救世主
願望をつめこんだだけの、文章、設定、色々と稚拙な小説です。
つまらないものですが、お手柔らかに宜しくお願い致します。
「…何だ、ここ…」
『選ばれし方よ、この世界を救いたまえ』
俺の名前は高井正人、某人気俳優の名前を噛んじゃったみたいな名前だが、本名だ。
22歳、就活NNT(無い内定)街道まっしぐらの大学4年生。
今日もクソ暑い中スーツを着て説明会へ向かっていた。
「ヤバッ!遅刻する!」
また人身事故とかふざけんじゃねぇぞ、中央線!
全駅に電車に飛び込んだ場合の賠償金額を書いた立看板を設置することを要求する!
この高温多湿な日本の夏にスーツ着て走るとか、クソ就活め…!
「爆発しろっ!」
その瞬間、俺の視界を白い凪ぎが襲った。
「なっっ!!」
まるで本当に何かが爆発したような風圧で顔を思いっきり殴られ、俺は小さい頃おやつを盗んだ時にくらったお袋の張り手を思い出しながら意識を手放した。
目が覚めるとそこは…
「…何だ、ここ…」
ストーンヘッジだった。
「なわけあるかああああー!!!」
大パニック、ダイパニック、DAIPANIC、TITANIC!私、空を飛んでいる、ジャック!
『選ばれし方よ、この世界を救いたまえ』
「いや今それどころじゃないんで!…って、え?」
凛とした静かな女性の声に俺は我に返った、というか返らされた。
その声には本能的に人を従わせる何かがあった。
俺は辺りを見回した。
ザァーっと心地の良い風が緑の大地を凪ぐ。
その広大な平原にポツンとある巨石を組み合わせた円陣、その中に俺はいた。
「あんた誰だ」
俺は姿の見えない声に対して問いかけた。
『私はデア。あなたを選び、ここへ召喚した者』
召喚…?待てこの設定、よく読んだことがあるぞ。
「異世界…?」
『はい』
「いや、普通に”はい”って」
俺はため息をついた。
呼吸を繰り返す度に吸い込む緑の香り、頬を撫でる風、サワサワと座り込んだ俺の胸の辺りまで伸びた草が体に当たる。
頭では全く理解できていなかったが、俺の身体は理解していた。
俺の視界が捉えているこの世界は現実であると。
「で?何がどうなってんの?手っ取り早く説明してくれ」
『随分順応の早い方ですね』
「順応するための説明を求めてるんだよ」
『そうですか。では。かつてこの世界は一つの国でした。私を中心とした』
「あんたを?」
『はい。私は神々からこの世界を任された女神です。あなたの世界とは違い、この世界は小さいですから、神は私一人ですが。しかし世界の始まりはどこも同じです。この世界もあなたの世界と同様に神が創り、神と人々が共存する時代がありました』
「神話の時代だな」
『はい。しかし神話の時代は終わりを告げます。人々の生きる世界を人々に任せるため、私は私の支配を止め、人々を見守ることにしました。人々が自立し、幸せな生活を送る世界を望んで』
「…何かこの先が読めてきた」
『しかし、人々は争い、奪い合い、傷つけ合い、国は分裂に分裂を繰り返し…まるで細胞分裂のようでしたよ』
「さ…細胞分裂って…具体的過ぎる例をどうも」
『人々の願いは私に届き、私は再びこの世界に介入することを決意しました。しかし、私がこのまま介入しては昔と同じになってしまう。そこで…』
「俺ってわけか」
『はい』
「しかし…何てか…何で俺なの?」
『ランダムです』
「へえー…ってランダム!?適当過ぎだろ!?世界を救うのに!!」
『大丈夫です。昔から世界を救うのは選ばれし勇者ですから』
「いやだから、俺別に選ばれし勇者の素質なんて無いし…」
『選ばれし勇者とは、たまたま選ばれてしまった平凡な人間がしかたがないので、頭も力も無いけど勇気だけを振り絞り困難に立ち向かうから勇者なんです』
「あーなるほど…って貶してない!?全世界のヒーローたちに謝れよ!」
『何故あなたも涙目なんですか?』
「男は皆いくつになってもヒーローを愛する生き物なんだよ!」
『…まさかあなたも愛と勇気だけが友達だなんてことは…?』
「やめろ!彼は俺の人生で初めて出来た友達なんだぞ!」
正確には、物心ついて初めて貰ったクリスマスプレゼントだったんだけどな!
