妊娠☆
性的な描写があります。苦手な方はご注意ください。
『……スンマセンっした!!』
「いいよ、今回は俺が浅はかだった。こっちこそみんなに迷惑かけてごめん」
『いや、おれっちも悪ふざけが過ぎました』
「ご主人様が生きていてくださるだけで私…」
ちょっ!また目が潤んでるよ、エリーゼちゃん!
「もうあんなの嫌にゃ~…」
ミナリーが珍しく甘えるようにペターと抱きついてきた。
そうだよなぁ。
俺の身体は俺一人のもんじゃない。
コイツらの人生を丸ごと背負ってるんだ。
「幸せにするから」
そう言って二人に口付けた。
熱い熱い夜の女男女の時間。
お前が大切だという気持ちを指にのせ、舌にのせ、躯の隅々まで愛し尽くす。
ミナリーの甘い泣き声とエリーゼの艷やかな喘ぎ声がベッドの軋む音をベースに愛を奏でていった。
『だーかーら!毎夜毎夜激しいんだよ!!いい加減にしろー!うおうっ!』
隣の部屋からガチャガチャーンと物が倒れる音がする。
ふっと誰ともなく笑いが溢れ、部屋に和やかな空気が流れた。
「しょーがねーなあ」
エリーゼとミナリーは足腰が立たないので、床でバタバタ喚いているへヘーイを拾い元に戻し、俺は外に出た。
火照った身体に夜風が気持ちいい。
澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込み、満天の星空を見上げた。
「ご主人様…?」
どれくらいそうしていたのだろう。
エリーゼが心配そうな顔をして外に出てきた。
「ミナリーは?」
「寝ています」
「そっか」
「ご気分はいかがですか?」
「問題ないよ」
君たちがいつもより積極的だったので、普段よりハッスルしたくらいだ。
「考えてた、今日見た夢について」
「夢…ですか?」
俺は気を失っているときに見た夢の話をエリーゼにした。
「その方がご主人様を救ってくださったのかもしれませんね…」
「そうかもな」
「…マヴィ様…」
「え?」
「あ…その…エルフ族に昔からある言い伝えがあって…」
「どんな?」
「…人生で最も困難なことに遭遇したらマヴィ様に祈れ、と。詳しいことは分からないのですが、マヴィというのは古代エルフ語で『青』を意味するので…」
「青、か。その人かもしれないな」
「はい…マヴィ様、本当にありがとうございます」
エリーゼは長い睫毛を伏せ祈り始めた。
きっと俺が倒れている時もこうやって一生懸命祈ってくれたのだろう。
月明かりに照らされた煌めく金髪を眺めながらエリーゼへの愛おしさが溢れてくるのを抑えられなかった。
「ありがとう、エリーゼ」
「いえ、ご主人様が元気でいてくだされば…んっ…ちゅ…はっ…んっ…」
エリーゼの細い腰に腕を回しながら舌を絡めて互いの唾液を交換する。
ふくよかな双丘が俺の身体に密着して心臓の鼓動が止まらない。
長い口付けを終えると、エリーゼは酸欠からはあっはあっ…と呼吸しながら頬を赤く染めてはにかんだ。
「あ…あの…ご主人様…」
「ご、ごめん」
マサトJr.がウェイクアップしました。
「私は大丈夫です…」
「いや、俺に合わせると疲れちゃうだろ?いいよ、ははは…ってエリーゼ!?」
いやー毎度うちの息子が申し訳ない、という気持ちで笑っていたら、エリーゼが俺の前にしゃがみこんだ。
「え!ちょ!ってうあっ!」
エリーゼが窓を開け、息子が外に出た。
夜風が涼しいね~息子よ、と現実逃避していたら息子が生温かいものに包まれた。
「う…あ、ちょっと!どこで覚えてきたんだ!?」
「…ひへはん…んんっはむっ…」
「ちょ…!そのまましゃべらないでっ…!」
「んっんっ…ちゅぽっ…ミケさんが本を下さって…」
「あ、あの野郎…!」
「体力がないときの方法で載っていたのですが…ダメでしたか…?」
グッジョブ!!
