『アナザーサイド……長州から見た土方歳三』
「貴様はあれをどう見る?」
部屋には二人。度々咳き込む病人が一人、目を逸らすように腕を組んで庭を眺める男が一人。
「面白い奴だな。先を読む能力にも長けている。だがまだ甘い」
桂の言葉に、高杉はゆっくりと相槌を打つ。
「現状では長州は薩摩に劣る。新時代を作るのに薩摩の力は必要だが、過ぎた力は内部分裂の元だ」
「それで……貴様はあれに何を吹き込んだ」
「なに、簡単なこと。奴を煽り大久保を黒幕に仕立て上げただけだ。新選組程度の力で薩摩を潰すなど到底無理だが、大久保だけを潰すことはできるかもしれん。大久保は恐ろしい男。奴がいる以上、長州の自由にはならんと見ていいだろーよ」
薩摩を潰されるのは困る。それは新時代の幕開けに多大な影響を及ぼす。けれど大久保一人なら……適度に薩摩の力を削ぎ、長州先導の時代を作ることも容易くなるだろう。
「俺は貴様が敵でないことを心底ありがたく思う」
「こら、人を悪党みたいに言うんじゃねーよ。俺はただ、火種を放り込んだだけだ」
庭は静か。まるでそれは、嵐の前のように。
「ああ……俺は、その火種が燃え上がる時を……見ることができるのか……」
高杉の言葉に返事は無く、ただ静かに、時は流れていた。