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第十三話

『あの人をよろしくお願いします』


 提灯を渡す時に、ポツリとつぶやいた彼女の一言が忘れられない。

 あちこちを旅して回ってる坂本さんに、ついていくこともできないおりょうさん。

 ……うん、俺もね、できる限りのことはするよ。だから、せめて京にいる時は……傍にいる時は、おりょうさんが彼を守ってあげてね?

 でも、もう俺に向かって漬物石投げつけるのはカンベンしてね?


 

 ジト目で俺のことを見ていた山口君のアレは、実は俺のアタマの傷を慮っての視線だったらしい。てっきり仕事サボって一日中遊びまわった(ように見える)俺に対するケーベツのマナザシかと思ったジャマイカ! 言えよ! 無駄にドキドキしちまったジャマイカジャマイカ!!

 そんなわけで山口君と宗次が心配してくれました。それ以外はスルーでした。切ないです。銃士隊のメンバーに至っては『女に殴られたんでしょうどうせ』です。ひどいと思いませんか? 確かに女だが、人の女だよチクショウ。


 そんなことはとりあえずどうでもいい(俺のグラスハートに傷は残ったがな!)

 俺は、坂本さんから聞いた話のことが気になっていた。今にも死にそうな、しかも労咳で死にそうな人の話。死ぬ間際の人間が俺に会いたいって言ってるんだぞ? しかも俺も微妙に会いたいような会いたくないような……。いや、会って話は聞いてみたいよ? でも会いに行ったとたんに捕まってあぼーんとかやだよ。

 悩んでも一向に答えが出ないので、重要な部分をぼかして身内に相談してみた。

 

Kさん

「会いに行けばいーんじゃね? 行かないで死なれたら後悔するだろ。でも、コレだけは忘れんなよ。テメーに死なれたら後悔する人間が、ここにゃあワンサといるんだからな」

 

Oさん

「行けばいいと思いますよ。歳さんだったら、何とかしてのらりくらりとうまく帰ってこれるんじゃないですか? 僕は……近藤さんの別宅で療養する予定ですし……ご一緒はできませんけど」


Sくん

「…………………………………………あなたの、思うとおりにすればよろしいかと」


Nくん

「へぇ、アンタにそんな思想があったとは意外だな。行っちまえよ。あんたがいない間の仕事とかならオレらが引き受けてやるからさ」



 なんか全体的に『行け』的な雰囲気です……。まぁ、坂本さんの紹介があれば殺されるようなことは……ないといいな。

 そんなわけで今度は特にゴネずとも、長州に向かうことができました。何がいいって、永倉が俺がいない間の雑務を引き受けてくれたってことだよ! 帰った後の心配をしなくていいって素晴らしい!!

 

 

 で、拉致されて、ただいま下関におるとですが……。どうしてこう、俺様拉致されやすいんでしょうか。しかも今回は、拉致した人にも見覚えがあるとです。キサマ、九州行った時に俺を拉致ったヤツだろ!

 

「俺みたいな下っ端の顔まで覚えてんのかい。アンタ噂どおりのおっそろしい男だな」

 

 バカ野郎、いきなり駕籠の中に真剣ぶっ刺した相手のこと、誰が忘れるかよ! ちなみに今回もほぼ同様の手口で拉致られました……。お互い成長してないね。

 

「お久しぶりです、土方殿」

 

 お久しぶりですオバサン。今は長州におるとですね。とっ捕まって流刑になったって聞きましたけど。

 

「高杉殿が身命を賭して助けてくれましてね……。ありがたいことです」

 

 俺の命も身命を賭して助けてくれないかなぁ。

 

「敵方にそれは無理でしょう」

 

 ……相変わらずズバっと言いますねオバサン。逆逆、敵方だからこそ、大目に見てあげることが可能なんですよ! 特にね、薩長のお偉いさんにはホント助けてもらいたいよ。

 

「さあ、案内します。あまり長時間は無理ですが……彼も貴方が訪れると聞いて楽しみにしていたようですよ」

 

 うん……拉致されたことはなかったことにするよ、こうして無事に会えるんならね。だから帰りもなかったことにして安らかに帰らせてくださいね。

 

 

「このような姿ですまんな、土方歳三」

 

 部屋に入った瞬間、ドン引きました。血まみれの着物着てるんだもんよ! どうやら吐血した直後だったらしく、オバサンとかがあわてて着替えと新しい布団を用意していた。

 

「いやー、突然訪ねてきたんだしキニスンナ。んで初めまして、高杉晋作サン」

 

 病気のせいもあるだろうけど、想像より丸い人だった。いや、目つきはちょっと怖いんだけど、それでも歴史のイメージに残ってるようなムチャクチャな人には見えない。

 

「ああ、初めまして。貴様とまみえるのはこれが初めてとは、不思議な感覚だな」

 

 うん、俺もそう思う。なーんかアチコチでアンタの名前だけはよーく耳にしてたもんな。

 

「それはこちらも同じだ。京で聞く鬼の副長、望東尼殿から聞いた貴様の話、近藤から聞いた話……どれ一つ共通点が無い。これほど捉えづらい人物もそうはいないだろう」

 

 それは……俺がどうこうっちゅーよりもウワサ先行の時代が恐ろしいってことじゃなかとですか? ほら俺どう見たって鬼の副長ってツラじゃないっしょ?

