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リン

「新しい奴隷を買おうと思う」


朝食の席で宣言する。


と言っても、ミナリーは寝込んでいるので、エリーゼと二人きりの食卓ではあるが。


「はい、よろしいと思います」


肌が一段とつやつやしたエリーゼが答えた。


うむ、相変わらず素晴らしいふくらみであるな。


目に好し、触って好し。


特に後ろから鷲掴んだ時の重量感たるや、銀も金も玉も何せむにまされる宝乳にしかめやも。


「…賛成にゃ」


ミナリーには部屋に食事を運んだ時に伝える。


なんだかげっそりしてしまった。


いつも元気溌溂なミナリーが静かに横になっているとその愛らしい顔に気怠げな雰囲気が相まって独特な色気を醸し出している。


「しっかり食べないと…」


ふわっとしたミナリーの猫っ毛を撫でる。


猫耳を撫でてやると、にゃん、と少しくすぐったそうに笑った。


少し尖った小さな犬歯が見えて一層可愛らしい。


この幼い娘に小さな命が宿っているんだな。


子どもが子どもを産むみたいな不思議な感覚だ。


「こ、これとか食べれるんじゃないか?酸っぱくて悪阻の時に良いって八百屋のおばさんが言ってたぞ」


一瞬ちらついた後ろめたさをふり切るように、ミナリーの世話をする。


はあ~やっぱり女の人は大変だ。


男は楽で良いわね!って言いたくなるよな。


出しておしまいだし。


けど男だってさ、何の力になれないのは辛いもんだ。


「…俺がその辛さを代わってあげられれば、良いんだけどな」


ミナリーのほっそりした身体に見ていられず呟く。


するとミナリーはニコッと微笑むと頬を撫でていた俺の腕に甘えるように両腕を絡ませて来た。


「…ミナリー全然辛くにゃいの。そういうご主人様が好きだから…今とっても幸せ」


「…俺も幸せだ」


キュッと口角の上がった桃色の可愛らしい唇に口付ける。


甘えるように絡みついてくるミナリーの舌を優しく吸い上げた。


『ちょっとちょっと!!人が空気読んで静かにしてたら、なんなんだこの甘ったるい雰囲気はよお!!ヤバい砂吐く!ザバーーー!!』


「…やっぱりコイツ海に捨てていいか?」


「…ふふふっ許してあげてにゃん、ご主人様」


ミナリーの明るい笑顔が見れたから、よしとするか。


エリーゼにミナリーを任せて、10万ディナールを持ってベレーヌ家に向かう。


「いらっしゃいませ、お待ちしておりましたわ」


フロリアに案内され、奥の部屋に入るとリンが立っていた。


「この度はお買い上げいただき、まことにありがとうございます」


「ああ」


幼い見た目の割に芯のある落ち着いた口調だな。


それにしても小さい。


比例して小顔なので遠目より近くに寄った方がその小柄さがわかる。


近づくと意志の強そうな大きな瞳が俺を見上げてきた。


…小学生ですか?


その身長差と幼い顔立ちに俺は思わず呻いた。


おかしい。


明らかに昨日よりルックスの幼さが増してる。


昨日お団子にしていた髪が今日はツインテールになっているではないか。


か、可愛い…!!


お兄ちゃんと呼ばせたい、ランドセル背負わせたい、白ソックス履かせたい、ブルマ履かせたい、お膝に乗せたい、と怒涛のように湧き出てくる欲望とは裏腹に俺の理性が激しい警鐘を鳴らす。


ダメだ。


いくら異世界だからって小学生はNGだ。


ダメ。ゼッタイ。


隙を見せられないベレーヌ家ではあまり使いたくないんだが、カチッと透視をオンにする。


リン 16歳 女 鬼族 HP973


「鬼族の成人年齢はいくつですか?」


「13歳から14歳頃ですわ。リンは16歳になっていますから、問題ありませんわ」


一安心だが、ミナリーより年上だと…?


やはり女性の年齢というものはわからない。


HPを見る限り、ミナリーほどではないが、ミケくらいの戦闘能力は保持していそうだ。


その点でも良い買い物だろう。


「わかりました」


「他に何かご質問等ございますか?」


「いや、特にありません」


「では、奴隷契約の方を開始させていただきます。…その前にしばしお時間を」


使用人がリンを連れて退出した。


身支度をさせてくるのだろうか。


「下着や靴、それに装備品等はこちらで用意させていただきますから、奴隷契約が終わり次第ご自宅にお連れになって大丈夫ですわ」


「そんなところまで、良いんですか?」


「もちろん。質ときめ細やかなサービスが私たちの売りですから。それに鬼族の装備は特殊ですの」


しばらく話しているとドアがノックされ、リンが入ってきた。


全体的に黒っぽい服は、丈の短い着物を着崩したように胸元がV字に開いており、その中にピチっとした編みシャツのようなモノを着込んでいる。


脚も網タイツのようなモノを履き、あと下半身は黒い布がハイレグカットになっている。


ハイレグである。


大事なことなのでもう一度言う。


ハイレグである。


……これは、忍者ですか、忍者ですね、くノ一ですねえええ!!!


