第十九話
俺の知らない間に、近藤さんとの間に入っていた亀裂。修復、完了だよな?
よし、さればこそ酒など……伊東先生が居なくなったんだからいいじゃんよう。
呆れ顔の近藤さんを尻目に、とっくりに手を伸ばす。おk、まだ入ってるぞ。
「ま、あんま飲み過ぎなきゃいーけどさ」
よしきた! では早速一杯……。
「報告です!! 油小路にて奸賊伊東甲子太郎を討ち取りました!!」
口をつける間もなくブホアッ!! 杯をひっくり返しちまったじゃねーか! いっ今なんつったテメー!!
「オレは撤収だと伝えたはずだぞ!?」
近藤さんのまるで虚をつかれたような声が響いた。俺は、何を言うこともできずにただ成り行きを見つめている。ていうか現状把握デキテマセンヨ?
「その伝令は受けておりません! この後どうすべきかご判断願います!」
監察に所属している……えーと、名前忘れた。隊士の表情が、冗談でもなんでもないと俺達に訴えかける。俺は近藤さんと顔を見合わせた。そして、どちらからともなく駆け出した。油小路へ……。
そこには、道の真ん中でうつぶせに倒れたままの伊東先生が居た。念のために脈を取る。……完全に、絶命している。
「……っ、まさかこんなことになるとは……」
完全に誤算だった。油小路の事件はもっと先のことだと思ってたってのもある。まさか伊東先生がここで死ぬなんて!! つかなんだよこの急展開は!
「っ、どうするよ、歳!?」
近藤さんは完全にテンパっている。そりゃそうだ俺だってテンパりたい。けど近藤さんを責めるわけにも行かない、完全なイレギュラーだありえない! 意味がわかんねぇよ!
なんて現実逃避、してられない。時間がなさ過ぎる!!
「……隊士精鋭を集めろ! 銃士隊は除け、目立つ。山崎、いるか!?」
「ここに」
山崎は俺の命で、常に近藤さんのそばについていた。ぶっちゃけ監察はおれの思いのままに動かしている……はずだったんだが。どうもこの状況を見るに、そうではなかったことが明白だ、ちっくしょう、俺の命令で近藤さんのそばにいたんだから、余計なコト言われてホイホイ引き受けるんじゃありません!!
ここまできてしまった以上、やるしかない。
「俺が指令を出したら御陵衛士の屯所に文を飛ばせ。『伊東討ち取ったり、遺体は放置してある故油小路まで取りにこられたし』と」
「歳! どういうつもりだ!?」
腹くくるしかねーだろうよ。畜生、最悪の事態じゃねーか……。
「伊東先生を殺しちまった以上、御陵衛士は確実に新選組の敵に回る。その前に、殲滅する」
俺の言葉に、近藤さんが息を飲んだ。俺の覚悟が、こんな所で試されるなんて思ってもみなかったけど……今は、こうするのが最善の策だ、新選組を守るためには。
「一人残らず斬る。近藤さん、アンタにも責任の一端は担ってもらうぜ。伊東先生を俺達が殺っちまった以上、御陵衛士はもはや全て敵だ」
山南さん……こんな姿見たら悲しむかなぁ、でもさ、俺が選んだのはこんな道だ。幸い、アンタ斬った時に比べりゃ心は痛まねぇよ。しんどい思い、経験させといてくれてありがとうな。