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ロムルス農場でオズさんと合流し、俺とミケがそれぞれ二人乗りで馬を走らせる。


どうやらその良い物件というのはオズさんの所有地にあるらしい。


薄々感じてはいたが、オズさんは広大な土地をもつケードラ一の大地主のようだった。


見た目はまるっきりヒゲのない佐々木のじいさんなんだけどな。


人は見かけによらないもんだ。


ケードラの南端は山脈で区切られており、ロムルス農場を突っ切ると案の定、山の麓に辿り着いた。


ミケは馬から降りると背の高い雑草に囲まれた小さな石碑に近づいた。


「これは…!」


「あ…」


エリーゼも驚きに身を固まらせている。


男の腰程の高さの石柱は以前見たものより削れ傾いてはいたが、俺はこの石柱に見覚えがあった。


「トーテム…!」


エルフのみが使用することのできる移動システムだ。


「現在公式で使用されているのはテルーナのトーテムだけだけど、こういう古いトーテムがこの世界にはたくさん残ってるんだよ~。

エルフがいなくなったことで前時代の遺物と化してるけどね~」


エリーゼが引き寄せられるようにトーテムに右手を差し出した。


刹那、青白い炎と見紛う光がトーテムとエリーゼを包んだ。


青い光が消えるとオズさんがエリーゼの肩をトンと叩いた。


「どうけー?」


「…認識できました」


「んだんだ、んじゃ行くべ」


オズさんがスタスタ山道を登って行ってしまったので、俺たちも急いで後を追う。


「あれ?ミケ?」


ついてくると思っていたミケはひらりと馬に跨った。


「ん~僕今回はパス~。迎えにはくるから~。まあ死なない程度に頑張ってね、お兄さん♪」


そういうとキュッと口角を上げ、俺たちの馬も連れて走り去った。


「はい!?ちょっとお前!不吉なこと言い残して去るな!」


そして俺はミケの忠告が冗談ではなかったことを身を持って知るのだった。


「うわあああああ!!!」


「ほ~れ走れ、走れー。でねえとおっ死ぬぞー。」


今俺は必死に走っている。


文字通り、必死だ。


そして俺の後ろを真っ直ぐに大岩が追いかけてきている。


インディーなんとやらよろしくだ。


「ご主人様!」


既にオズ様に担がれ横の岩場に逃れていたエリーゼが何かの蔓を投げてよこした。


それに捕まり、足場を蹴って横にジャンプする。


凄まじい音が横を通り過ぎ、俺は本日何度目かの難を逃れたことを知った。


「危なかったなあ」


荒い呼吸をする俺に全く緊張感のない笑顔でオズ様が声をかけてきた。


オズ様は息一つ乱れていない。


細かいことは割愛する。


しかし一つはっきりといえるのは、オズ様は只者ではない。


佐々木のじいさんにそっくりとか思っていた朝の自分を殴り飛ばしたい。


樹木を傷つけて怒らせた一週間前の俺は命知らずだ。


「ほれ、水でも飲むが~?」


「結構です。オズさm…ん、お先に」


「遠慮はいがんなあ」


犬は躯で上下関係を覚えるという。


この何時間で俺の身体はしっかりと、俺≦ミケ<エリーゼ<オズ様←NEW! という上下関係を覚えました。


日が暮れ始めたあたりで野宿する。


この山は標高が特に高いわけではないが、裾野が広い上に数々の仕掛けがあるため中々山頂にはたどり着かないらしい。


「大昔は要塞だったかんなぁ。もう今じゃ人っ子一人近寄らねぇけんどな」


確かに安心、安全だが、そんなところに住んだら俺一生山から降りれないんですけど。


「あーでも、下にトーテムがありましたよね?もしかして頂上にもあるんですか?」


「んだ。だからおめえらに良い具合だと思ったんだども」


「それは大変助かります!」


じゃあ帰りはこの道を降りてこなくて良いんだ…!


