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ロムルス牧場

なんだ、ここは…。


ぼんやりとした視界にキラキラと黄金の粉が舞っている。


ふわふわして、まるで母胎の内のような安心感と心地よさが身体を包み込んでいる…覚えてるわけではないが。


遠くに人影が見える。


あのまさに黄金比率なプロポーション、エリーゼか。


『…ご主人様…』


エリーゼが優しい微笑みをたたえて俺の方へ歩いてきた。


清純な雰囲気を纏いながら内側から隠しきれない色気が滲み出てきている。


少女から大人の女性への脱皮。


そのさなかに女が放つ、最も危険な色気だ。


あどけない顔に油断していると、彼女の中で着実に開花してゆく性の華に男は囚われてゆくのだ。


『エリーゼ…』


俺は手を伸ばし、エリーゼをこの腕に抱きしめようとしたその刹那。


『マサト様…』


聞き覚えのある声に、俺はハッとした。


『ティナ…!』


俺は必死に周りを見渡した。


『…信じてますから。迎えに来てくださるって。』


『どこだ、どこなんだ!ティナ!』


『信じてますから…。』


『ティナ!!』


「…なあっ!」


ガバッと俺は起き上がった。


「ご主人様…大丈夫ですか?」


急に視界がくっきりとし、目の前には心配そうな顔をしたエリーゼがいた。


夢…か。


「…大丈夫だ。ここは…?」


「オズさんのお家です。鱗粉をかけられた旨をお伝えしたら、快く休ませてくださいました。」


「そっか…。」


「おーい。お兄さ~ん。目覚めた~?」


「ミケ!!」


扉を開けて、ミケが顔を出した。


「乗り気じゃなかった割に集合するのエラい早かったじゃん~。身体は、まだ痺れる~?」


「いや、もう大丈夫だ。にしてもあれは強烈だな。割に合わないにもほどがある。」


「ダンジョンにも繰り出せないような初心者中の初心者がやるクエストだもん~。知らなかったの~?」


「…興味があっただけだ。多分もう当分やらない。」


「それが良いね~。じゃあそろそろ行ける?みんな待ってるんだよ~。」


「ああ。」


立ち上がるとエリーゼが鎧を着せてくれた。


脱がしてくれてたのか。


ミケの後を追って廊下に出る。


オズさんの家は広いが普通の農家らしい素朴な造りをしている。


台所と思われる場所を左手に突っ切ると重い木製の扉があり、開くとただの貯蔵庫だった。


「常温で大丈夫なものはココね~。あ、野菜とか生物はこっち。」


ミケが切れ目のある床板をグッと上げ、梯子を下りる。


地下にある暗く寒い洞窟のようなこの空間はなるほど、冷蔵庫の代わりになりそうだ。


壁は一面食品棚に囲まれており、所狭しと食材が並んでいる。


しかしなんだ、俺に料理でもしろというのか。


意図はよく分からないが、ひとまず黙ってついて行く。


「ここからが大事だよ~。一つだけ酒樽が置いてある棚があるでしょ。これを手前に引くんだよ~。」


そう言ってミケは棚の右枠を掴み引いた。


すると酒樽と棚の枠で隠れていた小さな扉が出てきた。


「…隠し扉…。」


この奥に例の集会場があるということか。


地下だったら確かに余分な部屋があっても気付かない。


少し階段を降り、狭い通路を明かりが見える方へ進んで行く。


ザワザワという人が会話する声がだんだん近づいてくると俺の緊張も否応無しに高まって来た。


すると背後から手が伸びてきて俺のウエストにキュッと絡んだ。


エリーゼが後ろから抱きついて来たのだ。


「…え、え、どうし」


「…私がおりますから。そのっ…まだまだ非力ですけど、…ご主人様の傍におりますから…。」


