見知らぬ土地―3
「すみません。先程の戦闘で、驚いてますよね? とりあえず、この先に私が使ってる小屋がありますから、一旦そこに行って話をしましょう。休ませてあげたいところですが、ここは危険です。先程の戦闘でまたあれらが寄ってくるかもしれません」
しばらく私の背を撫でていた彼は、そういって私に手を差し伸べてきた。
「……はい」
ゆっくりと手を貸してもらい立ち上がり、状況を把握しようと深呼吸し顔を上げる。
やはり景色は変わらない。鬱蒼とした薄暗い森の中。数歩先には先程の怪物の肉片。そして、自分の身体を襲う痛みは本物。これは、夢ではないのだと一度目を閉じ首を振る。
一体先程のあれは何なの。ここはどこなの。またあれらが寄ってくるかもしれないって、ここは一体……
支えられたままゆっくりと歩き、私は聞きたい事だらけで混乱する頭を必死に落ち着かせながら唇を噛み締めた。
……それにしても、よく見ると彼は変わった服装をしている、と、そっと前を歩く彼を見る。
黒のパンツに濃い青色の何やらバッチのついたジャケットを羽織っていて、それはまだ普通の範囲……、と何とか自分を納得させたけれど、腰のベルトには私にはよくわからない形の綺麗な石や杖に見える物等がついていて、腕や、上着に隠れているが足にも同じようにベルト。小さな短剣もある。微妙に、生地も私にとって馴染みある物とは少し違うように見えた。
そういえばさっきの剣はどこにいったんだろう。そこまで考えてふと顔を上げると、彼も私の様子に何か思うところがあるのか、その視線が私の斜めがけの鞄をじっと見つめている。
「あ、あの」
「ああ、すみません。えっと、鞄に何か護身用の武器は入っていますか?」
「ぶ、武器、ですか?」
何言ってるの、そんなもの、普通持ってないよぅ……っ!
焦る私が困惑したまま彼を見上げると、一度その表情を見て「あ」と呟いた彼は少しだけ視線を泳がせて、口元に考え込むように握った手を当てた。
「ない……ですよね」
「いや、えと、あの」
絶対おかしい。そうは思うのに、彼が冗談を言っているようには見えない私は、返事にならない言葉を繰り返す。
「あ、小屋が見えました。少し待っていてください」
そんな私を苦笑して見つめ、彼は確かに見えた小屋の傍まで歩くと、中を確認してほっと息をつく。
「……大丈夫そうですね。中に入って話しましょう。守護壁を張りますから、安心して下さい」
守護壁って何。そうは思ったのだが、私はとりあえずそのまま扉を押さえている彼にぺこりと頭を下げて、小屋の中へと入る。
少し緊張したまま入った小屋の中は、棚とテーブルに椅子が二脚、ベッドが一つ。殆ど必要最低限と思われる物しか置かれておらず、極稀に利用する程度といった様子が見て取れた。
彼は扉を閉めるとベルトから外した何かを手の平で握り閉め、ぼそぼそと何か呟く。途端に冷え切った小屋の中が少し暖かく感じ、張り詰めていた気が少し軽くなる安心感に包まれた。
「……寒いですか?」
「……少し」
未だに少し見て、彼は優しく声をかけてくれる。
ぽっ、と急に小屋内に明かりが灯り、私は漸くはぁと深く息を吐いた。
寒くて震えているのか、恐怖で震えているのか……わからない。
「これを」
青年は腕のベルトを外し、ジャケットを脱ぐと私の肩にそっとかけてくれた。暖かいジャケットが、私の震える身体をすっぽりとほぼ足元まで包む。でもこれじゃあ、彼が寒いんじゃないのかな?
「あの、私大丈夫ですから、」
「待って。私は大丈夫ですから。落ち着いて、ゆっくりお話しましょう」
彼は安心させるようにか、にっこりと微笑んだ。