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第1話 負けず嫌いに生まれて

 初執筆、初投稿作の第1話です。

 いろいろと拙いでしょうが是非お楽しみくださーい!

 レース竜。飛行可能な中型種の竜を、ただただ速く飛ぶことだけを目的として人間が品種改良した竜で、それはいわば竜のサラブレッドのようなものだ。

 そこから名を取って、血統のあるレース竜は「ドラグレッド」と呼ばれている。


 翼を広げるとその幅は10mを超えるが、翼に対して体があまりにも小さく、馬程度の大きさしかないのが特徴だ。

 見た目はいわゆる正統派の爬虫類系と鳥に似た猛禽もうきん系の2種類に大別でき、全身に頑丈なウロコを持つもの、毛皮に覆われたものや角を有するものなど、交配した竜やその血統によって見た目は多種多様な変化に富んでいる。しかし肝心の体格・翼の大きさはどれもほぼ同じくらいであり、出せるスピード自体にも大差はない。

 

 自然界のあらゆる飛行生物の中にあってもドラグレッドの飛行能力は群を抜いている。

 如何なる捕食動物も寄せ付けない速さをもち、大きな翼を広げて雄大に飛行する美しい姿は人の心に鮮烈なインパクトと刻む。数々の名画や彫刻の題材として多く用いられ、国家のシンボルや時には信仰の対象にさえなりもしてきたことからも、人がいかにこの竜を愛してきたかを伺い知ることができる。文字通り空の王者というわけだ。

   

 しかしその反面、地上を歩いて移動する様は何とも無防備だ。

 大きな翼を不器用に畳み、如何にもバランスが悪そうにふらふらと危なっかしく歩く姿は、地に落ちた蝙蝠が枝木を求めて這いずり回る姿そっくりにも見える。

 実際、ドラグレッドは歩くのが苦手だ。空の中にあるうちは安全だが、地上にいる時は一転して食物連鎖の最下層に近い存在になってしまう。

 

 空の王者の称号と引き換えに、ドラグレッドは生物として大きな代償を支払った。

 翼を大きくすることだけに重きを置いて品種改良が進められた結果、警戒心がなく、餌を上手く捕ることができず、身を守る手段さえ忘れ、自力での巣営・育児が不可能な、気候の変化や怪我・感染症に極端に弱い竜という自然界では完全に生き残れない種になってしまった。

  

 人によって作られた竜。人なくして生きられない竜。常に人と共にある竜。それがレース竜ドラグレッドだ。


  ◇ ◇ ◇ 


「いっぱい人がいる、緊張するなぁ」


 騎手と並んでパドックを歩くバリトラ。どこにいても竜を見れるようにパドックはすり鉢型をしていて、集まった観客の熱視線を浴びながらその中を竜と騎手が練り歩く。これには竜の調教の出来やその日の体調などを披露するという目的があり、有能なギャンブラーはパドックを歩く姿を見ただけでそのレースに勝つ竜が分かるようになるのだという。


「ここではヘタなことはするなって言われてるけど、本当にただ歩いてるだけでいいのか? 前のヤツは何だかアピールしてるみたいだけど」


 バリトラの前を歩く竜は確かに首を大きく上下に振って如何にも自分は元気が良いと言わんばかりだ。それを見たバリトラが経験の浅さゆえに少しばかりの焦りを感じるのも無理はないが、先輩竜から事前に釘を刺されている手前、真似をして動くことができないでいる。

 言われたとおりに大人しくしていることが正解の行動であると気付けないのも経験の浅さゆえのこと。人間からすれば首を振ったり、鳴き声をあげたり、無駄に羽ばたいてみたりする行動は単に落ち着きがないか調教が不十分であることの表れとしかとれないマイナス行動なのだ。


 パドックを終えたバリトラ達が向かった先は、スタート地点の少し手前の最終待機場。ここで前のレースが終わるのを静かに待つことになる。

 


  ◇ ◇ ◇



 ドラッグレースは大まかに分けて3つの区間で構成されている。 

 スタートからコースに入るまでの「フリー飛行区間」

 レースの内容によって長さや複雑さが変化する「コース区間」

 そしてコース区間後、ゴール手前の「最終区間」だ。

 

 コース区間はハロンと呼ばれるバルーンによって定められる。 

 左右25m間隔で対になった大きなバルーンが一定距離ごとに浮かべられ、それを地上に固定するための長い長い鎖がコースの枠となる。

 このコースの中を通っている限り上下の制限はある程度許容される。遅い竜を追い抜くためにはバルーンの上限ぎりぎりを飛んでも、地面に激突するすれすれを飛んでも構わない。進路妨害でなければ縦や斜めになって飛ぶことも許される。

