってやつですね。


「そうにゃ!まだまだ子供にゃんだから大人の言うことちゃんと聞くにゃ!」


うわ!ミナリーにだけは言われたくないな!その言葉。


「子供・・・・・・そうですか・・・・・・ふふふ・・・・・・」


ちょ、ちょ、ちょ、リンちゃん!黒いよその笑い方!背後に黒いオーラ出ちゃってるよ!


「ま、まあ、君たち・・・・・・」


俺が慌てて二人の間に入ろうとした時、俯いていたリンがパッと顔を上げ、ビシッと指をミナリーに突きつけた。


「私、こうみえて16歳なのです!」


え、いや、主人の俺は既に知っていることなのだが、ミナリーをみるとガーンとばかりに目も口もパッカーンとしている。


「ミ、ミナリーより、と、年上にゃ・・・・・・?」


し、知らなかったのか、そっちにびっくりだよ。


まあ確かに自己紹介の時に特に年齢には触れなかったけど。


「ミナリーさんは1 5 才でしたね」


あ、やめて、今俺の現代の倫理観がズキリとしたよ、リンちゃん。


ここは異世界、ここは異世界、猫人間は早熟、猫人間は早熟。


対してリンは勝ち誇ったような顔をしている。


「ほ、ほんとにゃ・・・・・・?ご主人様?」


「う、うん、本当だ。間違いない」


「10歳じゃなかったのにゃ・・・・・・」


待って、俺のこと何だと思ってたの?


俺だってさすがに10歳は手籠めにしないよ?まだ正確には手をつけていないけれども。


「1 0 才・・・・・・!」


「顔も幼いし、カラダもつるぺたにゃ」


「つ、つる・・・・・・」


もう止めたげて!リンちゃんのライフはゼロよ!


ついでに俺もな!


『そうだ!そうだ!こんな小さくて幼気な女の子に欲情するなんてとんだ変態野郎だぜ!ましてや膨らみの欠片もないどこまでも続くストレイトラインなおっ』


カーン


『オーマイガッッ!!!いってええなおチb』


ガーン


『ぶはあああ!!!』


お、うまくハンマーを使いこなしているようだな。


流石に飲み込みが早い。


これならヘヘーイのことを任せても安心だ。


ふう、それにしても今日のは心抉られたな。


ハーレムの維持というのはとても難しいものだ。


江戸時代の将軍ってすげえんだな。


将軍の様に誰もが逆らえない権力を持ちたいとは思わないが、自分の女を守る力は欲しい。


少し危険かもしれないが実験をしてみよう。


「エリーゼ、悪いんだけど姿消し一回やってみてもらえないか?」


「はい、ご主人様」


シュン、と青く光ってエリーゼの姿が消えた。


「すごいにゃ!」


「いつ見ても驚かされます……」


二人が嘆息を上げる中、俺は透視をonにして必死に計算をしていた。


この呪文は俺が使うにはMPがギリギリ過ぎて危険だ。


しかし基本となる防御シールドなら問題ない。


そして炎をつける呪文も習得済みである。


防御シールドの消費MPと炎をつける呪文の消費MPを単純に足して俺のMPは10余る。


炎の接頭語付きの防御シールドの呪文は果たして作動するのか、もし作動したとしてMPは俺が計算した通りなのか。


小さな物を消す呪文の消費MPと防御シールドの呪文の消費MPを足したものが姿を消す呪文の消費MPになるのは計算済みだ。


よし、やってみよう。


「アグノイノセルボ」


「っアッシャント!」


俺の呪文にエリーゼが慌てて呪文を被せてきた。


青い光がはなたれ目の前に広がる野原に炎の壁が出来た。


「っできた!」


身体にそこまでのダメージはなくMPも計算通りだったのだろう。


急いでMPを確認……20余ってる?


「ほ、ほんとうにこんなことが……」


エリーゼは目を丸くして炎の壁を見つめていた。


「エリーゼ、さっきの呪文は……?」


「申し訳ありません、勝手なことをいたしましたっ……」


「いや、いいんだ。助かった。さっきの呪文はもしかしてM・・・魔力を増やす呪文か?」


「はい。魔力を使い切ると命を落としてしまうので自分の魔力を緊急的に相手にうつします。しかし相手が使い切る前に自分の魔力を移さねば意味がないので同時に唱えなければなりません。ご主人様が初めて呪文を唱えた時は驚いて唱えられなくて・・・あんなに後悔したことはありません・・・」


それで今回俺が聞いたこともない呪文を唱えたから慌ててかけてくれたのか。


「ありがとう、エリーゼ。また心配させて悪かったな」


学習しないなあ、俺は。


力をつけたいとつい気が逸ってしまうが、命を落としては元も子もない。


自分に言い聞かせた。


しかしこれで魔法の新しい道が開けたのは確かだ。


二人ともMPが回復したところで試したところ、相手にMPを10あげるには自分のMPを20使うようだ。


効率の良い呪文ではないので多用はしないが、新しい呪文を試す時は必ずエリーゼにその呪文をかけてもらう約束をした。


これでどんどん新しい呪文を作っていこう。


オフィーリアさんに知られたら今度こそ本当に踏み殺されそうだ。


エリーゼと二人で魔法の練習をしていると、ミナリーは言葉でリンは視線で魔法を使いたいと訴えてくる。


騒ぐミナリーを出産後必ずやらせるからと何とか説得し、エリーゼと二人でこのMPを授ける呪文をリンにかけて呪文を唱えさせてみた。


不貞腐れるミナリーを尻目に、口にはしないが頬を紅潮させてワクワクしたした表情で呪文を唱えるリンであったが、呪文は発動せず。


明らかに落胆したリンを二人で慰めている横をあんなに騒いでいたミナリーが興味を失ったように蝶々を追いかけていった。


やはりMPを持たぬ種族は魔法を使えないようだ。


魔法を探究し身体を鍛え、クエストやベレーヌ家との取引を行い、獣人コミュニティーの活動に顔を出し・・・気づけばあっという間にミナリーのお腹は膨らんでいき産月を迎えた。
















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