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第十一話

 ヒキコモリ三昧の日々にもそろそろ限界が訪れそうです。

 伊東先生たちは無事に、御陵衛士として新選組を出て行きました。有名どころだとウチの藤堂・斎藤あたりがあっちに行ってしまった。ま、藤堂はともかく斎藤はスパイとして俺が送り込んだんだけどね。打診した時、なかなか返事してくれないから断られるのかと思っちゃった。あの人、寡黙すぎにも程があるよ。しばらーく沈黙して、俺が我慢の限界を迎える直前に『……承知した』ってすっげぇ小さな声で。無駄にドキドキさせんなっつーの。

 そんな感じで時々スパイ斎藤くんの報告を聞いてたらね、なんか御陵衛士の皆さん方、近藤さんの暗殺を目論んでるらしいよ! 嘘だ嘘だ、伊東先生は敵対しないって言ってくれたし、そゆことする人にも見えないもん!

 そんな訳で、近藤さんに相談することも出来ずに俺はのこのこと御陵衛士の屯所前へやってきたのであった。無茶乙。つかわざわざ俺自身が来る必要なくね? やっぱ帰ろう……


「あ、土方さん!」


 はい、お約束の展開ですが藤堂に発見され笑顔で拉致られました。どうも、お久しぶりです伊東先生。


「ようこそ、歓迎しますよ、土方さん」


 うーん、うちの屯所よりお掃除的な意味でピカピカだ。これは少し見習わねば。

 どうも落ち着かずにキョロキョロしていた俺は、視界の片隅に立ててあった本に目を留めた。


「せんせーせんせー、アレ、もしかして英語のテキストじゃないすか?」


 伊東先生はにかっと笑って、俺がまじまじと見つめていたものを手にとって見せてくれた。


「土方さんも英語にご興味がおありですか? 今後は諸外国の方々とも意思の疎通が不可欠であると考えて、うちでは英語を始めとして阿蘭陀語や独逸語などを学ばせているのですよ」


「うん、俺カタコトなら英語しゃべれるよー」


 それは素晴らしい事です、と褒められた。ま、通じるかどうかは微妙なんだけどな……。一応、ガイジンさんに道を尋ねられて無事に案内した事はあるぞ。主にボディランゲージで。


「で……本日は何用にてお越しになったのですか?」


 雑談もそこそこに、伊東先生はずばり本題へと入る。念のために人払いをしてもらってから、……俺は伊東先生に全部オブラートにも包まずにまるっとぶっちゃけて聞いた。少なくとも伊東先生だけは信じられる人だと思うからさ。


「近藤さんの暗殺を企てているという噂を耳にしたのですが、本当ですか?」


「ははっ、斎藤君ですね。今は御陵衛士を抜けて行方不明ですが……おそらく、そちらの間者だったのでしょう」


 はいその通りです。何も無いのに突然逃げたら怪しいからって、有り金でも盗んで逃げ戻って来いって入れ知恵したんだけど、どうもバレバレで無駄足だったみたい。しかしあの生真面目そうな斎藤が金目のもの盗んで逃げて来たの見たときは個人的にめっちゃウケた。


「伊東先生に嘘はつきませんよ。だから……俺にも嘘をつかないでください」


「……わかりました」


 伊東先生は居ずまいを正し、改めて俺の正対に向き直った。


「近藤さんを暗殺しようという話は、確かに御陵衛士の中で出ました。ですが、私はそのような事を許しません。私の目の届かないところで実行する可能性は無きにしも非ずですが、責任を持って、絶対に衛士たちにさせないよう監視いたします。信じていただけるかどうかはわかりませんが……」


 いや、先生のことは信じるよ。でも、そうか。そういう話が出たことは事実なのか……少なからず新選組は御陵衛士の一部に疎まれてるんだなぁ……。


「むしろ逆に……これもご存知のことでしょうが、我らは薩摩や長州とも関係を持っています。特に薩摩とは、少なからず深い関係に在ると言っていいでしょう。それを理由に新選組が仕掛けてくるのではないかと、心配している者もいるのですよ」


「あー……だからやられる前にやっちゃえってことですか。気持ちはわからなくもないけど……新選組の方は、俺が絶対に阻止しますよ。だって、伊東先生は俺がやりたくてもできないことをやってくれてるんですから」


 お互いに似たようなことを口にして、そうして二人で笑う。

 近藤さんや宗次には悪いけど、俺はこういう風に色んな思想の人間と交流を持って、その上で色々なことを決められたらいいのにと常々思っている。だから正直……ちょっとだけ、うらやましい。


