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第七話

 近藤さん達が無事に帰ってきたぜぇ! よかったこれで俺に新選組を押し付けられることもない。つかさ、俺にそんな大役務まるわけないじゃんね? 俺っちには裏方が似合ってるつーか性に合ってるっつーの!

 でもさ、コレ疑問なんだけど、近藤さん達が帰ってきても俺の雑務が減らないってのはドユコト? さては俺に全部押し付けてんなアンニャロウ。ここらでビシっと言っとかねば! 俺はパシリじゃねーぞって! うん、そう言えたら問題はないんだけどね。どうせ言ったところで首絞められるか木刀でフルボッコにされるか……下手したら真剣でサクっと逝っちゃうかもね! やだよそんなの。どうせ死ぬならもっとかっこよく死にたい。つーか死にたくない。

 そんなことを考えながら今日も今日とて書類処理していましたところ、近藤さんに呼ばれました。ま、まさか俺の考えてたことばれたんじゃないだろうな……。あれだあれ、いざとなったら奥さんに愛人のことバラすよ? とか言って脅せば良いか。美人姉妹二人も囲って羨ましいったらありゃしねぇ! 奥さんも美人なくせに! 子供だっているくせに!!

 美人姉妹のおねーさんの方は先日病気で亡くなられちゃったけどな。俺が京都にいない近藤さんの代わりに葬式だしといた。綺麗でお若かったのに、不憫なことで……。


「お、きたか」


 きましたよ。呼んだのはアンタでしょ。


「あー別にコレといって用事があるっつーわけじゃないんだけどな。ほら、オレ長州行っただろ。そん時にバッタリとある人物にあってだな。お前によろしくっつってたぞ」


 よろしく? あ、もしかして。


「坂本さんですか?」


「んにゃ、高杉晋作」


…………アンタ長州まで行ってなんばやらかしてくれとんのですかっ! 何で高杉とヨロシクやってんだよ!! しかも何? 俺にヨロシクってドユコト? あ、あの福岡のオバサンがなんかしゃべったな! 僕の気持ちを裏切ったな! 父さんと同じに裏切ったんだ!

 父さんに裏切られた過去なんぞ持ち合わせちゃいないけどな。あー、オヤジ元気かなぁ。そろそろ定年なんだけどなぁ。オヤジが定年迎える前に、あなたの一人息子は幕末まで跳んできちゃいましたよ。……帰りてぇ。


「うん、そんだけ。確かに伝えたからな? ほれ、さっさと仕事に戻った戻った」


 仕事サボれるかと思ったのに、早々に部屋から追い出されてしまったとです……結局何が言いたかったんだ。高杉晋作がヨロシク……そんだけかよ。部屋に戻ると未処理の書類の量が二倍に増えとったとです……マジで鬱になるとです……。

 ホトトギス、ああホトトギス、ホトトギス。……俺に歌の才能はねぇな。

 何だっけ。梅の花、一輪咲いても梅は梅……だっけか? 俺の外の人(元の土方歳三)も相当俳句の才能ねぇよなぁ。しいて言うなら『鳴かぬなら(誰か)鳴かせてくださいホトトギス』 どうだ。俺の句才マジパネェだろ?


「はいはい阿呆な俳句詠んでる暇があったらとっとと仕事片付けましょうねー歳さん」


 見張りがついてしまったとです。笑顔の宗次がさらに大量の書類ば抱えておるとです……俺死ねる、マジで書類に埋もれて死ねる。嫌じゃそんな死に方も嫌じゃー!!




 慶応二年。

 えーと、この年は俺様年表によると割と重要なことが色々起きるんだよな。スルーしちゃだめかな。

 つか帰って寝たい。兄さん、俺実家の薬屋継ぐよ……それが駄目なら行商に出るよ。石田散薬、胡散臭いけどな。酒と一緒に服用ってドユコトだよ。マジで薬効あんのか?

 隊士には使わせてるけどな。これも商売ですから。たくさん購入する見返りにリベート受け取ってますから。この金で豪遊するんじゃー!! ……チキンだからできませんけどね。

 そもそも一応新選組の幹部は屯所とは別に別宅持つ事を許されてるんだけど、俺持ってない。だって屯所に寝泊りできるし個室もあるのに、わざわざ家借りるとか買うのもったいないじゃん? まぁこれが、隊士達には『随時監視されてる』と受け取られて大不評なわけですが……。監視なんかしてねーよ。俺そこまで仕事熱心じゃねーもん。

 そんなわけで書類放置して部屋でぐだぐだ転がっていたら、顔の真横にドスっと真剣突き立てられました。刺さってる、畳に刺さってるよ!!