俺の足が若干震えていたのが、バレてたのかもしれない。


優しく一生懸命励ましてくれるエリーゼの声が背中に暖かい。


「うん。ありがとう。」


震えが止まった。


「はい~そこ、イチャつかない~。」


「悪い、悪い。」


深呼吸して明るい空間へ一歩踏み出した。


ザワザワしていた空間は、まるで俺が出てくるタイミングを見計らっていたように、静寂が漣波のように広がっていく。


「今日は新入り候補を連れてきたよ~。タカイ・マサトさん、冒険者でーす。」


30人弱だろうか。


幾多もの修羅場を潜ってきたであろう殺気ばしった眼が俺を貫いている。


長閑に広がる田園風景の下にこんなごっつい景色が広がっているとは誰が予想出来ただろうか。


「えーとご紹介に預かりました。冒険者のタカイ・マサトで」


次の瞬間、ビュンッと風を斬る音がして俺目掛けて大鉈が降ってきた。


瞬時に左手でエリーゼを押し、右に避けつつ剣を抜きいなす。


「…獣人コミュニティー南支部長、ガボだ。ヨロシク。」


「…ってなんつー自己紹介だよっ!!あっぶねぇーじゃねーかっ!!」


「うむ。威勢も良いな。元気で何より。」


「何も無かったみたいな顔してるけど、お前さっき俺のこと殺しかけたよなっ!?なっ!?」


「では、新しい仲間に乾杯!」


「「乾杯~!!!」」


「えっ?無視?てか何決定してんだよっ!!」


「おめでと~お兄さん~。あ、今日は無礼講だから、呑んで呑んで♪」


「お前は年中無礼講だろ…てかマジ誰か説明してくれ…。」


前略


親父、お袋元気か?


てかそっちでは俺がこの世界に来た瞬間で時間が止まってるんだよな。


その間、こっちでは早いもので9日が経ちました。


そして今、俺は異世界ノイローゼに罹りそうです。


「何だ。希望者じゃなかったのか?」


「希望者も何も俺、人間だし!」


「「…ガッハッハッハッハ!!!」」


一瞬シーンと静まり返った会場に爆笑の渦が巻き起こる。


「何が面白いんだよ!」


「…一つ教えよう。お前がただの人間だったら、さっきの一撃で死んでいる。」


「そ、それは…」


「戸惑うのも分かる。お前のように人間に育てられ、自分が混血だと成長するまで知らない者も大勢いる。ここにいる者の多くもそうだ。」


「だから、つい笑っちまったのさ、俺もそうだったし。ごめんよ。」


ガボの横からヘラヘラしたおっさんが口を挟んできた。


そうか、さっきのはそのための一撃…。


うわーやっちまったなー、完全に獣人だと思い込まれてるよ。


「いや、その、なんて説明したらいいか、分かんないけど、俺は本当に人間なんだよ。」


「わかった、わかった。これからは俺たちが助けてやるから、色々頼ってくれよ。」


いや、お前は全然わかっていない。


「本当に違うから!」


「まあ、まあ。よく聞け、坊主。混血だからって人間のフリが出来た時代はもう終わりだ。今は実験段階だが、政府は近いうちにアラワールを国中に配備するだろう。そうなる前に、なるべく多くの同胞を救い出さなきゃならん。」


「…アラワール?」


「もともとは狼人族が吸う煙草さ。一時的に力を強める効果があるんだが、その煙を混血が吸うと獣人の力が強まって、特徴が出てきちまうんだ。政府は今それをお香のように部屋に焚いても効果が出るように改良してやがる。混血も一網打尽にするつもりよ。」


「それ、対処方は無いのか?」


「政府がどこまで改良してるかだな。元々人間にとっても獣人にとっても身体に良いものじゃないんだ。今使う所は限られてるだろ。ここはそういう情報も入る。坊主も捕まりたくないなら、ここの集会には顔出しといた方が良いぞ。」