『とにかく、あなたにはこの世界で生活してもらいます』
「まぁそうだよな。ってちょっと待て」
俺はここでようやくとある重大な疑問にたどり着いた。
「まさか俺このまま元の世界に帰れないわけじゃないよね?」
『帰りたいですか?』
「え、いやその、今すぐ帰りたいとかじゃないけど、一応」
むしろ帰りたくないけどさ、今は。
『この世界に来る直前、あなたはあの世界から強い逃避願望を示していました。未練はないのかと思いましたが』
「あ、バレた?」
『はい。ランダムとはいえ、利害が一致しないと召喚しても無駄なので』
なるほど。合理的だ。
『でも一応帰りたいと願うのであれば考慮しますし、この世界で亡くなれば自動的に元の世界のあの時間に送還されます』
会社の説明会に遅れる5秒前だろ、それは何が何でも死にたくないぞ。
「頑張ります」
『では、あなたに力を授けます」
「え、力?」
来た!選ばれし主人公に授けられる特殊能力…!
『所謂チートです』
「やめてくれよ!夢が壊れる!」
しかしツッコミとは裏腹に俺の期待は急速に高まった。
空が飛べるとか?蜘蛛の糸が手首から飛び出るとか?まさか顔を他人に分け与えるとかじゃないよな…いや、馬鹿にしてないよ!人生初の友人を馬鹿にするわけないじゃないか!
『あなたの五感、及び第六感を少しばかり…』
「…少しばかり?」
『試せばわかります。以上です』
「いやそこは手っ取り早く説明しなくて良いよ!もっと詳しく!」
『では、頑張って下さいね』
「うぇ!?ちょっと待てっー!!おーい!デア!女神様ぁー!!」
彼女の気配は完全に消え去った。
俺は自分の体から冷や汗が滲み出てくるのがわかった。
今現在俺はこの世界のことを何も知らない。
あの女神様の身の上話以外は。
てかあいつ世界に介入してない時間が長過ぎて、
「怠け癖がついたな…」
俺の独り言は風に溶けて消えた。
こうして右も左も分からないまま俺の異世界第一日目がスタートした。
「どうすりゃいいんだ…」
浮かれていた俺は今一気に現実に引き戻された。
だってこんなに早く、
「放置されるとは思わなかったし…」
もう少し説明があってもいいじゃないか、この世界の国の仕組みとか、お金とか、仕事とか、一日の過ごし方とか…。
「まぁ、そんなゲームのチュートリアルみたいなことがあるわけないか」
何たってこれは現実なのだ。
「ひとまず動くか」
しかしどこへ…。
そういえば、女神様が俺に与えてくれた能力は、
『あなたの五感、及び第六感を少しばかり…』
五感…ってことは視覚か!
「千里眼!!」
…何も起こらないぞ、千里眼とかちょっと欲張り過ぎたかな。
「望遠鏡!」
何も起こらない。
「双眼鏡!」
…。
「オペラグラス!」
…。
「眼鏡!」
…。
「え、遠視?」
…。
「じゃあ近視…」
目を悪くしてどうする。
クソ何も起きないじゃねぇか。
何、案ずるな!五感とは視覚だけでは無い!
「触覚!」
草がサワサワと体に触る、特に変化なし。
念のため頭を確認、何かが生えてくる気配も無し。
「嗅覚!」
息を吸い込むと濃厚な…大地の香りがした。
癒されるけど、特に変化なし。
「み…味覚?」
変化なし。
あ…あとは聴覚!