「歳さん」


 笑顔の宗次は本気で怖いです。つか基本いつでもニコニコしてるよなコイツ。俺には真似できねぇ才能だぜ……。だからオネガイ、真剣抜くのはやめてマジで怖いから。


「ちょっとくらいグダグダさせてくれよぅ……もう半日以上も仕事しっぱなしじゃないかよう……俺ネムイ」


「昼寝したかったらとっとと仕事終わらせたらどうですか」


 終わらせようとしても次々に舞い込んで来るじゃんかよう……街で揉め事起こした隊士の後始末に行ったり、それについての説明書類を奉行所に提出したり……あーもう、問題起こすなよな! 修学旅行中の田舎ヤンキーじゃねーんだからよー。……似たようなもんか。江戸という田舎から出てきた浪人もどきのヤンキー集団。それが新選組。そして俺はその集団に囲まれてる子羊ちゃん。



「そいや宗次、体の調子は大丈夫か?」


「いたって健康ですけど?」


 そうなんだよな。松本良順のオッサンいわく結核らしいんだが、そんな兆候は微塵も見られねえんだよな。もうちょっとこう、ゴフッとかいって血とか吐くものかと思ってたけど、アレ末期なのな。時々ケホケホとは言ってるけど、そんな酷くもねぇし、すぐにおさまるし……。


「それならいいけどな。お前さんは身体大事にしとけよー。斬り合いで死ぬんならともかく、ビョーキでぶっ倒れるのはお前さんにとっても本望じゃないだろ? 池田屋の二の舞はごめんだぜ。あの時は俺らが到着した後だったからよかったものの、戦いの最中にぶっ倒れたら普通はその場で即死だぞ」


「気持ち悪いですね。どうしたんですか急に。お昼に何か悪いものでも食べたんですか?」


 あー、そういや俺、仕事にかかりっきりで昼飯食ってねぇ! お前さんの言葉で思い出したよ腹減ってきた!


「よし宗次。うどん食いに行くぞうどん。俺が奢ってやるから、ちょっとだけ仕事抜け出させて下さいオネガイシマス」


 畳の上で土下座していますが何か? 男のプライド? そんなものは俺の辞書に載ってない!


「餡蜜も食べていいですか?」


 おう! そのくらいの蓄えなら俺にだってあるんだぜ? 団子でも餡蜜でもどんとこい!! クリーム餡蜜は……さすがにこの時代にはねーだろうなぁ。なんか食いたくなってきたなぁ、無いって思うと。


「……じゃあ、行きましょうか。近藤さんには内緒ですよ?」


 よしよし! 話のわかる子は先生好きですよ。好きなだけ奢るからもう真剣は抜かないで下さいね? 宗次に真剣抜かれたら俺即死ですよ? ……つーか宗次じゃなくても新選組の大体の人間にはサラっと殺される自信があるけどな!! ……もうちっと稽古したいんだけど、時間がなぁ……。

 ちなみに新選組では隊士に向けて剣術指南の他に、戦術とかの座学もやってるんですよ。俺はもっぱら座学の講師。こう見えても元は日本史の高校教師、教えるのは本業ですからね。つったって戦術なんかわからんから、主に歴史の授業やってるんですけど。イイクニツクロウカマクラバクフ。西暦採用されてないから通じないけどな! 戦術や戦略は、武田さんとか伊東先生とかに任せっぱなし。

……で、そんな講義もやってるもんで、ホントに自分が稽古する時間がない。剣術ねぇ、真剣じゃなければ嫌いじゃないんだけどなぁ……。


 まぁいいか。そんなことより今はうどんだ! 俺のうどん魂に火がついた! 何人たりとも俺を止められねーぜ!!


「ふふ、歳さんと食べに行くのって久しぶりですね」


「そーだな。ここんところマジで忙しかったからなー。つか上洛してからは初めてじゃね?」


「いつもご馳走様です」


 毎回奢らされてるんだよなー。ま、年下だしいいけどよ。近藤さんがいる時は俺もたかる側に回ってるしね。


「たまには……いいですよね。今度は近藤さんも誘って、三人で何か食べに出ましょうね」


 おう、余裕があったらな! ……これからますます忙しくなるけど……昼飯食う余裕くらいは……あるよな、多分。気分転換もしないとね! つかしないと主に、精神的に俺が死ぬ。


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