「それでは今日の本題に入るぞ!」


ガボが部屋の奥の一段上がったところから手を叩いて、みんなに呼びかけた。


本日の議題が始まるらしい。


「では、まずミケ!」


「は~い。ベレーヌ家はシロだったよ~。たまたま新しい奴隷を仕入れに行っただけみたい~。」


ベレーヌというのは何を隠そう俺とミケが護衛をした奴隷商人のことだ。


あいつ、獣人コミュニティーの偵察中だったのか。


「とすると、政府の研究機関からアラワールを購入したのはマルーヌ家である可能性が高いな。」


「おそらく、今度開催される奴隷オークションで使用するつもりだぜ。獣人奴隷の質を上げて高値で売るつもりだ。」


「何とかそのアラワールを手に入れてどこまで改良されたのかを調べたいところだが…会場に焚き染められている可能性もある。迂闊に手は出せない。」


「じゃあこのまま指咥えて黙って見てろっていうのか!」


「ならお前会場に潜入できるのか!?」


あーでもない、こーでもないと、会場は一気に騒然となった。


「俺、やろうか?」


全体的に強引な感じのこの組織に最初は面食らったものの、よく話しを聞いてみる限り、悪い組織では無さそうだ。


というかむしろ、俺と目標を等しくしている可能性が高い。


俺の目下の目標はこの王国の人間至上主義を倒すことなのだから。


ならば、協力して然るべきだ。


「だから、坊」


「俺は正真正銘の人間だ。ちっとばかり反射神経が良いだけで。でも、俺は人間至上主義には反対だ。だから、協力したい。」


「…そこまで言うなら、白黒はっきりさせよう。」


ガボはそう言うと懐から、葉巻のようなものを俺に差し出した。


「アラワールだ。吸ってみろ。」


「お…おう…。」


ガボは俺にアラワールを渡すと、先っぽに火を点けた。


緑色の煙が上がり、俺は煙草と同じ要領で吸った。


「…ぐへえっ!!げほっげほっ!!」


まっずい!!


咽せる俺の背中をエリーゼが心配そうに撫でてながら、水を飲ませてくれた。


ゼイゼイしている俺を囲んで、静かに観察していた人々が俄に騒ぎ出した。


「…本当に人間なのか…?」


「げほっ…だからそう言って…。」


「どういうことだ!ミケ!」


非難の矛先がミケに向く。


「…マルスさんもね、人間だって言ってたんだよね~。」


は?聞き覚えのある名前が出てきたぞ。


「マルスさんが家に泊めてたから、同胞かと思って聞いたら違うって~。でもスゴい優秀だし、信頼できるって言ってたから気になって観察してたんだけど、明らかに人間っぽくないし、混血だと思ったんだけど…。」


そうか、よく考えてみればこいつとは、カントーラから一緒だったわけだから、同じ獣人同士、マルスと知り合いでもおかしくないわけだ。


「ま、いいんじゃん?」


軽っ!


お前、それはもうちょっとフォローしないと…。


「まあ、いいか。」


いいのかよっ!!


「マルスさんもミケも信用に足ると判断したんだ。人間の仲間が増えることは多いに喜ばしいことだしな。…オークションの件、やってくれるか?」


「おう。」


わーっと部屋全体が歓喜に包まれた。


「詳しいことは、後日ミケから連絡が行く。よし、今日は以上だ!みんな気を付けて帰れよ!」


一人、二人と集会場を後にして行く。


斑に帰るがバレないコツなのかもしれない。


「なあ、マルスもこのコミュニティーの一員なのか?」


「うん、そうだよ~。お兄さんのことも少し聞いたよ~、戦争で少し記憶喪失気味だから、ヨロシク~って。」


「お、おう…。」


その裏設定知らなかった!


「大変だったね~…あ、オズさん起きちゃうから、ここ出たら、家出るまで喋らないでね~。」


ミケの後に続き、そ~と扉を潜り、梯子を上って貯蔵庫に出たら、抜き足差し足で台所の勝手口から出る。


「…オズさんは何で参加しないの?」


「オズさんは人間だよ~。」


「へー!でもなんで、場所貸してくれるんだ?」


「ガボさんのお父さんなんだよ~。あ、これコミュニティーの外では内緒ね~。」


そうだったのかー!


ガボさん、お母さん似なんだな~。


「お兄さん、今晩もあの宿~?乗せてってあげるよ~。」


「悪いな。」


「乗馬はできた方が良いよ~。」


ミケが声をかけてくれた女性のメンバーの馬にエリーゼが、ミケの馬に俺が乗って、町の中心を目指す。


確かに馬に乗れた方がこれから色々と便利だろうな。


少し考えてみよう。

このオークションでぜひハーレムを拡大したい…!

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