「そのうちに、うちの幹部……はっきり言えば近藤さんとの宴席でも設けましょう。これ以上両者の軋轢を生じさせないように……俺がトップ会談セッティングしますから、伊東先生も来てくださいよね?」


 気軽に発言してるけど、合コンより難しいセレクションだよなぁ……ごめんなさい嘘です女子集めるのに比べたら新選組と御陵衛士のトップ会談のほうがはるかにラクです。


「ははは、本当に英語もお分かりになるようですね、素晴らしい。出来るのであれば土方さんにも是非うちに来て頂きたかったですよ。わかりました、お誘いがあればいつでも参じましょう」


 本題も終わり、あらためて足を崩した俺と伊東先生は他愛もない話に花を咲かせた。英語の発音聞かれたり、単語の意味聞かれたり、知らんって答えたり。そしてのんびりと軽やかに、俺は御陵衛士の屯所を後にした。



「で、どこ行ってたんですか?」


 笑顔の宗次(・A・)イクナイ!! ガチで怖い。なんかちょっとケホケホいってるけど騙されんぞ! こいつは一太刀で俺を両断できる間違いない!!


「お散歩だよお散歩。そのうち話すから今は聞くな」


 俺は有無を言わせない雰囲気を漂わせ……なくても、宗次はホントにどうでもいいといった体でそれ以上の追及をやめてくれた。


「僕は別にいいですけど、さっき近藤さんが探してましたよ? ちょっと聞きたいことがあるとか何とか」


 何だろな。宗次に礼を言っていそいそと近藤さんの下へと馳せ参じることにした。


「おまっ、おれっ、ちょっ、殺されそうだってマジか!!!?!?1?」


 ……斎藤君……普段は寡黙なくせに、近藤さんにいらんことしゃべったね……?


「あ、斎藤君はそのまま受け入れると御陵衛士に対してちょっとアレなんで、山口次郎君っていう新入隊士として扱うことになったから、そこんとこヨロシク」


 はいはい、それはそれでいいんですがね。


「暗殺の話はガセだよ。さっき俺が直接出向いて確かめたからな。んでその事でちょっとお願いがあるんだが、あっちの伊東先生と軽く飲み会でもしねぇか? 薩摩やらの動向も聞けるし、友好深めといて損はないと思うぜ」


 お前意外に胆力あるなと見直された。いや別に、俺は伊東先生を信じてただけだし……って、あれ、俺に人を見る目が無かったらガチで命ヤバかった? まぁいいや、無事だったんだし。俺の見る目は間違ってない。


「んじゃまあ、そのうち一席設けるか。段取りは頼むぜ」


 はいはい、雑用は全て僕ちゃん任せなのよね。信頼されてるんだか軽く扱われてるんだか……まぁ、雑用そんなに嫌いじゃないし、大量じゃなければいいんだけどさ……

 とか思ってたら、今度は俺の部屋の前で待ち構えてた宗次にズルズルと稽古場まで拉致られました。何、俺もしかして、拉致されやすい体質?


「たまには一緒に遊んでくださいよー」


 お前さんのは遊びでおさまらねーだろうが! 病気に障るからちょっとだけだぞ?

 そうして小一時間ほど、俺と宗次は汗を流したとでした。あれ? 汗を流してるのは俺だけ、ボコボコにされてるのも俺だけ。こりゃどういうこった。チクショウ、次は必ず一本入れてやるからな! 絶対、次もあるんだからな!!



 そういや今年、ええと、慶応三年はかなり激動の年になるはずなのです、俺様年表によると。

 えー、まずは御陵衛士。これはもう終わっちゃったね。年表に日付を書いてないのが悔やまれる。何やってたんだよ来た頃の俺! はいすいません、日付なんて覚えちゃいません、そもそも学んでないという説も。順番覚えてただけでもよしとするか。

 で、ええと、次が幕臣取立て……うわぁ、ますます佐幕寄りになっちゃうじゃん新選組。でもこれはまぁいい側面もあるし、大体食い止めようがないし……スルーだな。近藤さんが小躍りしている姿が目に浮かぶようだ。

 次……なになに、武田さん殺害。アレなんだよなぁ俺は見て見ぬ振りしてるけどどーもあの人、最近薩摩にちょっかい出してるみたいなんだよな、多分内部粛清になるんだろうなぁ……あの人、未だに俺の尻狙ってるっぽいし、殺されるのはさすがに後味悪いけど、申し訳ないがスルー決定。

 で、大政奉還……ふむふむ、坂本さんたちが頑張るわけですね、わかります。その前に勝のジジイに一泡吹かせてやりたいんだが、これもどうしようもないのでスルー。何だよほとんどスルーじゃねぇか。