あまりの展開に目を白黒させているであろう俺の顔を、リンが表情一つ動かさずに見つめてきた。


凛とした目元から冷ややかな視線を浴びせられる。


たまらない…じゃなくて、クールな子なのかな?


エリーゼもミナリーもどちらかというと友好的だったから少し不安になるが、ロリの冷たい視線に悦びを感じる俺はくノ一ファッションに頭が少し沸騰しているようだ。


「では契約を」


例の機械で契約が成立する。


「マサトさん、首輪、手枷、足枷、どれがよろしくて?」


「彼女の邪魔にならないモノで良いです」


「そうですか。リン、これだけお優しい方は滅多にいらっしゃらないのよ、しっかりお仕えなさい」


「はい、お嬢様」


「もう私はあなたの主人じゃないのだから、お嬢様はおやめなさい」


「失礼いたしました。フロリア様、今まで大変お世話になりました。ご主人様」


「え、あ、はい」


「これより奴隷としてご主人様に誠心誠意お仕えすることを誓います。何なりとお申し付けください」


「ああ、よろしくな、リン」


しっかりしているな。


彼女自身が真面目なのか、それともベレーヌ商会の教育の賜物か。


この幼い容貌とのギャップが新鮮だ。


「あら、首輪は大きいわね。こんなに揺れたら仕事に集中出来ないのではなくて?」


首輪は革のベルトのような形をしているので大きさの調整ができるが、一番小さくしてもリンの華奢な首には随分大きかった。


「しかし、手枷と足枷も大きくて抜けてしまいそうですね」


「…これは政府が指定しているもので、これより小さいサイズはございませんの…困ったわ」


冷たくみえるくらい綺麗な顔の眉間にちょっとシワを寄せて細くて白い手を口元におき考えるフロリア。


何だ、この華麗なお嬢様感、たまらねえ。


「…そうだわ!」


俺が妄想に耽ってる間何か思いついたのかフロリアはリンの首輪を太腿に巻きつけるよう指示した。


なるほど。


リンの細い太腿であれば首輪を大きく調整してちょうど良いかもしれない。


「…ですが、首輪を首以外につけることは法に抵触しないのでしょうか」


リンが少し不安そうに聞いた。


やはりこの子は根っからの真面目ちゃんなのかもしれないな。


「改造は禁止されているけれど、どこに付けるかは指定されていないわ。大丈夫よ」


「そうですか」


ベルトが絡みついた白い太腿は中々に扇情的…じゃなくて実用的に使えそうだ。


ほら、武器とか隠せそうだし。


10万ディナールを支払って、全ての手順を終える。


「何か不始末がありましたら、お知らせくださいね」


「こんなに色々していただいて、ありがとうございます」


「とんでもありませんわ…今後のお付き合いの分も含めてですので、私にとっても良い取引でしたわ」


ニコっとフロリアがとっておきの営業スマイルを繰り出した。


……やられた。


リンとベレーヌ家を後にする。


当初の予定ではこの後町でリンに必要な物を揃えるはずだったんだが、予想外に予算が浮いてしまった。


「あー、何か欲しい物でもあるか?」


「ございません」


…即答か。


ま、あったとしても奴隷の身分で素直にはいえないよな。


時間も余ったことだし、そこら辺を歩いて様子を見てみるか。


食べ物が並ぶ屋台通りを歩く。


ミナリーならこの辺りでよだれを垂らすのだが…無表情だな。


続いて常連となりつつある服飾店。


エリーゼなら遠慮がちに目を輝かせるのだが…無表情。


何も買わないのも悪いので、エリーゼやミナリーとお揃いの夜着を手に取った。


「色は何がいい?」


「…ご主人様のお気に召すままに」


心なしか視線が一段と冷ややかになりました。


宝飾店の前を通ってみるも表情に変わりなし。


武器屋、防具屋、おもちゃ屋…取り付く島もない。


もう、ご主人様のライフ0よ…。


ま、まだ初日だしその内心を開いてくれるだろう、と俺は諦めることにした。


強くなったら見直してくれるかもしれないし、自分の力の強化を考えるか。


「いらっしゃいませ~!」


「魔法関連の書物を探しているのだが」


「魔法書…はウチでは取り扱ってないですね、アーモならあるかもしれませんが」


「少しでも関連したものはないか?」


「そうですね…歴史書なら少し載っているかもしれません。歴史コーナーはあちらです」


「ありがとう」


立ち寄った本屋で歴史書を一通りパラパラ見る。


やはり大した記述はないな、今度アーモにでも行ってみるか。


「じゃあ帰…?」