その日の夜、流石にメインディッシュはお預けだったが、ぐっすり眠れた。


ストレスフリーって大事。


昨夜の会話で勇気づけられ、俺は足を引っ張ることなくサクサクと登ることが出来た。


そもそも昨日野宿した場所まで来れば山頂まであと一息だったらしい。


木々を抜けると背の高い草が茫茫と茂った草原が開けていた。


その中を三人は方々に歩きながら、トーテムを探す。


「エリーゼ!こっちだ!」


トーテムが使い物になることを祈りながら、駆け足してきたエリーゼを見守る。


ポウっと青白い光が起きた。


「認識できました」


ニコっとエリーゼが振り返る。


「…ヨッシャー!!!」


「きゃっ…!」


しまった、思わずエリーゼを抱き上げてしまった。


少し照れながらエリーゼを下ろす。


エリーゼも顔を真っ赤にさせながらモジモジしていた。


周りを見回してみると、この一帯だけが細い木や草が生えていることから過去に建物があったことが想像出来る。


もう少し散策してみると石壁や、斜めに傾いた塔が見える。


「大きいなぁ。城だったんだもんなぁ」


…ん?ちょっと待てよ。


それで俺たちはどこに住むわけ?


「見りゃわがっと思うけど、もう建物はねぇから、新しくおっ立てっきゃない」


これは少し計算が狂ったが、悪くないかもしれない。


何と言ってもここの安全性に勝る土地は他にないだろう。


トーテムはエルフにしか使うことはできないし、エルフでも行ったことのないトーテムには飛べない。


この山は少なくともオズさんの所有になってから身元のわからない者は登っていないらしい。


強いて言うならエルフの寿命がネックだが、大昔ここに来たことのあるエルフが襲ってくる確率と、町の付近で盗賊が襲ってくる確率、どちらの方が高いのかは火を見るより明らかだ。


「ガボさんのご友人に大工の棟梁さんがいらっしゃいましたよね?」


「おるよ。おらんとこで仕事さ回してんだあ。ガボの仲間だがらよお」


そう、彼とその大工仲間は確か獣人コミュニティーに属していた。


「彼らにお願いしようと思うんですけど」


「ああ、良い仕事するよお」


この城が造られた時の資材の搬入路は既に潰されてしまったらしいが、エリーゼ曰く、トーテムは人以外も運べるし、大きな物も魔力は使うが運べるらしい。


これで全ては揃った。


「ここを契約させてください!」


「50万ディナールだなぁ」


「え」


いやいや、それはこれから家も建てなきゃいけないのに、キツいな。


「え…えーと」


「この山やっから、好きに使えー。」


「えっ、本当ですか?」


「なーに、元々背後から農場が襲われねーように買っただけでえ、持て余してたからよお。

家の方はカルペンに話しつけっから、家代も込みでよお」


カルペンさんは大工の棟梁だ。


「え!?家も込みで50万ディナール!?」


「悪い話じゃねえーべ」


おお…神様、仏様、オズ様様!!!


条件は一つ、オズ様がこの山を登りたい時に登らせてくれること。


ここは山の幸も豊富に取れるらしく、そのために危険な目に合ってもついつい登ってしまっていたらしい。


だからあんなにスイスイ登れてたのか…とはいえ常人だったら一回目の登山で死んでいる。


やはりこの人、只者ではない。


これからはトーテムで直ぐ登れるようになるのだから、彼にとっても有益だ。


そうニコニコして散策に行ってしまったオズ様を待つ間、俺とエリーゼは新しい家について話し合った。


ここをキッチンにして、ここを広いリビングにしよう、エリーゼの機織りはここにして、家庭菜園も悪くない。


「それでさ、子どもが出来たら…」


俺の口から出てきた言葉に二人で思わずハッと顔を見合わせる。


顔から火が出るくらい熱くなってエリーゼは下を向き、俺は横を向いた。


「…あのさ、人間とエルフって子ども出来るのかな…」


言い出してしまった以上引くわけにいかず、横を向いたままボソボソっと話しかけた。


「…エルフは寿命が長いので、元々妊娠しにくいと云われています。人間とのハーフはおとぎ話でしか読んだことはありません…」


「そ、そっか…」


エリーゼの子どもなら絶対に可愛いのになぁ、少し残念だ。


「エルフは愛する人との間にしか子どもを成さないと云われています。

ですから…」


俺はエリーゼの方を向いた。


「わ、私は出来ると思います…ご主人様の赤ちゃんっ…」


「っ…!」


恥ずかしがりながらも真っ直ぐに俺の方を見つめてくる愛しい彼女に俺の理性は振り切れた…。


「待たせたなあ…どした二人共、服がぐちゃぐちゃだっぺ~」


「は、はははは…転んじゃって」


エリーゼは真っ赤になって俺の後ろに隠れている。


言えるわけがない、青空の中コウノトリを呼んでました、それも二回もなんて、言えるわけがない。

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