表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

第2幕 通販メイド勇者


俺の妹様を紹介しよう。


和波ぎゃろっぷ(わなみぎゃろっぷ)


名前についてのツッコミは無しの方向でお願いしたい。


さて改めて俺の妹自慢をしよう。


まず可愛い。馬鹿みたいに可愛い。セミロングの茶髪に花の紙留め、胸はまだ成長途中ではあるがすらりと長い手足はまるでモデルのようで、道行く人は男女問わず老若ニャンコすべてが思わず振り返ってしまうほどの可愛さだ。俺もあまりに可愛すぎて何度夜中に布団の中に潜り込んだかわからない。


まあ、その度に弁慶の泣き所を釘バットで骨が粉々になるまで撲られるが、俺はそれでも布団に潜り込むことを止めなかった。勿論全裸だったのは言うまでもない。


ちょっとお茶目だが、半端ない可愛いわけである。


そして、頭もいい。IQ200の超天才で完全記憶能力も備えている。おかげさまで僅か5歳にして大学卒業したとかなんとか。兄だが詳しいことは知らない。


そんな大天才の妹様だが、運動となると致命的にダメだったりする。


3歩走れば息はきれる。ボールを投げれば10センチしか跳ばない上に肩を脱臼する。縄跳びは一回も跳べないだけではあきたらず、何故か縄が全身に絡まり亀甲縛りのようになる。


そんな感じに運動オンチなわけだが、ぶっちゃけそこは萌えポイントなので問題はないだろう。そして俺はまた妹様の布団の中に潜り込み、釘バットでぐちゃぐちゃにされる。運動オンチの妹様だが何故か俺を撲っている時はまったく息切れしないのは謎である。おそらく愛の力と思われる。


そんな超激無敵に可愛く最強伝説的な天才で全力殲滅されるほどに運動オンチな妹様。


だがしかし俺の妹様自慢はこれだけでは終わらない。


なんてたって妹様はこの俺を生き返らせたんだからな!





「お兄ちゃん!いい加減、起・き・な・さ・い!」


「お、おぉお!?起きた!いや起きてたよ!寝てなんかないよ!だから釘バットは!釘バットだけは勘弁!」


慌てて布団から跳び起きた。


「うぐ……」


ずきりと右の脇腹が痛んだ。思わずその場で疼くまる。


「あぁ、もうダメですよ、お兄ちゃん。まだ傷口が完全に塞がったわけじゃないんですから、安静に横になってなくちゃ」


「いや、起きろって言ったのきゃろちゃんじゃん!」


俺は妹様のことをきゃろちゃんと呼んでいる。超可愛い。


「お兄ちゃん永眠させますよ?」


「すいませんでした!今すぐ横になります!」


俺はマッハで布団に横になった。


「まったくお兄ちゃんは……いくら魔王だからって無茶は禁物ですよ。まだお兄ちゃんの身体に魔王の魔力が完全に馴染んだわけではないんですから。それなのに脇腹に大穴空けて……私が駆け付けるのが速かったからよかったものの、下手をすればまた死んでいるところだったんですよ?」


そうか妹様が助けてくれたのか。


ここは俺が住まう真殴外荘(まおうがいそう)の202号室。四畳半に流し台とトイレ尽き。風呂場は一階に共同浴場がある。実は一人暮しである。ちなみに妹様は俺の隣の201号室に住んでいる。


両親?都合よく海外出張ですがなにか?俺達二人を家賃月1000円のいわくつきボロアパートに押し込んでどっかいったわけである。


閑話及第。


意識を失ったあと俺をここまで運んでくれたのか。


「ああ、悪い。ちょっと油断した」


なんせ魔王だし。慢心、油断はおてのもの。


「まったく馬鹿なんだから、お兄ちゃんは……」


言って妹様は俺の寝ている布団の上に顔を伏せる。


俺は布団から片手を出してそっと妹様の頭を撫でた。


「よし!充電完了です!」


ばっと妹様は起き上がった。


「お兄ちゃん私はこれからでかけなくてはいけません」


「出掛ける?」


「はい、本当なら私がつきっきりで看病したいところなのですが……またお兄ちゃんの魔力を嗅ぎ付けてこの辺りに病鬼(やんきぃ)が大量発生しているんでサクッと皆殺しにしてこようかと」


"病鬼"この現界(俺達が住んでいる世界)とは別の幽界に住んでいる生物。所謂、魔物とかモンスターとか妖怪とかそんな類の生き物。


「そうか、気をつけてな」


心配はいらない。なんせ俺を生き返らせるためにかつての魔王をぶち殺した妹様だ。戦闘力は二つの世界を合わせて最強最悪。


「で、なんですが。流石に怪我をしているお兄ちゃんを一人残して行くのは気が引けるんでメイドさんを用意しました」


「メイドさん!?なんて甘美な響き!」


「はい、ちょっとまっててくださいね。今連れてきます」


そう言うと妹様は部屋を出て行き、またすぐに戻ってきた。


そして隣にはまごうことなきメイドさんが一人。フリルの白と黒のエプロンドレス、スカートの丈はやたらと短く、それを気にしてか裾を掴んでぐいぐいと引っ張っている。その恥じらい具合が堪らない。