 


  ◇ ◇ ◇



 バリトラが出る今回のレースはいわゆる新竜戦と言われるものだった。レース経験のない竜のみによって行われるこのレースが今日の午前の最終の催しで、まだ見ぬ未来の名竜を見ようと熱心なドラッグレースファンがゴール地点に詰めかけていた。

 

「はあ・・・。とにかく練習通り落ち着いて飛ぶしかない!」

 

 思いつめれば竜だってため息もつく。本番では普段の7割ほどしか実力が出せないのは竜も人間も同じようで、練習ではいい成績でもいざ実戦となったらからっきしというのはドラッグレースにおいてもよくある話。

 

 ドラッグレースの練習は基本的には本番とさほど変わらない。着地やスタートの練習を手始めとして、人間が竜の背に乗って定められた練習コースを飛行するのが主だ。 

 難しいのはそこに至るまでの竜の調教段階の方で、危険なほど凶暴なものや体の弱いものはそこでふるいにかけられて落第してしまう。ドラグレッドとして生まれても実際にこうして新竜戦に出れるのは全体の70%程度だと言われている。

 そしてレースで勝者となることが出来るのは常にたった1頭のみ。厳しい世界だ。


「・・・!  歓声が聞こえる、第2レースが終わったのか」


 風に乗って彼方から先ほどと同じような歓声が聞こえてくる。高音とも低音とも、人の声とも獣の唸りとも風の慟哭どうこくともつかない音を耳にしてバリトラは身震いする。

 これから幾許いくばくもしないうちに自分もあの歓声の中に降りていくことになる、そう考えただけで頭から血の気が引くと同時に、口の中が嫌に乾いたような不快感を覚える。

 だが不思議と心だけは平静だった。自分でも何故かはわからないが心の中に「飛びたい!」という気持ちがある。それは決して面倒なことをサッサと終わらせて楽になりたいといった類のものではない。誰よりも早く飛びたい、勝ちたいという衝動に近いものだった。


 速く飛ぶ。ただこれだけのためにレース竜ドラグレッドは生物として余りにも多くのものを犠牲にした。しかしそんな生き物にたった一つだけ残された野性、本能と呼べるものがこの衝動の正体だ。

 

 自分は飛ぶために生まれた、だから飛ぶ。何よりも早く。

 ドラグレッドは例外無くこの本能に従って生きている。

  


  ◇ ◇ ◇



 バリトラは生まれて初めてドラッグレースのスタートゲートに立った。

 スタートゲートは各竜につき一つの枠とゲートがあり、それが横一列に並んでいるだけというシンプルなもの。一見して競馬の物と変わらないが、それとは決定的に違う点が一つある。

 ゲートがある場所だ。切り立った崖っぷちぎりぎりにゲートが設置してある。ドラッグレースは崖の上からグライダーのように滑空してスタートする。

 

 「凄い。いいな、これ・・・」

 

 ここからの景色を現役でいる間は幾度となく見ることになる。

 眼下に見える街。緑の森。雪が残る遠くの山々。丸みを帯びた地平線。固まりあった雲。青空。太陽。飛んでいる時にはいつも見ている風景も、今はまるで違う世界に来たような感覚がある。

 早くこの景色の中を飛びたい。頬をかすめていく風がバリトラを焦らせた。そわそわした面持ちで周囲を見回すと、ちょうど最後の竜がゲートに入ろうとしているところだった。 

 あいつが入ればが準備が終わるんだ、とドキドキしながら横を向いてその一挙手一投足をつぶさに観察していた矢先、それは起こった。

 

 一瞬だった。

 最後の竜が枠の中に入った瞬間、大きな金属音がしていきなり全てのスタートゲートが開いた。何らかの準備も、それらしい合図も一切なく、ただ唐突に開いた。

 

「え!?」

 

 一瞬頭が真っ白になる。完全に油断していた。しかし意識とは裏腹に訓練を受けた体はしっかりとスタートに反応する。頭で現状を把握するよりも早く、体が勝手にゲートを飛び出してバリトラは宙を落下していた。


「うわおおおおおおおお????!!」


 いきなり無意識で動いた体を意識的に操作する。肩に力を入れてその大きな翼を勢いよくバッと広げると、落下が徐々に滑空へと変わっていく。

 間一髪、地面に激突する前にどうにかこうにか風をとらえてバランスとスピードをを保つことができたようだ。遠目から見ている人間にとっては何ら問題のなさそうなよくある低空スタートだったが、バリトラ自身は何が起こったのかさっぱり分からなかった。


「は、始まったのかよ?! 合図もなしに!? どうなってるんだああ??!!

