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第三勢力

女神デアの支配は終わり、人々は自由を謳歌した。


しかし、規律の無くなった世界は乱れ始める。


人々は憎しみ合い、略奪し、淘汰し合っては、また新たな憎しみが生まれ、この小さな世界に遂に100を超える国々が生まれた。


そこへ第一の救世主が現れる。


「名をムカイ・ワタルという、10年程前の話です」


「え?俺が初めての救世主じゃないんだ」


「はい。このムカイ・ワタルはこちらにいらっしゃった時まだわずか17歳だったと聞いています。とにかく身体能力が高く、狼人間が5人でかかっても適わなかったとか。そして彼を手に入れたのが、ロムルス王国です」


「ロムルス王国…」


「彼を手に入れてからのロムルス王国の勢いは凄まじく、あっという間に他の国々を平定し、一大国家を創り上げました。これで平和になるかと思いましたが…現実は全く違いました。彼らは人間至上主義ですから」


「人間至上…てことはその、この世界には人間以外がいるという解釈でいいのかな?」


「マサト様の世界にはいらっしゃらないのですか?」


ティナが不思議そうに聞いてきた。


「いないね。昔はいたのかもしれないけど、今は全く。俺の世界にもそういう人たちがいたら良かったな。人間が我が物顔できる世の中じゃなかったかもだから」


まぁ半分以上は下心からの発言だが。


エルフとか猫耳とか最高じゃん…!


しかし、その言葉がどストライクしてしまった奴がいた。


マルスだ。


彼は彼の見た目からは大凡考えられない程顔をぐしゃぐしゃにしたかと思うと、急にオイオイ泣き始めたのだ。


「えっ…その、どっ…ぐえっ!!」


「さすがだ!!さすがだ!!大将!!」


マルスは感極まったのか、俺の両肩を掴むとグワングワン振り回しながら、泣いている。


てか、大将って。


何か、救世主から格下げされたように感じるが、彼的には救世主より大将の方が上なのか。


というか肩から手を話してくれ!


吐きそうだ!


助けを求めてティナの方をちらりと見るが、ティナもえぐえぐ泣いている…!


お前もか、ブルータス!


おそらく1分、しかし俺にはとても長く感じたが、振り回された後、マルスはなおもグズグズ言いながら、語り始めた。


「す…すいません…感極まってつい」


ふうーと落ち着かせるためか、深呼吸し、マルスは再び口を開いた。


「俺は狼人間なんです。まぁ実際人間とのハーフなんで、今のところ何とかロムルス王国で生活してますが、バレたらどうなるか。こいつも天使なんです。まぁこのグレート・テンプルにお仕えできる巫女は天使と決まってるんで、流石に王国も俺たちのように粛清とかはしませんが」


「それでも非道いんです!天使は天使のエリアに軟禁されて、ほとんど身動きとれません!何もかもあの人たちに命ぜられて…その…繁殖とかもです!この血統の組み合わせがどうとか…あの人たちは天使を馬みたいに思ってるんです!」


「レースがあるんです。天使を飛ばしてどの天使が一番速いか賭けるんですよ」


「あ~なるほど、競馬みたいなのか。でもさ、なんでそれをその、ムカイって奴は止めないんだ?救世主なんだろ?」


「彼は大臣ではなく、軍人ですから。が、確かにもし彼が止めようと思えば止めることもできます。彼はロムルス王国の大元帥ですし。しかし彼はそういったことには興味がないようなんです。『俺運動部だし~』が口癖だとよく聞きます」


ん?何かカンに障るなその発言。


「流石軍人とあって、スポーツがお好きで、彼がもたらした”バスケ”なるスポーツが王宮では流行っているそうです。それから無類の女好きで、愛人、側室、ワンナイトラブも数え切れない程。ご結婚はされていないのですが、何でもカノジョ様とおっしゃるご正室が本国にいらっしゃるそうで、お可哀想な限りではありますが」


「…安心しな。俺が必ずそいつをぶっ飛ばす…」


リア充か!爆発しろ!


「よし!じゃあ最終的にそのロムルス王国をぶっ倒せばいいんだな!」


俄然やる気が湧いたぜ!


「はい!それから大東亜(ダイトウア)帝国です!」


ん…?ティナの可愛らしい声で聞いてはいけない単語が発せられた気がするんだが…。


「それって…」


「もう一人の救世主が建国した今この世界で最も強く最も残虐な大帝国です。救世主の名は、灼熱の破落戸レッドヒートバンディッシュことトウジョウ・ヒデキ!」


「絶対本名じゃねーだろ!それ!てかそいつスゲー危ない奴だ・・・多分」


「なぜお分かりに!?流石救世主様です!」


うっそのおめめ反則!


「トウジョウ・ヒデキが…」


「悪い。そいつをそう呼ぶのは止めてくれ。せめてレッドヒートバン…もうバンちゃんでいいや」


これはきっと向こうの作戦だ。


新しい救世主が現れた時に動揺させるつもりだったのだ…だとしたら、俺はもう完璧にその術中だけどな。


「そ、そうですか。えーバンちゃんがこの世界に現れたのは今から5年程前です。彼はとにかく頭が切れました。最初彼を迎え入れたのは、鬼の小国、雷国(ライコク)でしたが、彼は驚くべき戦術を駆使し、国を拡大し、それだけではなくとうとう雷国の長老たちを皆殺しにし、自ら皇帝の座につき、大東亜帝国を建国したのです。かの国は人種差別は我が国ほどではありませんが、男尊女卑が激しい上に、バンちゃんの性的嗜好が”キチクサド”というもので、かの国の男性もそれに倣い、強姦・拷問・殺害は当たり前だとか。また法も厳しく亡命を企てるものは即処刑、他国からの入国も厳しく制限されており、冒険者が唯一自由に出入りできない国です」


「とんでもないな…」


「本当に最悪ですっ!」


ティナも頬を膨らませて怒っている。


怒った顔も可愛(以下略


「このままではどちらが勝っても私たちに平穏は無い。ですから私たちは三人目の救世主を求め、こうして毎日女神様に願い続けてきました。そして、今日、遂に!女神様があなた様を遣わして下さったのです!」


何か…想像していた以上にやばい状況で俺は召喚されたみたいだな。


やばい…考えれば考える程プレッシャーで頭がクラクラしてきた…でも。


「俺さ、その二人の救世主みたいに、身体能力があるわけでも、頭が良いわけでも無いし、そんな期待に沿えるか分かんない。でも…自分に出来ることを精一杯やるつもりだ。だって俺も許せないし、何より…」


目の前の二人を見る。


出会って一時間と経ってないし、この二人が演技をしていない証拠もない。


それでももうほっとけない。


何てかもうこの二人は俺にとって赤の他人ではなくなっていた。


「少しでも君たちの役に立つなら頑張りたい。だって俺をここに召喚するように願ってくれたのは君たちだろ。えっと、だからこれから宜しく」


ペコリと頭を下げる。


あれ無反応だけど…俺何かミスった!?


俺がビビリながら顔を上げるのと、顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにした二人が俺に飛びついてくるのは同時だった。


その後、大荷物を抱えた青年、ジョンが戻ってくるまでその二人が俺を解放することは無かった。


第三勢力、ここに結成。




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