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たった、ひとこと  作者: 雪野おと
第一章
2/10

見知らぬ土地―1

 

 ふわふわ

 身体が、浮いている……?


「……うわぁ、綺麗」

 目をゆっくり開けると、身体は……そう、例えるならば真っ白な雪の中。

 ……懐かしい。

 冷たいのか、そしてどこにいるのかなんてわからない。

 いや、足がどこか地面についているのかもわからない。足を動かしてみる。……どこかについた様子はない。


 不思議と恐怖や焦りを感じることなく、その感覚を楽しんだ。

 空から、ふわりふわりと雪が舞い降りてくる。


 なんて、綺麗。



 ああ、私、しんじゃったのかな……

 たぶん車にはねられた、よね。でも痛くなかった。

 うん、よかった痛くなくて。

 最期に、雪も見れたし。

 あんなに生きたかった筈なのに、どうしたんだろうわたし

 あんなに、頑張ったのに……


 私

 ひとりぼっちの、ままだった……な。





 何も感覚がなかったはずなのに、冷やりと冷たい風を感じる。急に意識がはっきりしてきて、私はゆっくりと目をあけた。

……どこだろう、すごい日差しが暑かったはずなのに

 視界がぼやぼやしてよく見えないけれど暗くて風が冷たくて、私はぼんやりとしながら体を起こそうと力を入れたと同時に、顔を顰めた。

 ちくちくと肌がむき出しの腕や足に何かが刺さる。そしてそれよりも、体中が酷く痛い……やっぱり、車に轢かれたんだ、私は。じゃあ……さっきの白い世界は、夢?


 仕方なく何が起きたのだろうと、痛む身体を押さえながら何とかゆっくりと上半身を起こす。

 やっとの事身体を起こした、たったそれだけではぁはぁと息が乱れ、呼吸を整えようとした私は……そのまま、はっと息を飲み込んだ。

 私の目の前に広がる景色。それは、どう考えても自分が車に轢かれた場所でもなければ、病院でもない。暗く、湿った空気、冷たい風が吹き付けるそこは、鬱蒼とした森の中で。

 真っ直ぐに伸びた木々が辺り一帯に生い茂り、空を覆う葉は暗いせいでその青々とした色は見せず、昼間ならば美しい森なのかもしれないが今は私の不安を煽るだけ。

 あわてて起きようとして、すぐに痛みで私は小さく声をあげた。相当痛い。おかしいな、どこか怪我してるのかな、と腕や足に視線を移すが、よくわからず溜息をついた。

 三途の川……じゃなさそうだしなぁ。花もなければ、肝心の川もないし。さっきからちくちくするのは、枯れた葉っぱみたいだし……だめだ。とにかく、私は生きてるみたい。こんなところでぼんやりしているのはまずそう。

 どこか人のいるところを探さなくちゃ。


 ゆっくりと立ち上がって、近くの木に手を当てて身体を支える。その時、がさりと草の葉を掻き分ける音がした。

「ひっ!? ぅあ、く、ま……!?」

 目の前に立ち塞がる黒い何か。それは、まるで漫画やゲームで見そうな、熊のような何かが、ぐるる、と唸り声をあげているところで。


 痛みなんて感じなくなってしまうほど、私の身体は危険を察知して急速に冷たくなるのがわかった。


 これは、やられる……!


「見つけた! 何をしているんです、逃げますよ!」


 今度こそ死を覚悟したとき、私は突然聞こえた声とともに強く腕を後ろに引かれ、その瞬間目の前が青白く、バチンと音を立てて光った。


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