第十五話
ふー、永倉のせいでうっかり過労死するところだったぜ。とっ捕まえて無理やり手伝わせたけどな! 鬼の副長なめんなよコラ。
数日かけて仕事がひと段落ついたので、俺様年表を再び取り出す。もうずいぶんボロボロになっちまったな。今のうちに新しい紙に書き写しとくか……?
えー、で、次は……幕臣取立ては終わっただろ? 大政奉還待ちだな。ぶっちゃけ出来る事ないし。一応監察に頼んで薩摩のつーか大久保の動向は探らせてるけど……これといって進展は無し。よし、今のうちに近江屋防衛の面子そろえとこう!
「で、オレかい」
んー、だって、原田はあんま思想にコダワリなさそうだからさぁ。こゆとき頼みやすいんだよね。下手に思想がある奴に頼むと逆にウチが暗殺しそうで怖いんだよ。
「そりゃいーけどよ、誰を守るんだ?」
「土佐の坂本竜馬」
おお、驚いてる驚いてる。
「おまっ、土佐の坂本っつったら手配されてるヤツじゃねーかよ! そんなヤツ、捕縛せずに守るってドユコトだよ!」
「ソユコト」
説明しづらいもんなぁ。とりあえず坂本さんが誰かに狙われてるってのは理解できる? んで、今はまだ京都に入ってないんだけど、入ったら俺に連絡が来る手筈になってるから、連絡がき次第ビッタリと張り付いて守って欲しいのね。
「オレはかまわねえけどよー、近藤さんに言っとかなくていいのかい?」
今言っても逆鱗に触れるだけだからねぇ、も少ししたら土佐の後藤象二郎殿と会談するはずだから、その頃に俺から伝えとくよ。
「何だ、そこまで話進んでんのか。んなら問題ないやな」
まだ進んでないんだけど、原田はうまく騙されてくれた。よかった、単純な子で。
「他に二、三人連れてって構わんぞ。まとめて俺の指令っつう事で仕事抜いとくから。メンツ選びはお前に任せる。でも出来るだけ強い奴な? 坂本さんも強いけど、そんな人襲うくらいだから相手もかなりのテダレ揃えてくるだろうし」
「オレだけでいいと思うがなぁ……ま、了解したよ。んで、今んところは秘密でコトを進めときゃいーんだろ?」
理解が早くて助かります。お前さん、頭いいんだかオバカなんだかよくわからんな。思想に偏りがないってだけで、別に考え無しなわけじゃないのかもな。
「ほら、制札事件あったろ。あん時裏で話つけてくれたのが坂本さんだよ。だから、恩が無い訳じゃないんだ」
「なるほどねぇ。ところで土方さんよ、報酬はたっぷり弾んでくれんだろうな?」
来ると思ってましたよ。ふっふっふ。
「任務中の他の仕事はまるっと俺が引き受ける。んで成功報酬として一日島原豪遊ツアーにご招待! ……あ、これはお前さんだけだからな。連れてくヤツにはナイショな」
無言で原田サムズアップ。俺も無言でサムズアップ。やっぱ男の浪漫だよなぁ。つかお前さんにサムズアップが通じるとは思わんかったぞ。誰に習った。
「アンタだよアンタ」
あるぇー? そうだったっけ? 俺様なにげに新選組の現代化に一役買ってるのかもわからんね。そういや永倉とカンヅメになってる最中にヤツには萌えのなんたるかを徹底的に叩き込んだしな。ヤツはツンデレに弱いそうだ。ギャップがたまらんらしい。時代が違えど萌えは万国共通なんだなぁ。
「原田、お前はどんな女が好みよ?」
ついでだ、原田にも萌えを教え込んでやる! 明治になりゃ(オタク)文化も花開くし、何より大切なモノを心に持っている人間は、意地でも生き抜こうとするからね。ああ、萌えについて講義するのもいいかもしんない。座学で学べるもんじゃないけど、知識として軽く植えつけておいて、島原のおねーたま方やらその辺で売ってる春画やらで実践教育じゃ! うはは、なんか楽しくなってきたぞ。
俺が新選組オタク化計画に着手している間に、坂本さんは無事に大政奉還を成し遂げましたとさ。あの人阿呆面のくせにやるときゃやるよね。