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第十七話

 待つ身は辛いでござる。かといって、現場には行きたくないけどな!

 と言うわけで、俺はただ黙々と日々の仕事をこなしつつ、たまに贅沢にも寝酒の日本酒をあおっているのであった。

 仕事のツテでもらったお酒なんだけどこれが美味いのよ。元々はカルアミルクしか呑めない俺様でも、ツルンツルン呑めるとです。これは自腹を切って買い求めても充分にモトがとれる美味しさ!

 つまみ? 塩ですが何か。たまには親戚の漬け物をつまんだりもするけど、大抵は塩オンリー。ちろっと舐めてはクイッと一口、これ最強。塩って塩だけでも美味いんです。

 この時代って、基本的に何でも美味いんだよなぁ。ただの白米でも充分美味いし、それに卵つけたらもう朝からいくらでも食えますよ。材料がいいのかなぁ。

 ま、食えないものもたくさんあって時々懐かしくもなるんですがね、肉とかカレーとかサイダーとか。牛買ってきて解体しようかなぁ、できないけど!


 激しく話が逸れますた。つまりここのところ俺はほぼ毎晩のように晩酌しているとです。

 今夜もそんな感じでした。

 呑んでいる最中に大石が乱入してこなければ、なんだけどね。


「ほっ、報告します! 近江屋は京都見廻組によって襲撃され、谷が負傷!」


 血まみれの大石から報告を受けている間、意外にも俺は冷静だった。この結末を予想してたのかもしれないし、酒の力もあったかもしれない。


「坂本・中岡両名は重態、敵は七名、全員に逃げられました。原田さんが自分達を逃がしてまだ近江屋に残っています! 土佐、薩摩が迫っていた為、負傷した谷を担いで自分が先に……!」

 

「……ええと、斬られた谷はちゃんと医者のところに診せに行った?」


 俺の許可を得てから連れて行くつもりだったようなので、俺は急いで大石を部屋から追い出した。それとほぼ入れ替わるように、今度は血まみれの原田が俺の元に到着する。ええい、考えをまとめる暇がないじゃねーか!


「大まかな報告は大石から受けてる」


 任務失敗してしょんぼりしている原田の頭をよしよししてあげながら、俺は坂本さんの最期の言葉を聞いた。

 最期? 縁起でもない! あの阿呆面がそう簡単に死んでたまるかってんだ! 最後まで残っていた原田も彼の死を確認したわけじゃなし、俺がこの目とか耳で確認するまでは信じないったら信じないもんね!


 あ、そうか。予想してたとかそんな理由じゃなくて、俺はただ単に現実逃避してたのか……。

 うん、わかったよ。とりあえず一人にしてくれるかな。原田、あとさっき大石にも言いそびれたんだけど、お前らも怪我してるだろうから、とりあえずそれ治療してゆっくり休め。

 ……悪かったな、変な任務任せちまって。


 原田は頭を下げてから、そっと部屋を出て行った。

 あああ、坂本さん。アンタ本当に死んじまったのか? 殺しても死なないようなツラしときながら、どういうこった。つかさ、いくら相手の人数の方が多かったとはいえ、アンタと中岡さん、それにウチの原田らを足して負けるはずが無いだろjk……あっそうか、これはアレだ、ドッキリなんだなきっと。明日の朝になったらドッキリ大成功のカンバン持って坂本さんが颯爽と登場するに違いない。うんきっとそうだ……。


 大石が俺の部屋に突入してきた時に、こぼれて半分になった杯の中身を飲み干した。ひどく苦かった。



 翌朝。俺は全開で二日酔いだった。よく覚えていないけれど、どうやら残っていた酒を一気に飲んでぶっ倒れてしまったらしい。一人にしてとか言ったから、誰も介抱してくれなくて、カラの一升瓶を抱いて座敷に転がったままだった。体がイタイ、それ以上にアタマが痛い。

 痛いんだけど、これ以上は現実逃避もしていられない。近江屋暗殺事件が起こってしまった以上、俺たちの立場が限りなく危ういことになってしまうのは間違いないからだ。

 とりあえず、ちょっと考えてから、軽くお散歩に出た。目的地はあの人の所。できることからコツコツとね、やっていこうかとね。


「話は薩摩の方々から概ね伺っております。……とりあえず、お入りください」


 立ち話をしているところを誰かに見られたらおたくらの立場もヤバいものねぇ。案内されるがままに屯所の中へとお邪魔した。


「まずは土方さん、あなたのお話をお聞きしましょう。昨晩のことでおいでになったのですね?」


 はい、そのとおりです。俺がまず説得しにきた相手……伊東先生は、寝ていないのか両目の下にくまを作り、非常に怖い表情で俺と相対した。

 ま、そうだね。薩摩から聞いた話だけだと俺ら悪役だろうからね。敵視されててもおかしくない、こうやって話を聞いてもらえるだけでも感謝しとかないと。

 まずはこの人を説得。んで力を合わせて薩摩を説得。伊東先生を落とせないようじゃいよいよもって俺ら\(^o^)/オワタだからな。気合入れて口説き落としてみせようじゃないの。