 

「そうだな。聞いた中では望東尼殿の話が一番近いか、こうやって会ってみると」


 一体何を吹き込んでくれたんだオバサン……。

 

「この時代に相応しくない、平和呆けした阿呆面と、それに似合わぬ展望を持った志ある人間……そう、聞いている」

 

 いやいやいやいやそんなご大層な人間じゃねーっすよ! 志? だがそんなものは無い!

 

「謙遜するな。あの激動の京都を、組織の力とはいえそれを纏め上げ生き抜いたのは紛れもなく貴様の力だろう。こちらとしては大層迷惑を被ったがな」

 

 まとめたのは近藤さんだしなー。生き抜いたって言うか逃げ回った? って感じだよな。というか現在進行形で逃げ回ってますハイ。

 

「逃げられてないぞ」


 グハッ! 長州方の人たちは何でこう人の心をぐさりと刺すようなツッコミしてくるとですか!

 

「おかしな冗談を言う奴だ。逃げ回っている人間がこうして長州に来ていること自体が可笑しいと思わんのか?」

 

 だって……会いたいっつったのはそっちじゃんよ。死ぬ間際の人に未練残されて幽霊になられても困るから来ただけだよ。あとそうだね、うん、ちょっとはこの先手加減してほしいかなーなんて打算もあったけどさ。

 

「幕府を……一度斃さねば新たな時代など来ようはずも無い……そのことが、貴様ほどの人間にわからぬとは……」


 また、何度も咳き込んで……血は吐いてないけど、野村のオバサンに背をさすってもらってる。……どんな英雄も、病にゃ勝てねえよなぁ。宗次のことを思い出して、俺の胸も痛んだ。

 

「血を流すのは、庶民だろ? そんな血塗られた平和なんぞ俺は真っ平だ。だから右往左往してんだけどな」

 

「坂本と似たような事を言う……。まぁ、貴様らなら……もしかしたら、やれるのかもしれんな……」

 

 ちょっと一人で遠い目をしないでくださいよ。アンタだってその一翼を担ってきたんじゃないですか。今後も担われると非常に困りますけどもっ!

 

「変わった時代をこの目で見てみたかった……」

 

 だからそういう遺言チックなのやめてくださいってばよ! 俺に遺言残してどうするよこのお馬鹿さん。

 

「……口の減らない男だな。そういうところもあの男に良く似ている」


 反論しようとした矢先に、閉じられた障子が勢いよくシパーンと音を立てて開いた。

 

「高杉!!」 


 えーと……どちらさんですか?

 

「土方、長州までわざわざ足を運んでくれた礼だ。時代の流れを変えたいのならば、己で切り開いて見せろ」


 説明を受ける間もなく、眠りに着いた高杉さんのお付の人に、やってきた人ともども追い出された。

 

「お二人とも気が合うと思いますよ? 逃げることが得意な者同士」


 オバサン何言って……。


「ひでぇなあ。オレは別にただ単に逃げてだけいたって訳じゃないぜ? そりゃ一時期は全力疾走で逃げたけどよう」


「高杉殿の意向ですから、紹介しましょう。土方殿、彼が我らの旗頭、長州の桂小五郎です」


 いきなり大御所との対面キタ――(゜∀゜)――!! ちょっ、ちょっと待ってちょっと待って、俺まだ心の準備できてないよえっ、この兄さんが桂さん!? えっ今長州にいたんだ!

 

「野村殿、この方は? 大方予想はつくけどな」


「ご想像通り、京の壬生狼、新選組の副長、土方歳三殿です」


 オバサンも席を外し、連れられてやってきた部屋に桂さんとサシで対面。ちょっと待ってよ心臓止まる! マジで止まる! 俺やばい、チョーやばいって!

 

「そんなに恐縮されると、オレの方もガチガチになっちまわぁな。気にすんなよ。長州の桂だろうが新選組の土方だろうが、面と向かって会えば単なる人同士だ」

 

 悪い人じゃなさそうだけどでもここ敵地のど真ん中で桂さんの目の前ってあれ俺もしかして人生最大の死亡フラグ立てちゃった? どうするよ、俺!?

 

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