「くっ…エ、エリーゼ…これも使ってみてくれないかっ…?」
とたわわに実る果実を鷲掴みにする。
「っん!…ひゃい…ちゅっ…」
うお~!!これこれ!!
このたぷんたぷんとした柔らかさ、弾力、密着感、温かさ…何をとっても最高です!!
「…や、やばいっ…エリーゼっ…!」
「んんっ!!」
優しさに包まれたらこんな感じだろうと思った。
「…そういえば、俺が使った呪文、あれはなんて呪文なの?」
明朝、ヨーグルトらしきものを食べているエリーゼを見てニヤける口元を噛みながら意識をそらす。
「あれは私たちが最初に習う呪文です。『平和をあなたに』という意味で効果は弱いですが、かけた相手を保護することができます。…なぜご主人様はあの呪文をご存知だったのですか?」
「えっと、古代書…かな」
某国民的アニメーションからです。
「ちょっと使ってみてくれないか?」
そう言いながら俺は透視をオンにした。
「はい」
青白い光が俺を包み込む。
エリーゼのMPが10減ったのが見えた。
「これが一番魔力を消費しない呪文なんだな?」
「はい…ご主人様?」
エリーゼが心配そうな顔をして覗き込んでくる。
「ちょっと気になっただけだよ」
俺がまた使ってしまうかもと心配してるのか。
可愛いなあ。
「魔力を使い切るとどうなるの?」
「死に至ります。そのため私たちは幼い頃から自身の魔力の限界を知る修行をして、使い切る前に魔法を止めることができます」
なるほど、道理で人間に魔法が使えないわけだ。
人間にはMPが生まれつき10しかないんだから、一回使っただけでおじゃんだ。
「ん?あれ…!?」
タカイ・マサト 22歳 男 王の器 人間 HP353 MP11
ふ、増えてる!
MPが増えてる!!
そしてなんだこれは…?
「王の器…って聞いたことあるか?」
「いえ、ミナリーは?」
「知らないにゃ~」
『おれっちも聞いたことないぜ』
もう一度みんなを透視する。
エリーゼ 17歳 女 エルフ HP46 MP2088
ミナリー 15歳 女 猫人間 HP2434
へヘーイ 剣
「ぷっ」
『なんで今おれっち見て笑ったんだよ!こんなグレイトハンサムな剣は中々いないぜ!?』
「悪いと思ってるが、悪気はない」
『なんだその矛盾した謝罪は!誠意が感じられん!!』
うーん、誰にも付いてないな。
透視をオンにするとステータスに気を取られて突発的な出来事に弱くなるからあまり使ってなかったけど、これからは極力つけて町を歩こう。
それから、怒られるかもしれないけど…。
「バルス」
「ご主人様!」
青白い光が目の前のエリーゼを包む。
うっ…フラついて椅子に崩れ落ちたが、意識はある。
タカイ・マサト 22歳 男 王の器 人間 HP353 MP2
やっぱりだ。
今の呪文でMPを10使ったのに、2余っている。
つまりMPもHPと同じく使えば使うほど増えるということだ。
「大丈夫だ、エリーゼ。俺は魔法が使えるようになったみたいだ」
「ほ…本当ですか?お体は大丈夫ですか…?」
「すごいにゃ!ご主人様すごいにゃ!」
まだ不安気なエリーゼと違い、ミナリーは純粋に喜んでいる。
この王の器ってヤツのおかげかな?
よくわからないけど、これで武器が増えたぞ!
MP0に気を付けながら修行を積んでいこう。
久しぶりにベレーヌ家から連絡が入り、俺は一人で町に向かった。
最近テルーナにばかり行って町に降りてなかったせいか、なんだか違和感を感じる。
ロムルス王国にしては大らかな気質のケードラの人々が殺伐としていたからだ。
「マサトっ…さん、久しぶりですわね。まずはおかけになって」
「はい」
髪の色に合わせた青色のワンピースを身に纏ったフロリアはどこぞのお姫様のようで実に可憐だが、前よりほっそりした気がする。
「なかなか声をかけられなくてごめんなさいね。雑事に追われて仕事どころじゃなかったものだから…」
「何かあったのですか?」
「…奴隷商を辞めることになりそうですわ」
「え!」
「政府の内部情報を掴みましたのよ。まもなく奴隷法が改正されるわ」
「どの部分が…?」
奴隷法なんて知らなかったが、ここはシラを切る。
「異種族の奴隷を販売する際、必ず去勢をさせてから販売することが義務付けられましたの…混血の防止ですわ」
なんてことだ…!
