『another side ……近藤勇と勝海舟』
「どーも、お目通りかなって光栄です、勝先生」
「へっ、てめえが新選組の頭かい。いい面構えしてんじゃねぇか」
江戸城の一角。多忙の合間を縫って勝海舟は新選組の筆頭、近藤勇と面会を行っていた。
江戸城無血開城を目論んでいる勝海舟。そのためには、戦える手駒はむしろ邪魔でしかない。勝がそう考えていることを、無論近藤も承知していた。
「……で、新選組を解散しろってぇ話は行ってると思うが」
「お断りします」
「……やっぱそうか。いや、そうだろうとは思ってたけどよぉ」
一見穏やかな会見ではあるが、今この場で新選組の未来が左右される。新選組を担っている近藤にとっては、組が無かった事になるのだけはどうしても避けたかった。
「えーとですねえ。オレら、幕府のために働いてきたし、これからもがっつり働く心積もりで居るんですよねえ。んで勝先生に、なんか仕事はないですかって尋ねに来た次第でして」
「俺も散々おたくの副長に狸呼ばわりされたが、お前さんもなかなかの狸じゃねぇか。俺がどういう政策を採っているか、知った上で今日来たんだろうなぁ」
「勿論ですよ。ですがそれとこれとは別問題。勝先生ならオレらの仕事、何かしら与えてくれると信じていますから」
「……俺にとっちゃあてめえらは目の上のタンコブだぁな。ていのいい理由付けして江戸から追い払おうって算段かもしれねぇぜ?」
「それでも、解散させられるよりゃあナンボかマシですからねえ」
「まぁ、戦いたいっつうてめえらの気持ちもわからないわけじゃねぇ……ちょっとキツい仕事でもやってくれるかい? うまくいきゃあ開城なんぞしなくても、情勢をひっくり返せるかも知れねぇ」
「お話、伺いましょうか」
日本のちょうど中央に位置する甲府城の事と、その城を手に入れられればそこを幕軍の新たなる拠点として再び京・大阪へ攻め込むことも出来る、という考えが勝の口からもたらされる。
「……そりゃあ、新選組だけじゃ土台無理な話ですねえ。いくらなんでも数十人で城を落とせなんてのぁ……」
「てめえらだけでとは言ってねぇよ。もっとも、今の幕軍にゃあ金は出せても兵を出せるだけの力はねぇ。無血開城を狙ってるっつっても、江戸を守る兵隊をまったく無しってわけにゃあいかねぇからな」
「では、金だけ出して、後は知らん振りする……と」
「そういうこった。人を雇えるだけの金なら出してやるから心配すんな」
「ちなみに、このお話を断ると?」
「ま、普通に考えて新選組は強制解散。ついでに最低限でもお前さん方新選組の幹部は多分あちらさんの意向によりとっ捕まえて引き渡す……ってなことになるだろうな」
「前門の虎、後門の狼って訳ですかい。こいつぁ難儀だ」
「少なくとも、このまま江戸に留まってりゃお前さん方にとっては悲劇にしかならねぇだろうな」
「甲府に行ったところで悲劇にしかならない気もするんですけどねえ」
「それでも、お前さん方の望むとおりに戦えるし、何もせずにいるよりは可能性がある。さて、どうする?」
「……行くとしたら、金はどのくらい出してもらえるんですかね」
「そうだな、ざっと3000両ってとこか。充分だろ?」
「4500。これ以上はビタ一文まからないですよ。それでも命かける代金とすりゃあ安すぎるってもんだ」
「……わかった。まだ江戸城の蔵を開放すればそのくらいの余裕はあるだろう」
こうして、甲府城を攻める為の話が少しずつ詰められてゆく。
「悪ぃな。こいつが俺の譲れる最低条件だ」
「いえいえ、オシゴトいただけるだけありがたいと思ってますよ? こいつぁ嘘偽りなくオレの本心です」
「……正直言うとな、お前さんらがマジで甲府城を落としてくれないかって、俺は心の底じゃあ期待してんだぜ」
「……まぁ、出来る限りのことはやりますけどね。あんま期待しないでくださいよ」
「ああ、わかってるさ……そうそう、おたくの副長にもよろしく言っといてくんな。甲府攻めが終わったらその内に茶でも飲みに来いってな」
「たぶん、丁重にお断りするんじゃないですかねえ」
「はっは、随分嫌われたもんだな。あの餓鬼は随分と現状の把握と先を読む能力に長けている。ぶっ壊れちまいかけてるこの国で政を志せば、いいとこまでいけると期待してんだがな」
「めんどくさがって逃げると思いますけどねえ。ま、そのお言葉は伝えておきますよ。それじゃ、オレはそろそろお暇させていただきますと」
「おう。……褒章といい酒を準備してお前らが帰ってくんのを待ってるからな、くれぐれも早々に惨敗すんじゃねぇぞ」
「いい酒があるってんなら、何が何でも勝ってくるしかないですねぇ。そんじゃ、金の方はよろしくお願いしますよ」
この、勝海舟と近藤勇の会談内容は公に記録としては残されていないので、実際にどのような話がなされたのかは謎のままである。
だが、新選組は進む道を選ぶことが出来なかった、それだけは確かである。歴史のうねりに飲み込まれてゆく彼らは、果たして生き残ることが出来るのであろうか。
その答えは、土方歳三の胸の内にだけ書かれている。そして、彼はそれを変えるべく奔走していたのだった。
これまでのところ、無駄な努力ではあるけれど。
ヾ(*´∀`*)ノもうすぐ開幕
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