そんな真っ赤な噴水ヘアーのメイド美少女がいた。激しく見覚えがある。


「紹介しますね。お兄ちゃんの専属メイドのオリリンピックさんです」


「違う!私はオリン・オリンピック・オリアナ!職業は勇者だ!」


それはさっき俺に襲いかかってきた勇者様その人だ。


「あ、オリりんじゃーん。さっきぶりー」


フレンドリーに接してみる。


「だ、誰がオリりんだ!萌えキャラみたいに呼ぶな!私はオリン・オリンピック・オリアナ!職業は勇者だ!」


「オリりんそのメイド服可愛いな」


「だから私は――って、か、可愛い!?お、おまえはなにをいってるんだ!?わ、私が可愛いだなんて……」


ぼっと火がついたように顔を真っ赤に染めるオリりん。あたふたしてる。ちょっとほっこりした。かーわーいーいー。


「あらオリリンピックさんはもうデレ期ですか?お兄ちゃんの魅力にもうころりですか?でもダメですよお兄ちゃんの正妻は私ですから」


「誰がデレ期だ!それと私はオリン・オリンピック・オリアナ!職業は勇者!」


「そんなことはどうでもいいです」


妹様華麗にスルー。


「とにもかくにもオリリンピックさんにはお兄ちゃんに怪我をおわせた責任をとってもらいます」


「いやまて!確かにこいつに手傷を負わせたのは私だけど、私だってこいつに殺されかけたんだ!?」


「……こいつ?オリリンピックさんこいつとはなんですか?」


ゴゴゴゴッ!笑顔の妹様、だがしかしその背後には破滅の魔王的オーラを背負っていた。


ひぃ!と震え上がるオリりん。勇者様は妹様にマジビビり。ちなみに魔王様も妹様にマジビビり。


「さっき教えたはずですよ。お兄ちゃんのことはご主人様ですよ」


「はひぃ!そうだったでした!ごめんなさい!ごめんなさいー!」


オリリンピックは妹様に必死で土下座を繰り返す。あ、パンツ見えた。淡い緑だ。


「私に誤ってどうするんですか?誤るべき相手はお兄ちゃんでしょ?」


「はい!ご主人様!ごめんなさい!」


今度は俺に土下座をするオリりん。


「俺は気にしてないから、そんな謝んなくて大丈夫だぞ」


下がったオリりんの頭を優しく撫でながら言う。


「き、気安く頭を触るな!撫でるなー!恥ずかしいじゃないか!?このバカ!バカー!」


うがーと立ち上がるオリりん。林檎みたいに真っ赤な顔だった。


「オリリンピックさん」


絶対零度の冷たい声。寒い!ヒャド、ヒャダルコ、マハブフダイン!


「ひぃ!?」


オリりんが小さく悲鳴をあげる。


「これはなんでしょうか?」


妹様はどこからともなく高枝切り鋏を取り出した。


「それは私のグングニール!?」


見覚えがあると思ったら、そうかさっきオリりんが使っていた武器か。


「えい」


バキッと音を立てて妹様はその高枝切り鋏を一瞬の躊躇も容赦もなくへし折った。素手で。


「きゃーーーー!?ぐんぐにいいぃぃいいる!!」


オリりんの断末魔の叫びが真殴外荘にこだました。妹様マジ容赦ないっす。


「生意気なメイドにはお仕置きです」


ぽいっと二つになったグングニールを床に放り投げる。オリりんはそれに駆け寄り膝からがくりと崩れ落ちた。さらにはポタポタと涙まで流し始めた。


ああ、痛々し過ぎて見てらんねぇ。


「おまえ……」


オリりんがゆっくりと立ち上がる。真っ赤な噴水頭が燃えるようにゆらゆらと揺らめく。


「高かったのに!高かったのにー!グングニールの仇はとらせてもらう!覚悟しろ!」


オリりんが妹様に飛び掛かる。なんて無謀な……。


「ふう、やはり貴女には教育が必要のようですね」


パチンッ。


妹様は指を一度鳴らすと天井から謎の紐が降ってきた。天井で固定されているのかその紐はぶらんとぶら下がっている形だ。


そして妹様はその紐を引っ張る。


「へ?」


ガコンとオリりんの真下の床が開いた。呆気にとられるオリりん。


「きゃーーーー!?」


見事にスポリとオリりんはその穴に吸い込まれていった。


「お、落とし穴!?」


「その先は地下室です」


「一階じゃないの!?」


ここは2階。下は一階じゃないのか?


「この穴は地下室への直通です」


「ていうか地下室なんてあるんだ」


「ふふふ」


妹様は妖しく笑う。ぞくりと寒いものが背筋を駆け上がった。これ以上聞くのは止そう。薮蛇にしかならん。


「それじゃお兄ちゃん行ってきますね。あ、オリリンピックさんは従順な雌豚に仕上げて、また直ぐにこちらに来させますからご心配なさらずに」


別の意味でいろいろ心配なのは言うまでもない。雌豚とか妹様の口から聞きたくなかった。


「アレには身の回りのお世話から、それにお兄ちゃん最近あんまり自家発電してないみたいなので溜まってますよね?ですから夜伽、朝伽、昼伽、なんでもやらせて構いませんから、どうぞお楽しみ下さいね、お兄ちゃん」


とんでもないことをさらりと言って、妹様は部屋をでていくのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