奴隷として売買される時点で人としての尊厳なんてものはないのかもしれない。
それでも、そんなの…。
「あんまりだ」
「同感ですわ…ですから私たちは奴隷の売買から撤退しようと考えていますの。現在行なっている病いの奴隷を安楽死させることですら寝覚めが悪いのに…」
そう、深く交流するようになってからわかったのだが、ベレーヌ家の奴隷の待遇はすこぶる良い。
そのためか奴隷の質も良く、奴隷商として一つのブランドを確立している。
ただやはりそこは商い、利益を上げねば意味がないので病身の奴隷は止む無く殺処分とせざるを負えないらしい。
「しかし、奴隷部門から撤退するとなると…」
「ええ、我が商会は潰れるかもしれません」
他の商品も商っていなくはないが、やはり奴隷商がメインとなっているベレーヌ家。
大ダメージだろう。
「人間の奴隷は売れませんもんね…」
「ええ…そこでマサトさんに折りいって頼みがあるのです。…エルフ製品を我が商会に卸してはいただけないでしょうか?」
「え?」
や、やられた。
弱みを自ら暴露されることによって断りづらい雰囲気を作られてしまった。
やめろよそういうの、俺は世界一お人好しな民族、日本人なんだから。
「え、えっとしかし…そのあまり手に入るものではないんですよ…」
「ええ、無理を申し上げているのは重々承知しております。ですから、数は望んでおりません。ただマサトさんが手に入れたエルフの品を我が商会にのみに卸していただきたいのです」
「独占販売にしたいと…?」
「はい。実は先日お売りしていただいたグローブを首都アーモのエルフ製品品評会に出品したところ、金賞を受賞しました」
「は、え?」
「ご存知の通り、野生のエルフは狩り尽くされ、ほとんど見かけることはありません。ですから、現在出回っているエルフ製品は奴隷のエルフに作らせた物がほとんどですが、残念ながら実に質の悪い物ばかりです。ですが、先日お売りいただいた品はまさに野生のエルフが作った物とお見受けします。あのクオリティのエルフ製品を販売することができれば、たとえ奴隷商から撤退したとしても瞬く間に『質のベレーヌ』の名を取り戻すことが出来るでしょう。そう!真の商人とはお客様に幸せを売る者でなければなりません!商品が奴隷であれば、売られる奴隷も幸せになるところへ、そして私もお金が入ってみんなが幸せ。それをマルーヌ家、アラワールを使って奴隷をいたぶり、お客様をも欺こうとは商人の風上にもおけません…!…あら、余計なことをしゃべりましたわ…失礼」
うん、情熱はわかったよ。
しかしなぁ、あまりエリーゼに無理もさせたくないし、でもフロリアの力にもなりたい。
けっこうお世話になってるし、彼女の目指すところに賛同できるからだ。
「…あまり期待しないでくださいね」
「ええ!お約束だけで十分ですわ!では早速契約書にサインを」
読み落としがないようにじっくり確認しながら読みあげ契約書にサインした。
にしてもこの子のガッツはすごいなあ。
こんなにお嬢様然としてるのに。
これは俺も魔法の修行を頑張らないと。
「マサトさん、ついでに奴隷を見ていきませんか?」
う~ん、いずれ増やすつもりではいるけど、今はいいかな。
「今は結構です」
「そうですか。マサトさんにはお世話になっていますし、もしご入用ならいつでもお声をかけてくださいね。サービスしますわ」
「ありがとうございます」
しかしこの時の俺はまさか直ぐにフロリアの元へ舞い戻ることになろうとは思いもしなかった。
山の麓に戻るとソワソワしたエリーゼが待ち構えていた。
「どうしたんだ?」
「実はミナリーの体調が悪いみたいなんです」
「え!またどうして…」
「気分が悪いと食べた物も戻してしまっていますから、食あたりでしょうか?」
「う~ん…ひとまず医者に連れて行こうか」
家に戻ってみると、真っ青な顔をしたミナリーが吐き疲れて倒れていた。
「これはまずいな…!今すぐ先生を呼んでくる!」
この前お世話になった先生に事情を話し、急いで来てもらう。
「やれやれ、坊主の次はあの猫娘か…」
先生はブツブツ言いながらもテキパキと準備をして馬に乗ってくれた。
「ミナリー大丈夫か!?」
「ふにゃ…ご主人しゃま、側にいて…」
「大丈夫だ。俺は側にいるよ」
「暑苦しい!邪魔じゃ!後でやれ!」
『ミナリー姐さん!おれっちもいつでも背中に…!』
「やかましいわ!!…ん?今の声はなんじゃ?」
「…いっ今のはオウムです!オウム!よくしゃべる鳥でしょ!?」
『フガフガ…!』
「オウム?」
げっ、オウム通じねえのかよ。
この剣め、余計なことを…!
