第六話
暮れ~なずむ~(以下諸事情により省略)♪
うん、坂本さん良い人だった! お土産に少しだけどコーヒー豆持たせてくれたし、契約もきっちりと出来ました! ミニエー銃を四十丁と弾薬をたんまり! そしてオマケに俺専用のS&Wの三十二口径もゲットだぜ。坂本さんが持ってたのを拝み倒して土下座して譲ってもらっちゃった! 代わりにといっちゃなんだが『近江屋にはくれぐれも気をつけてね』つっといたけど信じてもらえるかなぁ。
まぁいいや、目的を達成して俺様ご満悦! あとは京都に帰るだけだね。
そう考えていた時期が、俺にもありました……。
駕籠に乗って揺られていたら、刀突きつけられてそのまま拉致られました。なんか山奥の小屋みたいなトコに監禁されとるとですがココドコデスカ? 関門海峡はまだ渡ってないから九州だよな、多分。マジでドコだ。
「ここは福岡藩になります」
なるほど福岡か……って、何で俺が福岡に拉致られるとですか責任者を呼べ! どう考えても人違いですよ間違いなく!
「いえいえ、人違いではないと思いますよ」
そうか、俺を土方歳三と知ってて拉致したのか……って、オバサンあんたいったいどなたですか?
「わたくしですか? 野村もと、と申します」
いや名前聞いてるんじゃなくてね……何者なのかと。
「そうですねぇ、尊攘派の片棒を担いでいる、と言えばおわかりですか。それとも、平野國臣の仇討ち、の方がわかりやすいですかねぇ」
……えっと、心なしかオバサンの顔が怒っているような気がするとですよ? こういうのに関しては俺の勘は当たるとです、当たりたくないけど。
平野國臣……誰だ、なんか名前は聞いたことあるような……ああっ、禁門の変のあたりでとっ捕まって送られてきた人だ! あれ、でもあの時は俺別に関係ないぞ。天誅組のゴタゴタの時に捕まえようとはしてたけど、その時は結局逃げられちゃったしなぁ。
というわけでオバサン、俺ぜんぜん関係ないですよ、見逃してください。
「駄目です」
えーい、笑顔でかわされちゃったよ! やるな、尼さんのくせに。
「尼とはいえわたくしも心根は尊攘志士たちとなんら変わりありません。こうして命を助け、また縛することもせずにいるだけでありがたいと思ってもらわなくては」
ア、ソデスネ。尊攘派から見れば俺なんかモロに敵だろうしね……。でもね、俺、長州とか尊攘志士たちと敵対する気なんてこれっぽっちもないですよ? そりゃあ、京都大火だけは人道的観点から見て絶対にやめさせなきゃとは思ったけどさ。あとは街で乱暴してる浪士を取り締まるくらいで……。
「そうですね、わたくしもあの作戦には反対しておりました」
でしょでしょ? あ、でも尊王はともかく攘夷は……あんまり賛成じゃないかも。だって実質、今の日本の国力じゃ諸外国を追い返すのなんて絶対無理じゃん。だから出来ればうまく渡り合っていけるように日本をまとめるのが先だと思うんだけど……。
「あなたは新選組の副長と伺いましたが、幕府についてはどうお考えですか?」
誰に伺ったのさソレ、モロバレじゃねーか! あ、だから捕まってるのよね。ええと、はいはい。幕府についてですね。コレは新選組とは関係ない俺個人の思想だからね、その辺ちゃんと理解したうえで聞いてくださいよ?