 ああ、くそ! く、そ・・・そ、そうだ飛ばなくちゃ! 飛ばなくちゃ!! 飛ばなくっちゃ!!!」


 パンクした頭を風で無理やり冷やすように翼を大きくはためかせて加速を始める。

 どこに飛べばいいのかは騎手が教えてくれる、自分はただ全力で飛ぶのみだと腹をくくった。

 

 バリトラに騎乗した騎手の手綱捌きは見事なものだった。すっかりパニックになっているバリトラをうまく誘導し、道しるべとなるものがないはずのフリー飛行区間を無駄のない最短ルートで、しかも常にその時の最高の加速を得るための風をしっかりとらえながら進んでいく。

 安全を考慮して新竜にはある程度経験を積んだ騎手が騎乗する決まりになっているのだが、幸運なことにどうやらこの騎手はその中でも頭一つ抜きんでているようだ。

 バリトラはまだ気づいていないようだが、そのおかげか現在のところバリトラがトップに立っている。


「もっと速く!もっと速く!!もっと速くううう!!!」


 風を選択する騎手の意図を汲みながら可能な限り加速を続ける。もはや心にスタート前の余裕はなかった。

 先ほどまでまだ遠くにあると思えた森が、次の瞬間には腹の下をかすめていく感覚を残して消えてしまう。耳に入ってくるのはゴーゴーという轟音のみ。それが風の音なのか、自身の中から聞こえるものなのか、そもそも耳が聞こえているのかどうかすら今のバリトラには判断できない。乾ききった目には勝手に涙が流れているようだが、猛烈なスピードの中でそれは目を潤すことなく全て横に千切れ飛んでいってしまう。 

 

 優れた騎手の誘導で、今バリトラは自身でも出したことのない、自分が出せるとは思わなかった初体験の速度と加速を味わっている。自分はこんなに速く飛べたのか!と必死さの中にも新鮮な驚きを隠せない。それが自信となったバリトラは力まかせに翼を動かし暴力的に加速していく。


 しかしその新しい自信を他の竜も同じように感じているようだ。後方から何頭もの竜たちが何が何でも負けじと追いすがってきた。そしてバリトラの通った跡にできた空気の流れを見つけると、それに乗ってあっという間に4、5頭の集団が加速してくる。

 

「ウソ!? 並ばれる!? は、速い!? 速いッ!!」


 一見、ただ空を自由に飛んでいるように見えるドラッグレースだが、そこには「気流」という駆け引き要素がある。

 それがどのようなものかは渡り鳥を例にあげてみると分かりやすい。

 渡り鳥が三角形の隊列を組んで飛行するのを見たことがあるだろうか。実はあれにはちゃんとした理由がある。三角形の隊列、それは先頭の先導役が作った気流に後方の他の鳥が乗るための隊列だ。先導役が作る気流に乗った後ろの鳥は、ほとんど体力を使わずに飛行することができるうえ、ちょっとした力だけで大きく加速することもできる。

 先頭が疲れてきたら自ずと全体の速度が落ちる、すると集団の中で最も元気な誰かが自動的に先頭と入れ替わる。これを繰り返すことで、渡り鳥は体力の消費を最小限に抑えながら陸から陸へ何千キロと旅をすることができるというわけだ。

 

 今まさに、それと同じ状況がレースで起こっていた。後方集団はバリトラを先頭にすえた三角形の隊列を組み、発生する気流を完璧に余すところなく捕らえながら飛行している。

 

「くっそ、なんて加速だ! 振り切れない!」 


 バリトラがどんなに必死に加速しても後方の集団を振り切ることができない。不気味にピッタリついてくる。このトップ集団は皆、先頭のバリトラの作る気流に乗って飛んでいるのだから振り切れなくて当然と言えるが、しかしこのまま進むとバリトラの体力が持たない。いつかはバテて先頭を譲ることになってしまう。

 追いつかれた時点で今のところ自分がトップだと気付いたバリトラだったが、自分の体力が確実に減り始めていることも感じていた。

 


「あ!あれはハロンか!?ということはもうすぐコース区間だ!」


 直線上の彼方に宙に浮いたオレンジ色のバルーンとそれにつながった鎖で出来た直線の回廊が見える。コース区間の入り口だ。

 

 新竜戦のコースはいたってシンプル。陸上競技の楕円形トラックを思い浮かべてほしい、あれに似ている。

 直線の回廊を進んで楕円形の頂点からコースに入る、そしてコースを一周半した後に、入口とは反対にある出口から下のゴールへと向かうという単純なもので、レース経験のない新竜でも安全に飛行できる定番コースだ。