「耳をすませば!!」
カントリーロード…。
「そもそも道がないんだぜ、雫…」
俺は力なく大地に寝そべった。
すると、何となく左の方向が気になった。
そこへ向かえば続いてる気がする…俺の行くべき場所に。
「…第六感か!」
ようやく活路を見出した俺は、湧き上る不信感を抑えながら、己を信じ、ようやくこのストーンヘッジもどきから歩み出した。
歩くこと1時間。
就活生必須アイテム腕時計がその時間を教えてくれる。
父親からのお古の腕時計は自動巻きなので電池切れの心配もなく、修理したてだったのであと5年くらいは役に立ちそうだ。
まあこの世界に時間という概念があればの話だが。
石の円陣から限りなく続いた青々とした大地は不自然な程の美しさを誇っている。
その平らな地面に終わりが見えた。
もしかして、ここは広大な丘なのかと、確かめるため俺が早足になった時、突然ぬっと人が飛び出てきた。
坂を上がってきたらしいその人物は小柄で可愛らしいリスのような少女だった。
ダークブラウンのストレートで長い髪とくりっとした大きな栗色の瞳が実に愛らしい。
俺はこの世界で初めて会った人間にも関わらず、警戒心の欠片も無く少女の顔を凝視してしまった。
その少女も少し驚いたように俺の顔をじっと見つめた後、ショックを受けたように目を見開き、地面に身体を投げ出した。
「お待ち申し上げておりました!救世主様!!」
「うぇっ!?何急に!?」
すると少女の後ろから「何だ?何だ?」という声と共に男が二人登ってきた。
一人は中年のかなりガタイの良い男、そしてもう一人は俺くらいの青年だ。
その二人も俺を見た瞬間ぎょっとした表情をし、俺の全身をじろじろ眺めてこう切り出した。
「し…失礼ですが、あなた様はどこからいらっしゃったので?」
年長の方の男が問いかけてきた。
「えーとあのスト…石の円陣みたいなところから」
「グレート・テンプルからですね!?間違いありませんわ!救世主様は今いらっしゃったのですか?」
少女が興奮したように俺に顔を寄せてきた。
「う…うん」
か…可愛い…!
「た…大変だ。おい!お前!ボサっとしてないで、町に戻って救世主様に服と袋と…ええい!ターニャに事情話して必要な物全部準備して持って来い!他の奴らには言うなよ!走れ!」
「は…はい!」
中年の男に怒鳴られ、慌てて若い青年が坂を駆け下りた。
男の言葉で俺は初めて自分の格好と彼らの格好が大分違うことに気が付いた。
俺は完璧な就活生ルック=スーツだ。
対して彼はまるで兵隊のような防具をつけていて、雰囲気はそう、古代ローマ兵の下っ端みないな感じだ。
そして小柄で可愛らしい彼女も神殿の巫女のような白い滑らかなワンピースを着ている。
小柄なせいかドレスの裾がちょっと余っている。
胸はぺったんこ~…いやしかし可愛いから許す!
「救世主様どうか私たちをお救い下さい…」
そのうるうるした大きな瞳で上目遣いは反則!反則!
俺はドキドキ鼓動する胸を抑えながら、何とか状況を把握しようと頭を整理する。
「え…えーとその何で俺が救世主…?」
女神様の説明と照らし合わせて俺が救世主、というと小っ恥ずかしいのだが、まぁそういうつもりで召喚されたんだろう。
だが、一般市民にまで認知されているのか?
だとしたら俺無理!
そんな実力ないし、何よりどこ行っても救世主様!救世主様!じゃ、恥ずかしくて便所にも行けねーぜ!
「女神様からお聞きになっていないのですか?」
そんな俺の焦りとは裏腹に彼女は可愛らしく小首を傾げている。
「この細胞分裂した世界をどうにかしろ…てそんな感じのこと言われたけど、詳しいことは…」
「まぁいいじゃねーか、ティナ。俺たちが説明すれば良い話だ。何よりこの方は間違いなく俺たちの救世主様なんだからな」
ガタイの良い中年男がまだ俺に質問しようとする少女、ティナというらしい、を制した。
傷があちらこちらにあるこの男はいい年して髪の色が真っ赤だった。
俺が日本にいたら近づきもしないタイプだが、何となく信頼できる人な気がした。
本当は疑ってかかった方が良いのかもしれないけど、ここは異世界、地球の常識はきっと通用しないだろうし、もし抵抗したとしても、この世界に降り立って一時間の俺なんて赤ん坊みたいなもんだ。
それに何と言っても俺は世界的に最も平和ボケした人種=日本人だからな!
まずは笑顔でお辞儀、そして身の危険を感じたら、世界で最もポライトな態度、土下座で勝負だ。
「まず、お座り下さい」
そのおっさんの指示通り俺は地面に座った。
するとおっさんも俺の前に座り込み、その横にティナが続く。
「俺の名前はマルス、冒険者です。こっちはティナ、グレート・テンプルの巫女です。あなた様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「タ…高井正人です。あのマサトでいいですから」
「マサト様、俺たちの願いを聞き入れて下さい」
おっさん改め、マルスは語り出した。