幕府はちょっと平和ボケしすぎたかなっと思います。だから黒船襲来くらいでテンパって、屋台骨からぐらつかせちゃってさ。でも、あっちの立場もわかってあげないと、江戸幕府を三百年守ってきたメンツってもんがあるんだから。天皇と幕府って、別に両立できないわけじゃないでしょ? 戦わなくたって、いくらでも道は模索できると思いますよ。
「なるほど、公武合体……それがあなたの望むところですか」
そだね、それが一番かな。だってそうしないと直接関係ない人たちが血を流すことになっちゃうし、日本人同士で取っ組み合いしてるヒマがあったら外国に向けて何かしら動きを示さないと、このままじゃ日本はあっという間に植民地になっちゃうもん。
「不思議ですね。あなたと話していると、とてもあの新選組の幹部とは思えません」
そかね? まぁ中の人は別人っちゃ別人だしな。京都に行ってからはあまり深く考えずにまわりのふいんき(なぜか変換できない)に流されまくってたし。
「あくまでもこれは俺個人の考えなので、新選組がどう動くかはわかりません。でも、できるだけ公武合体の方向で進められたらとは思ってます。その為には早急に天皇……天子様と幕府との繋がりを密に強化せねばと……早く言えば、徳川家茂公と孝明天皇の接触ですよね。まぁそれは、もう和宮様との婚儀で少しずつ進展してると言えなくも無いですが……」
もうすぐ死んじゃうんだよね、この二人。コレばっかりは多分どうしようもないしなぁ……。ついでに言えば、孝明天皇は根っからの外国嫌いときてる。だからこそこんなにゴタゴタしてるんだけどもさ。
……もうすぐ孝明天皇死んじゃうよって言ったら、俺このオバサンに首絞められるんじゃなかろか。
「あくまで俺の私見ですから、怒らないで聞いてくださいね……? 天子様がどんなに攘夷を叫ばれようと、黒船が来てからの時代の移り変わりは止められるものじゃないです。けど、外国のいいとこどり……もう調べはついてると思うから言っちゃいますけど、俺は輸入した銃を買い付けに九州までやってきました。長州や薩摩も洋式銃に頼っています。それでいいんじゃないかと。いいものはどんどん取り入れて、どんな手段を講じてでも日本を守らなければならないと思ってます。長州征伐以後、日本は一旦収まったかのように見えますが、多分、今後も火を噴くでしょうね。それを……できるかぎり、双方に被害のない方法でおさめていきたいんです」
……ねぇ、ちょっと、黙らないでくださいよ。なんかヤバいこと言っちゃったか俺。やっぱり怒っちゃった?
「あなたは、長州の谷潜蔵……高杉晋作をご存知ですか?」
そりゃ知ってるさ、幕末の英雄の一人じゃーん。会ったことは無いけどな。つか会った途端に殺されそうな気がするけど。
「わたくしが紹介状を書きます。彼と一度会い、話をしてみる気はありませんか?」
え、いや、ええと、……困った。会ってみたいのは山々なんだけど、今会ったら間違いなく殺されちゃうって。
「わたくしの紹介状を持っていけば、話も出来ずに殺されることは無いでしょう。彼とは互いによく見知った間柄ですが、あなたの考えは現在の彼の考えにとても近いものがあると思います。本気でこの国を変えようと……あなたの志を貫こうとお思いなら、命を賭してでも行く価値はあると思いますが」
ごめん、ぶっちゃけ俺、この国より自分の命の方が大事。
「ええと、申し訳ないですが、今は彼も長州で再び動き出すべく奔走しているでしょうし、俺も立場上あまり長い間京都をあけておくわけにはいかんのですよ」
だからオネガイ、早く帰して。ダメ?
「……確かに、あなたの言うとおりですね。では機会があれば、彼には私からあなたのことを話しておくとしましょう。お行きなさい、他の者たちにはあなたが敵では無いことを伝えておきます」
ええ、あっさり解放? マジで? いいの? 駄目っつっても逃げるからね?
「ただし、あなたが今述べた考え……変えずに貫きなさい。たとえその為に、友人や仲間を裏切ることになろうとも」
それはどうだろうか。基本的に俺は流されて生きるタイプだからなぁ。やっぱさ、ほら、仲間は大事だし。その辺はわかってくれるよね?
「優柔不断だと罵られたいのですか」
すいません善処します睨まないで怒らないで><
こうして俺は、無事にとは言いがたいけど一応釈放されて、怪我もなく京都の土を踏むことが出来たのでした。うわーん絶対死んじゃうと思ったよー! 俺の人生オワタ\(^o^)/とマジで思ったね。うーん、俺ラッキー。
そして無事に帰ってきました京都! 出来れば江戸まで帰りたいんだけど多分ソレやっちゃったら切腹だよねぇ?