俺はへヘーイを強く握り締めた。
「パ、パロです」
慌ててエリーゼが付け加えた。
「なんじゃ、パロか」
先生は納得してミナリーの問診を始めた。
オウムはパロっていうのか…危ない危ない。
「ふむ…はあ…ったく、人騒がせな…」
何問かミナリーに質問していた先生は呆れたようにため息を吐き、離れていた俺たちを手招きした。
「先生、どうですか…?」
「懐妊じゃ」
「……は?」
「妊娠じゃ!おめでたじゃ!…くだらん。儂は帰るぞ、おいそこのエルフ、山の麓まで送れ」
「…は、はい!ご主人様、行ってまいります」
「……ああ…」
……にんしん?
……ニンシン?
ナニソレオイシイノ?
……妊娠?
「えええええええええ!!!」
ちょ!?
え!?え!?え!?
マジか!!マジか!!マジか!!
「ミナリー!!ありがとう!!」
何も考えずに口から出てきた言葉はそれだった。
「よ、喜んでくれるにゃ?」
「もちろんだよ!!」
「…ミナリーも嬉しいにゃ」
ミナリーは頬を染めてニッコリと微笑んだ。
そんなミナリーはいつもよりずっと大人っぽかった。
「これからは身体を第一に無理はしないようにしないとな」
「うん…ダンジョンは行けなくなるのかにゃ?」
「う~ん…そうだな、危険だし避けた方が良いと思う」
「わかったにゃ。残念だけど、赤ちゃんのために頑張る」
「…ありがとう、ミナリー」
そっか、でもそうなると、またエリーゼと二人きりでダンジョン攻略に行くことになるのか。
エリーゼも俺も以前に比べて戦闘能力は上がっていけるし、一階ならやっていけるだろう。
しかしこれから大変だな~。
子供が生まれるんだもんな。
赤ちゃんの世話をして、ダンジョンにも行って、フロリアと取引をして、お金を貯めて、力を付けて…。
…あれ?
結構大変だな、というか…明らか人手足りなくね?
「ただいま戻りました。ミナリー、良かったですね…!」
「エリーゼ、ありがとにゃ…!」
「ご主人様も、おめでとうございます」
「ああ」
こうしてはいられない。
今すぐでなくても良いけど、目星は付けておかないと。
「用事を思い出したから町へ行ってくる。ミナリー何か食べたい物はないか?」
「お魚が食べたいにゃ」
「わかった、買ってくる。エリーゼは何か要るものはあるか?」
「いいえ、今は大丈夫です。お気を付けていってらっしゃいませ」
「ああ」
俺は馬に飛び乗ると一目散にベレーヌ家へ走った。
「…フロリア…!」
「あら、マサトさん。何か忘れ物ですか?」
「…奴隷を見せて欲しい…!」
「…承りましたわ」
フロリアは満面の笑みを浮かべた。