「…あ、申し訳ございませんっ」


リンの方を振り返ると、物欲しそうな目をしてある本を見つめていた。


しかし俺に見られたとわかると顔を赤らめて視線を外してしまった。


「何か欲しい本でもあった?」


「いえ、特にございません」


さっきの視線の先にあった本の背表紙を見る。


『物理現象の錬金術的諸原理』


…また随分ごっつい本だな…。


「この紙に書いてある食材を買ってきてくれるかな?市場の南門のところで待ち合わせしよう」


「はい、承りました」


ペコっとお辞儀をしてリンは素早く店外へ出た。


それを見届けて、俺は分厚い本を手に取った。


「お待たせして申し訳ありません」


「いやいや、こっちこそ色々頼んじゃってごめんね」


リンが買ってきた食材を一頭の馬に括りつけ、もう一頭にリンを前に抱えて乗る。


エリーゼやミナリーを一緒に乗せる時は後ろに乗せるが、リンは子どもの様に小柄なので前に乗せても手綱を握るのに問題ない。


「あっ…」


「危ないから、この体勢で」


さりげなく、リンのウエストに手をやって腰を密着させる。


リンの緊張が手に取るようにわかる。


ツインテールから覗くうなじの白い肌がうっすら桃色に染まっているのが初々しく可愛らしい。


「この山の上に家がある」


麓の馬小屋に到着してリンに告げるとリンは不可解そうな表情をみせた。


「リン、俺の奴隷になったからには、これから見ることは誰にも言ってはいけないよ。いいね」


「…はい」


俺は魔法が使えるようになってからエリーゼに教えてもらい鍛錬した移動魔法を発動した。


青白い光に包まれ家の前に到着する。


リンの顔を伺うと驚愕の表情で固まっていた。


「お、お~い。大丈夫か?」


「…は、はいっ!」


顔の前で手をひらひらさせるとようやくリンは我に帰った。


「…あ、あの…その、これは…」


「魔法が使えるんだ。少しだけね」


「…ご主人様はエルフですか?」


「いや、人間だよ」


「そ、そんなことが…ありえるのでしょうか」


「ありえるみたいだね。リンにはこれから俺たちと迷宮に潜ってもらう。迷宮では理屈では有り得ないことが起こるのが常だ。心しておいて欲しい」


「は、はい…」


「あ、そうだ。これ、俺からの歓迎の気持ちだから受け取ってね」


そう言って『物理現象の錬金術的諸原理』を渡した。


「こ、これは、よろしいのですか…!」


「いいよ。これから大変だろうし、リンが仲間になってくれて嬉しいから」


そう言うとリンは顔を真っ赤にさせて、はにかんだ。


「あ、ありがとうございます…」


可愛い…!


やっぱり女の子は笑顔が一番だな。


「ただいま」


「おかえりなさいませ、ご主人様。あ、初めまして、エリーゼと申します」


エリーゼが満面の笑みで迎えてくれた。


「え、エルっ……リンと申します。これから宜しくお願いいたします」


突然のエルフの登場にまたまた面食らったリンだったが、ぐっとこらえ丁寧に挨拶をしていた。


「二階にもう一人ミナリーがいるのですが、今身重で眠っていて…」


「女奴隷が二人…身重…」


リンの氷点下の視線が俺に突き刺さる。


はい、仕込んだのは俺です。


せっかく解れかけた関係がまた一気に硬化してしまったな。


重い空気を察したのかエリーゼが一生懸命リンに家の説明をしつつ、俺に命を救われた話や、待遇の良さ、俺の素晴らしさを語ってくれた。


あまり持ち上げられ過ぎて恥ずかしくなり、俺はミナリーの部屋に退散した。


戻ってくるとリンの表情が少し穏やかになっていた。


よ、良かった…。


もともと真面目なので、あっという間に家のことを理解してくれた。


夜のお勤めの話も真っ赤になってはいたが、覚悟は出来ていたのだろう。


「丹誠こめて、お勤めいたします」


うむ、良い良い。


そして、待ちに待った夜。


「不束者ですが、よろしくお願い致します」


「うん、よろしく」


緊張しながら正座して三つ指をつくリンを俺はそっと押し倒した。


夜着は俺が買ったものではなく、持参した白い浴衣のような寝巻きだ。


合わせ目から手を差し込みぐっと開く。


リンの真っ白で華奢な身体が丸見えになった。


小さな身体を優しく丁寧に緊張を解すように愛していく。


順調に高まっていた二人だったが、なんとメインディッシュを目の前にして、大問題が発生してしまったのだ。

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