「こんのバカトシ!」
帰ってきて早々、近藤さんにぶん殴られました痛いです。ちゃんと置手紙していったじゃんかー『家出じゃないよちょっとお買い物に行ってくるだけだよ』って。
「近藤さんは歳さんのことを心配してたんですよ。この時期に九州に行くなんて書いてたから」
宗次がそう言って慰めてくれる……ように見せかけて、みぞおちに綺麗なフックが決まってるとです……ゴフッ。
「いやいやいや! 近藤さんが攘夷を諦めた今がチャンスと思ってだな、節制して貯めた金持って」
「逃げたんですね」
笑顔でさらっとそういうこと言うな宗次! 違うってば!!
「洋式銃を買ってきたんだよ! あとついでに何故か尊攘派の人たちと懇親も深めてきました」
言った途端に近藤さんの特大拳骨が飛んできましたフゴハァッ!!
「テメー、何言ってくれてんだコラ、誰が攘夷諦めたって……?」
「だって松本先生の医術見ながら蘭学スゲーとか超感動してたじゃねーかよ!」
「ソレとコレとは別問題だっつーの! 洋式銃はまだいいとして、尊攘派と懇親深めてきただぁ? ふざけんなあいつらは敵だろうがよ!!」
俺、長旅で疲れてるのに、問答無用で並べた木刀の上に正座させられてます痛いです。コレは新手のイジメですかイビリですかイヤガラセですか?
「敵じゃねーよ近藤さん、味方でも無いけどさ。それに長州とかはリアルに怖いんで無視しました。土佐の人と仲良くなってきたとです。先々、絶対に損にはならないはずだから! 得になるかは……紙一重?」
紙一重どころじゃなく重要になってくると、俺は思うんだけどね。あああそうだ、お土産のコーヒー豆……って、こら宗次、かじるんじゃねぇ! それは大豆じゃありません!!
「まぁ……土佐ならそこまで問題はねぇかな……?」
一部問題のある人たちもいるけどな、とりあえず坂本さんは問題ないと思うよ。京都見廻組に知れたらちいとばかし面倒なことになるかもしれんけど。暗殺したのあいつらだったって説もあったしな、確か。
「と、とりあえず俺が脱走したんじゃなかったってことはわかってもらえたでしょうか……あと豪遊も無駄遣いもしてません。ちょっと命の危機はあったけど、こうして無事に帰ってもきました。だから、もう正座はカンベンしてもらえんでしょうか……」
マジで俺涙目。でも、散々身勝手だの許可を取ってから行けだの説教された後に、ようやく解放されましたとさ。
部屋から出るときに宗次が『なんだかんだでみんな心配してたんですよ、ホントに』とか何とか言いながら、レバーに一撃くれやがった。コイツいつか必ず殺す……!
とはいえ、久々の我が家。命の危険が無いってなんて素晴らしいんだ! アレ以来また拉致られるんじゃないかってビクビクしながら帰ってきたもんな、特に西国街道! 高杉晋作が襲ってくる夢を何度見たことか。
俺が帰ってきた途端に、ほぼ入れ替わるようにして数日後、今度は近藤さん以下数名が京都を出て行った。長州詰問使に随行することになったらしい。
縁起の悪いことに『オレに何かあったら、新選組は歳に、天然理心流は宗に任せるぜっ』なんていい残して行きやがった。そんなん御免だ無事に帰ってきやがれ!
つーか俺のいない間、雑務が滞っててんこ盛りになってるんですが。
それ以降、俺は休む暇もなく毎日書類に追われているとです……。もう嫌だこんな生活。いっそ俺も島原あたりに足を伸ばして骨休めするか! だがそんな金は無い!! 鉄砲買うのに使っちゃったからな全部。ちっ、俺の遊ぶ金くらい残しておけばよかった……。
その後しばらくの間、俺は局長代理という名の雑用を、慶応元年が終わるまでひたすら続ける羽目に陥ってしまったとです……これなんてイジメ?