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たった、ひとこと  作者: 雪野おと
第一章
8/10

見知らぬ土地―7

 カイトさんは宣言通り、私の様子を見ながら休憩を挟み、ゆっくりと進んでくれた。途中昨日の狼さん……じゃなかった、魔物? 程ではないものの、ちょくちょく現れる蝙蝠のような魔物はすぐに魔法でカイトさんが倒してくれている。それも、恐らく私に配慮した戦い方で。

 本で見るより実際に目にする魔法のすごさに私は目を丸くするが、それよりも驚くのはカイトさんのどこか慣れている様子の戦い方。ぱっと手を振り切った場所に雷を出現させ、敵を一瞬で切り裂いていて……それが、昨日のように血肉が飛び散る事なく、まるで、そう……水が蒸発して水蒸気になるように、断面からぱっと白い光の粒が飛び散っていき、きらきらと輝いて空気に溶け込み消えていく。おかげで昨日程の恐怖は感じずに私は道を進んでいた。

 ……もっとも、恐怖、混乱は今は殆どなかった。なぜかってわかってる。私は……我慢、ううん違う。諦めるのは……慣れてるから。特に元の世界に興味も執着もない私は焦る事も恐怖する事もない。ただ今私を守ってくれている彼は『私を守る』という点において嘘は言ってないようだし、嘘をついていたからといって特に私は困らない。今は流れに身を任せるしかない……というか、どうでもいいのかもしれない。あるのは、若干の興味……彼は言わなかったけれど、占いで予知された私を探す『理由』だ。


「なるべく魔物に見つからないようにと術を施してはいるのですが、何回か戦闘になるかもしれません」

「……大丈夫です、すみません」

 確実に足手纏いだと自覚している私は、ただただ申し訳なくて俯く。護身用の武器になりそうなものすらない。ここではカイトさんに護られるしかなかった。

「ありがとう、の方が嬉しいです」

「え?」

「昨日から、すみませんばかり聞いていますから」

 言われて、そうかもしれない、と気づいて。

「……それは、たぶんカイトさんもだと思います」

「そうでしたか?」

 顔を上げると、カイトさんはにこりと微笑んでいて。

 綺麗な顔だなぁ。背、高いし。もてそう。……って私、何考えてるの!

 そんな事考える余裕が出てきた事に、私は一人苦笑する。でもしょうがないよ、本当にびっくりするくらい、綺麗な人だから。

「……ありがとうございます」

「ええ、どういたしまして」

 ここでまた、微笑み一つ。心臓が少しだけ驚いて大きく鳴った気がした。


 王都への道は、初めこそ獣道を歩くようなものだったのだけど、徐々に道らしくなり、今歩くその場は確かに人の手入れがされている場所だった。

 だけど、それは私にとって見慣れているアスファルトではない、土の道。あたりは緑も多く、時折咲く草花達は白、赤、黄色と色とりどりで美しく、景色はすごく綺麗。ただ、見える草木も花々も見知らぬものだけれど……。わかるのは、空と雲は同じというだけ。

 ごくん、と音が聞こえるくらい、息をのむ。聞かなくちゃ、いけないから。

「私は……」

「はい?」

 斜め前を歩いていたカイトさんが、振り返った気がする。私はただ、空を見上げたまま呟くように言葉を続けた。

「どうして、ここにいるんですか……?」

「……詳しい話は、王都でという事になりますが……昨日お話した闇の民の事を覚えていますか」

「人を襲う者達、ですよね」

「ええ。そいつらは……光の民にしか、倒す事はできません」

「え? 水や、風とかは駄目なんですか?」

「ダメージを与えることは可能です。ですが、この世から消し去る事はできません。それをできるのは光の民だけです」

「……光の民は、すごいですね」

「ですが、その代わり光の民は能力者の数が少ない」

 民の数は光、そして他の四つの民も、そう変わらない、とカイトさんは深刻そうな顔をして言った。ただ、いくら加護を受けていても魔法を使う事ができるのは能力者だけで、その能力者の数が光の民は極端に少ないのだと。

 つまり私は、と考えて……一つの答えが出る。

「私は、能力者ですか?」

「……おそらくは」

「……わかりました」


 それ以降、私はただ風景を眺めながら、カイトさんの後を歩く。

 カイトさんが、何度か気遣わしげに私を振り返る。

 もちろん、私はおそらくその能力者として力を使う為に探されていたのだろうと気づいている。けれど、それに対して怒りや憤りはなくて。


 あるとすれば……


 ふと、影のように見えていたものが近づくにつれ大きな壁のようだと気づいた。

「王都は、あそこですか?」

 しばらく眺めたあと、私が指差す先には、確かに町が見えていた。

 白く高い建物と、人々が生活する沢山の家の屋根が見える。そしてそれをぐるりと囲う堅い石の壁に守られた街。

「ええ、そうです。もう少しですから、頑張ってくださいね」

「大丈夫です。あの」

「はい?」


 そう、ただ一つ、思うこと。


「私、お役に立てますか?」

 私のその台詞に、カイトさんは驚いた様子で足を止めた。じっと深い青い瞳が私を見つめる。

 とくん、と心臓が鳴る。

「私が言うのもなんですけど、嫌ではありませんか? 私の話を聞いて、あなたは自分が何をさせられるか気づいたのでしょう」

「まだ、詳しく聞いたわけじゃないですし……それにカイトさんは私を助けてくれたんです。あそこであんな狼さんにやられて死んでたよりは、マシかもしれないし……話聞いてみないと、わからないから。それに」

 私はそこで一度言葉を切って、カイトさんの顔を覗き込んだ。急に目の前に近づいた私に驚いたのか、カイトさんは小さく「わ」と声をあげた。

「カイトさん小屋を出た時に、安心して下さい、守りますからってって言ってたじゃないですか」

「……そうですね」

 私はあくまで真剣だったのだが、カイトさんが少し照れたように赤くなる。

 だって、私今話を聞いて、安心してる。この人が守ってくれるって言ったのは、嘘ではないだろうから。


 そうして私達が再び歩き出した時、王都の門からは私達の姿を見つけた青年が一人、ふっと笑って私達のほうへと歩き出していた。



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