「このまま突っ込むしかない!行くぞおお!!」


 さらに速度を上げて直線コースに突っ込もうとしたバリトラだったが、しかし騎手がそれを制した。


「んん!? な、なんでッ!?」

 

 自分の考えとは逆の指示にバリトラは混乱し、加速が鈍る。この一瞬の躊躇を追跡者は見逃さなかった。待ってましたとばかりに後方の5頭の集団が今まで温存していた体力をフルに使って一斉に加速を始め、翼を大きくはばたかせながらあっさりと、あっけなくバリトラを抜き去っていった。

 

「しまった!くそ、負けるかよ!!」


 加速を制したこの騎手の判断は正しかった。あのまま加速していたらバリトラは途中で力尽きてしまっていただろう。

 バテたふりをして先行を譲るこの戦法はドラッグレースにおいては基本戦術の一つだ。敵にあえてトップを飛ばせ、自分は気流に乗ることができる位置をキープして体力を使い切ることなくチャンスを待つ。

 

 トップ集団の気流に乗って直線の回廊へと侵入するバリトラ。

 回廊の幅は25m、翼を広げたレース竜の幅は10m。先頭の気流を得るために、トップの後ろの4頭は自ずと2列の隊形になる。バリトラはそのさらに後ろにいた。

  

「狭い。このままの高度じゃ抜けないか」

 

 高度を変えて上下から抜くことができるといっても、それにはかなりの体力が必要だ。今のバリトラにはまだ抜くだけの余力はあるが、抜いた後で再びトップを維持し続けるほどの力が残っているかは怪しい。バリトラ自身もそのことは理解出来ているので仕掛けることができないでいる。今は現状を維持するほかはない。

 

「直線区間が終わる、コースだ!」


 反時計回り、一周半の楕円コース。

 楕円の頂点から一周半という事は、途中で大きなコーナリングが2回あるということだ。そしてそのコーナリングでは否が応でも全体の速度が落ちることになる。決して長くないこのコースで、前の集団を抜き去るチャンスはそこにしかない。


 現状の速度を維持しながら楕円コースに入るバリトラ。トップ集団とは付かず離れずの位置をキープしている。

 鼓動が高鳴る。それはレースの疲れのせいではない。レース竜ドラグレッドとしての本能が、獲物を狙う冷徹なハンターの野性がそうさせていた。


「!」


 不意に集団との距離が近づく。バリトラ自身は速度は上げていない。

 つまりチャンスだった。レース未経験の竜の集団が、騎手の指示を無視して我先にとコーナーに詰めかけた結果、先が詰まって必要以上に速度が落ちてしまったのだ。

  

「今だッ!」


 バリトラは力いっぱい加速した。そして高度を上げてコーナーの中でもたついている集団を上から一気に抜き去り、立ち上がりでさらにさらに加速する。

 歓声が聞こえた気がした。風を切る音の中に自分の名前を聞いたような気がした。


「おおおおおおおおおおおお!!!!!!」


 ひたすらに、がむしゃらに加速を続ける。上げた高度を降ろす猶予も、後方を気にしている余裕もない。そのまま2回目のコーナーへと一直線に向かう。

 コーナーの直前、絶妙なタイミングで騎手の手綱が減速の指示を下す。しかしバリトラは必要最低限のブレーキのみで、ほとんど減速しないままにコーナーへと突っ込んでいった。

 

 勢いに任せて曲がり始めた途端、体が外へ外へと引っ張られて軌道が大きく膨らんでいく。明らかに突っ込む速度が速すぎたのだ。しまった!とそれを悟った瞬間、今まで体験したことがないほどの強烈な遠心力がバリトラに襲いかかってきた。

 頭に血が昇る。吹き飛ばされてコースの枠に激突すればリタイヤは必至だ。右を下にして斜めになりながら、精一杯大きく広げた翼で凶悪な横Gを受け止める。ぎしっ、と翼の骨がきしんだ。一瞬の油断も許されない状況にあって

 

(耐えろ! 耐えろ!! 耐えろおおお!!!) 


 その一言だけがバリトラの頭を埋め尽くしていた。

 ぐっと奥歯を噛み締めながら見えない力と戦い続け、そしてついに遠心力の魔手から逃れきった。

 これから先にあるのは半周分の直線コースと滑走路のような最終区間。そこにある地上4mのゴール塔の真横を過ぎればこのレースは終わるのだ。今の高速コーナリングで体力は使い果たしたが、気力で体を動かし加速を続ける。

 

(もうすぐゴールだ!このレース勝てる! 勝てる!!)