「うす、では説明させていただきます。まず結論から言うと、ウチじゃありません。つっか俺と坂本さんはマブダチです。組の人間にも手出し無用って言ってます。それだけじゃ足りないと思って、俺の命令で原田・谷・大石の三名をひそかに護衛につけてました。でも、結局は守りきれませんでした。時期的に薩摩や土佐と鉢合わせするのは避けたかったんで逃げました。現場の状況どこまでご存知かは知りませんが、下手人は七名。廊下で戦ったのがうちの奴らで、部屋で戦ったのが坂本さん達です。それ以上の詳しい話は俺もあいつらに聞いてみらんとわからんのですが……」


「いえ、もう結構です」


 何がさ。聞くだけ無駄だって、そういう意味じゃないよね?


「お聞きしたいことは大部分、今の説明でわかりました。まず最初にお伝えしておきたいのが、薩摩からの情報です。新選組が坂本さん達への襲撃を企んでいる、ということでした」


 うん、知ってるよ。伊東先生が坂本さん達のところを訪ねたとき、もう原田たちを潜伏させてたからね。


「成る程。しかし、こちらはご存知では無いでしょう? ……この話の出所が、長州の桂小五郎殿である、ということは」


 桂さん……て、あのさわやか好青年? ああみえて実は腹黒やったとですか……。変なうわさ流しやがってコンチクショー! 呪ってやる!


「その情報のせいもあり、薩摩は新選組の仕業だと断定しています。現場に落ちていた原田君の鞘がその証拠であると。また、そこに同席していた土佐もおそらく同意見でしょう」


 ……原田……やっぱあの子、おバカさんやったとですね……。ん? いやまてよ? そこまで詳細に伊東先生が俺に対して語ってくれてるということは……


「ええ、私自身はあなた方を信用しています。ですが、御陵衛士の中には端から薩摩の言うことを信じているものも多いのです。早いうちに和睦の証を見せ付けねば、このままでは我々が新選組を襲いかねない」


 ああ、ね。元々新選組を嫌がってるカンジの隊士を焚き付けてここぞとばかりに御陵衛士に追いやったのは俺だからねぇ……でもそれはヤな感じだな。うむ、早々に何とかしよう……あ、そうだ。前に俺が言ってた宴席の件、このさい今夜にでもやっちゃうってのはどうでしょ?


「今夜はちょっと都合が悪いのですが、明日の夜でよければかまいませんよ。よろしければ今のうちに時間や場所なども決めてしまいましょうか」


 おkおk。大丈夫だ、問題ない。というわけで、近藤さん家にて明日の夜に宴会をすることが決定しました。近藤さんの予定? 知らんがな、俺がねじ込む! 殴りあいしてでも言うこときかす!


「ウチからは近藤と俺が出席します。んで……ええと、申し訳ないんですが、伊東先生はお一人で参加していただけないでしょうか」


 部下連れてこられたら、最悪その場で暴れられかねないからね。ウチの側も必要なのは近藤さんだけなんだけど、まぁ俺は仲介役ってことで。新選組の中の人でもある俺が仲介ってのも変な話だな。でも他に適役が見つからん。


「了解しました。道中に護衛などをつけるかもしれませんが、会見自体には私一人で参加いたしましょう。では、そういうことで、また明日……お早めに、お帰りになられた方がよろしいかと存じます。先ほどからあなたの動向を窺っているものもいるようですし……ね」


 あー、やっぱ気のせいじゃなかったか。なんかイヤンな感じの視線がざっくざく刺さっているような気がしてたとですよ。とっととお暇させていただきましょうかね。でもその前に、もいっこ聞いておきたいことがある。


「坂本さん達の容態は……ご存知ですか?」


 伊東さんが眉間にしわを寄せる。それで、大体の察しはついた。


「中岡さんは、未だ意識が戻らぬままと聞きました。坂本さんは……もう……」


「……わかりました。詳しい話はまた明晩、と言うことで」


「ええ、お気をつけて」


 御陵衛士の屯所を無事に出て、無事に俺らの屯所まで戻って、部屋にこもって、ようやく俺は、自分が泣いていることに気付いた。なんだ俺……やっぱ、悲しいんじゃんよ。昨日は実感がわく前に酒に逃げちゃったみたいだけど……ああ、もういないんだなぁ、坂本さん。

 小一時間ばかり部屋にこもって、泣いた。山南さんの時も泣かなかった俺なのに、おかしいなぁ、畜生。

書くの遅くてごめんちゃい。

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