 ……でも、ここだけは絶対にスルーできない、したくない。

『坂本龍馬暗殺』

 個人的にも新選組的にも、あの人は死なせちゃいけない。

 どーでもいいことだがこないだ偶然会ったとき、坂本さんは指を怪我してて包帯でぐるぐる巻きにしてた。寺田屋の事件のこと、教えるのすっかり忘れてたからなぁ。でも死ななかったみたいだし、史実に残されてた記述より軽症だったみたいなのでほっと一安心したのだった。それよりも、おりょうさんとのノロケ話を延々と聞かされた俺のハートの方が重症。新婚旅行に行っただの一緒に温泉に入っただの(´・ω・`)知らんがな。畜生リア充め爆発しろ。

 まあ、それはいいとして、だ。歴史の専門家じゃなくてもその名前くらいは知っている近江屋の暗殺事件。結局下手人は誰なんだろ? 新選組っつー説もあるが、今のウチの雰囲気じゃあそれもなさそうだしな、つーかさせないしな。もしそうなら俺が締め付けるだけですむから一番手っ取り早くていいんだけど。十津川郷士を名乗ってたんだっけ? でもそもそもこの時代でわざわざ名乗って暗殺するのもおかしな話だよな。

 新選組以外だったらそもそも現場に踏み込むしか止めようがないし、もし幕府側だとしたら新選組の立場が危うくなるし、あああとりあえずどうすればいいよ俺、どうするよ俺!?


ピコーン( ゜∀゜)!


 決めた! 近江屋に精鋭を何人か派遣しよう。誰か剣の使える奴で、こっそり坂本さんを守れっつっても文句言わずに従ってくれるような奴……ここは困った時の斎藤君頼みですかね? あとは……宗次は色々ゴネそうだし病気も心配だからパス。永倉とかどうだろう……あーダメかも、下手人が幕府側の人間だった場合は命令ガン無視されそうだ。……うーん、原田なら引き受けてくれるかな? アイツ本当は剣より槍の方が凄腕なんだけど……まぁいっか、少なくとも俺よりは強いしな、剣でも。

 本当は伊東先生にも助太刀を頼みたいんだけど、でもこの話があんまり外部に漏れるのもまずいしなぁ、俺が。未来を知ってるなんてばれたら何されるかわかったもんじゃないからね、主に勝とか海舟とか狸爺とか。

 その次は油小路……坂本さんのゴタゴタを何とかしてから、後で考えようそうしよう。あ、でもセッティングだけはちゃんとやっとかないとな、俺が怒られる。でもまあ、そのうちにね……。


 つか現在坂本さん行方不明なんですが俺どうすればいいとですか? 目下、監察方の山崎にオネガイして探してもらってるんだが、どーも京にはいない模様。ま、戻ってきたら情報も入ってくるだろうし、それまでは放置プレイけってーい。

 よーし、これでしばらくは何もしなくてすむな俺。と思いきやどっこい、大量の書類が俺を待ち構えていたとでしたチクショウ……。いいもん、宗次の見張りがないから何とか逃げ出してやるバーヤバーヤ!

 ……宗次の見張りがなくなったと思ったら、今度は山口次郎君が俺の見張りをしてはるとです……ひどいよね、あんな無口な人に睨まれたら俺黙って仕事するしかないじゃんね。逃げていい? って尋ねたら人殺しそうなマナザシで睨まれました怖いよう! イッツアメリカンジョークハハハハハ! とか言って場を和ませたつもりが更に睨まれただけだった。はいはい仕事ですね、します、しますよ、すればいいんでしょ……。書類読んで、捺印して、報告書書いて……。

 いや、普通さ、幕末にタイムスリップとかしたら、元々剣道とかやってた人が『よっしゃ剣で成り上がってやるぜー!』とか、政治を志してた人が現代知識フル活用で『俺は幕末王になる!』とかみたいな感じじゃね? 俺すっかり事務方なんですがドウスレバイイデスカ。いや、だからって剣一本の道に放り出されてもそれはそれで困るわけなんですけども。でも毎日毎日書類とのにらめっこの日々は正直疲れるとですよ。あああそういえば屯所の移転も考えなきゃだ。最近、微妙に西本願寺の坊さんたちがジト目で俺らを見てるんだよなぁ……表立って何か言ってくることはないけども。でも調練もできるだけの広い敷地ってそう簡単にはないしさぁ……。

 何でこんな苦労してるんだろ俺。全部近藤さんのせいにしておこうそうしよう。ホント、俺が強かったら二十回は殺してるよねあの人。

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