  

 そう思った矢先、背後に何か嫌な気配がした。後ろ下から妙な圧迫感を感じる。そしてそれはどんどん大きくなりながら確実に自分に迫ってきている。

 プレッシャーに耐えかねたバリトラがチラリと後ろ下を見ると、そこにはやはり先ほど抜いた5頭の集団がいた。

 

 勝負への執念、それは新竜だろうとベテランの竜だろうと変わらない。あの集団の中の誰をとっても満足に体力が残っている者はいなかった。しかし凄まじい勝負への執念がレースを諦めることを許さない。

 空の王者の、ドラグレッドの血が空っぽの体を駆動させ、全員が全員、最後の最後まで勝つチャンスを狙って必死に喰らいついてきている。


 バリトラの背筋が凍った。一目見て分かる、速度はあの集団の方が僅かに早のだ。このまま行くとゴール手前で追いつかれるか、あるいは抜かれてしまうことになる。

 どうしようもないまま、近づきつつある集団と共にコースを抜ける。いよいよレースはゴールラインを目指すのみとなった。

 依然トップはバリトラだが、しかし着実に追いつめられてきている。振り切ろうにももう体力がなく、これ以上加速することができない。絶体絶命のピンチだった。



  ◇ ◇ ◇



 ドラッグレースのルールでは、ゴールラインは地上4m以下で通過することが義務付けられている。これは高い高度だとはっきりゴールしたかどうか分からないという何とも当たり前の理由のほかに、実はもう一つウラの理由がある。

 それは観客を喜ばせるため。ゴールをわざと危険な低高度に設定して、竜たちの迫力の低空飛行を見せるためだ。


 今回はそんな人間のエゴがバリトラに味方した。

 コースの最初のコーナーで集団を抜く際に高度を上げたこと。たったそれだけのことがここにきて明暗を、勝者と敗者をはっきりと分けた。

 

 地上4m以下に降りる急降下を始めると、バリトラと後ろの集団との距離が見る見るうちに離れていく。高度の違いがそのまま加速の違いとなって表れたのだ。皆、これ以上加速する体力が残っていない以上、この違いは決定的なものになる。


 バリトラはもう何も考えられなかった。ただまっすぐ前を向き、高速で地面すれすれを飛びながら目まぐるしく変わっていく光景を見ていた。

 着飾った人々に埋め尽くされた観客席が見える。時たまそこに白い紙の花が咲いては散っていくのが見える。一瞬で通り過ぎていくはずの地面の小さな小石も何故だか今ははっきり見える。そして、ゴールが目前に近づいてくるのが見える・・・。 


 大歓声に迎えられ、バリトラはゴールラインを通過した。今まで遠くから聞いていたこの大歓声を今日は間近に聞く。

 疲れ切ったバリトラはそれが自分に向けられたものだと理解するのに少々時間がかかった。 


「はあ、はあ、終わった・・・?   勝・・・・った、のか?   本当に勝ったのか!?  僕が!? えええ!!?

  

 勝った!?   勝ったあああ!!!    勝ったあああああ!!!!!!」




 4頭身差  全11頭中1着 バリトラ


 終わってみれば2位と竜4頭分もの大きな差をつけての快勝。

 新竜のみで構成されるレースは年間を通しても数回しかない。その中で勝利を収めることが優秀なレース竜としての一種の勲章、大きなステータスになる。バリトラ自身が思う以上にこの勝利は嬉しいものだった。

 


  ◇ ◇ ◇


 さて、今回の勝利は騎手の差によるところも大きい。実のところバリトラの勝利の半分は騎手のおかげだと言える。このレースでバリトラに騎乗した騎手は、騎手の中でも最高クラスの実力を持つベテランだったのだ。

 メインの第6レースに出る前に、バリトラが飛んだ第3レースに体をならす目的でたまたま出たに過ぎない。バリトラに乗ったのも単に人気が1番高かったからだ。

 

 そんな騎手が、レース後にバリトラについて質問された際、たった一言こう答えたという


 バケモンが出た、と。

 

第1話 終わり

 いかがでしたか? 詳細が分からない部分については要修行といった所ですが、雰囲気だけでも伝わってくれているとうれしいですー。

 お気軽にご感想お待ちしていまーす!


 それと、まだこのサイトの使い勝手がよくわかりません。お気に入りや、ユーザー登録なんかもどうやっていいのやら・・・。


 誰か教えてほしいですー、ああ。

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