見知らぬ土地―1
ふわふわ
身体が、浮いている……?
「……うわぁ、綺麗」
目をゆっくり開けると、身体は……そう、例えるならば真っ白な雪の中。
……懐かしい。
冷たいのか、そしてどこにいるのかなんてわからない。
いや、足がどこか地面についているのかもわからない。足を動かしてみる。……どこかについた様子はない。
不思議と恐怖や焦りを感じることなく、その感覚を楽しんだ。
空から、ふわりふわりと雪が舞い降りてくる。
なんて、綺麗。
ああ、私、しんじゃったのかな……
たぶん車にはねられた、よね。でも痛くなかった。
うん、よかった痛くなくて。
最期に、雪も見れたし。
あんなに生きたかった筈なのに、どうしたんだろうわたし
あんなに、頑張ったのに……
私
ひとりぼっちの、ままだった……な。
何も感覚がなかったはずなのに、冷やりと冷たい風を感じる。急に意識がはっきりしてきて、私はゆっくりと目をあけた。
……どこだろう、すごい日差しが暑かったはずなのに
視界がぼやぼやしてよく見えないけれど暗くて風が冷たくて、私はぼんやりとしながら体を起こそうと力を入れたと同時に、顔を顰めた。
ちくちくと肌がむき出しの腕や足に何かが刺さる。そしてそれよりも、体中が酷く痛い……やっぱり、車に轢かれたんだ、私は。じゃあ……さっきの白い世界は、夢?
仕方なく何が起きたのだろうと、痛む身体を押さえながら何とかゆっくりと上半身を起こす。
やっとの事身体を起こした、たったそれだけではぁはぁと息が乱れ、呼吸を整えようとした私は……そのまま、はっと息を飲み込んだ。
私の目の前に広がる景色。それは、どう考えても自分が車に轢かれた場所でもなければ、病院でもない。暗く、湿った空気、冷たい風が吹き付けるそこは、鬱蒼とした森の中で。
真っ直ぐに伸びた木々が辺り一帯に生い茂り、空を覆う葉は暗いせいでその青々とした色は見せず、昼間ならば美しい森なのかもしれないが今は私の不安を煽るだけ。
あわてて起きようとして、すぐに痛みで私は小さく声をあげた。相当痛い。おかしいな、どこか怪我してるのかな、と腕や足に視線を移すが、よくわからず溜息をついた。
三途の川……じゃなさそうだしなぁ。花もなければ、肝心の川もないし。さっきからちくちくするのは、枯れた葉っぱみたいだし……だめだ。とにかく、私は生きてるみたい。こんなところでぼんやりしているのはまずそう。
どこか人のいるところを探さなくちゃ。
ゆっくりと立ち上がって、近くの木に手を当てて身体を支える。その時、がさりと草の葉を掻き分ける音がした。
「ひっ!? ぅあ、く、ま……!?」
目の前に立ち塞がる黒い何か。それは、まるで漫画やゲームで見そうな、熊のような何かが、ぐるる、と唸り声をあげているところで。
痛みなんて感じなくなってしまうほど、私の身体は危険を察知して急速に冷たくなるのがわかった。
これは、やられる……!
「見つけた! 何をしているんです、逃げますよ!」
今度こそ死を覚悟したとき、私は突然聞こえた声とともに強く腕を後ろに引かれ、その瞬間目の前が青白く、バチンと音を立てて光った。