第十話
「お前、江戸城前で門前払い食らったんだってm9(^Д^)プギャー」
京都に帰ってきて一発目がコレです。俺に刀の腕があったら10回くらいは殺しとるとですこの人。それでもあんたは新選組の近藤勇なのか!? (正直まだ少し疑ってる)
「ふふん、会津藩邸は広くて豪華だったぜぇ? 働いてるオネーチャンも美人さんばっかだったしな。近藤さんは京都を出られなくて残念でしたーバーカバーカ」
ついイラッとしてやった。今は反省してなくもない。いや、やっぱしてない。
そしてお互いに煽りまくって、最終的には宗次が止めに入るまで殴りあいしたとでした。刀さえなけりゃ俺だって近藤さんと互角に戦えるんだぜ! 何せ俺の外の人(元の土方歳三)のスペックは尋常じゃねェからな!
「……で、勝海舟はどうだったよ」
宗次が仲裁に入ってようやく本題に入れそうです。
大の大人が二人してゼーゼーいってるよ。馬鹿みたいとか思うだろ? でもこれが結構楽しいんだ……命なんか賭けない、普通のケンカ。
「……狸爺」
マジでやばかった。あれからもう一回訪ねてくるっていうからおとなしく待ってたら、今度は兵隊連れてきやがった。危うく大捕り物になるところだったぜ。もっとも、会津藩邸なんでそうオオゴトにならないようにと少人数だったけどな。
あのジジイ、坂本さんみたいに俺の話を信じたんじゃなくて、各地に情報網を敷いている結果と俺の推理力の賜物だと思ったらしい。放っておいたら幕府存続が危うくなるかもしれないとか難癖つけてきやがった、直接本人から聞いたわけじゃないけど。
会津のお姫さん……照姫様が匿ってくれなきゃ俺、確実に捕まってたわな。松平容保公のお姉さんだっけか? さすがの勝さんもあの人を巻き込むわけにいかなくて、どうにか助かったんだけど……。
もーやだ! 俺もう京都から出ない! また引きこもる!! 二度と危ない目にあいたくない!!
俺は、ジャイアンから逃げ回るのび太のごとく屯所に引きこもる事にした。残念ながら俺にドラえもんはいないからな。
家茂公が死んだ。知らん!
孝明天皇も崩御した。知らん!
伊東先生が何かゴニョゴニョやってるらしいけど知らんったら知らんのだ!!
「何を知らないんですか?」
ウワサをすればなんとやら。カタツムリより頑丈に引きこもっている俺の所へと伊東先生が訪ねてきました。珍しいね。何しに来たとですか、俺は単なるヒキコモリニートですよ?
「いえ、近々隊を抜けるにあたってご挨拶をしておこうと思いまして」
抜けるとな? あ、そうか、もう御陵衛士の季節か……ってあれ、この人行かせたらなんかヤバかった気がする。油小路とか油小路とか油小路とか。
「伊東先生、考えを改められる気はないのですか?」
イケメンの首は、無情にも横に振られる。
「残念ながら、尊皇攘夷を掲げて勇んで来てみたにも拘らず、今の新選組がやっていることといえば尊王からは程遠い……」
「ぶっちゃけ、幕府の犬ですね」
「はは、言葉は悪いですが……まあ、そういうことです」
うーむ、戦力引っ張られちゃ困るんだよなあ……油小路がどうこうって前に、それが痛い。もちろん分裂の危機に黙って見過ごすわけにもいかんしな。
「伊東先生……もう俺を、俺らを信用していただくわけにはいきませんか」
伊東先生は悲しそうな顔をした。やっぱ無理か。
「……これでも、随分と我慢をしてきましたよ。そして今も、問題なく新選組を抜けることができるようにと調整中です。余計な諍いは起こしたくありませんからね」
「ぶっちゃけて話しますけど、俺の考え方と一番近い新選組の人間って、伊東先生なんスよね。一和同心、幕府と天子様が一体となってよりよい日本を作りましょーってトコ。攘夷を為すために何でもかんでも追い返すんじゃなくて、西洋列強のいいとこどりして強い日本を作りましょーってヤツも。俺はその方向に新選組を持っていくつもりなんですが……それでも?」
ダメだろうなぁ……近藤さんは幕府に恩賞もらってすっかり浮かれちゃってるし、会津は筋金入りの佐幕派だもんなあ。
「会津公に養われている現状では、限界があるでしょう……そういったしがらみから抜け出したいのですよ」
やっぱな……そうなるよなあ。
「んじゃ先生、いっこだけ約束してください。新選組と敵対しない、と……あ、すんません、もいっこ。最初はいいとして、今後そちらが隊士の逃げ道として受け皿になられるのはちっと困ります。ウチの脱走隊士がお邪魔しても絶対に受け入れないでください」
「たとえば藤堂君などが私と一緒に来てくれるそうですが、それに関しては問題ないのですね?」
「あるけどここで文句言ってもどーしよーもないッスからね、分派の時にそちらに行くと明言した隊士に関しては口出ししませんよ」
無駄なことはしないのが一番。伊東先生は何気に頑固だし、そんな人が意志固めちゃってるみたいだし?
「伊東先生には感謝してるんですよ。新選組に足りなかった学問と知識を学ばせてくれました。俺もね、色々と勉強になること多かったし」
「最初の決闘とか、ですか?」
やめてやめてそれ言わないで。伊東先生が初めて新選組に来た時、頭でっかちの弱い人だと思って試合稽古を申し込んで一方的に俺がフルボッコになったとです。今思い返しても恥ずかちい。
「まさか道場主だったとは知らず……その節はご無礼しました」
「いえいえ、楽しかったですよ」
やっと笑顔を見せてくれた伊東先生は、急に真面目な顔になってこう言った。
「土方さん、もしできるのなら……あなたも我々と一緒に……」
うん? それは無理な相談だぁね。俺一応副長だし。俺まで抜けたら新選組がガタガタになっちゃうよ。ただでさえ組長である藤堂と斎藤が抜けそうだって隊内ザワついてんのにさ。
「交流は、続けましょう。元新選組という名前は重荷になるかもしれませんが、それでもあなた達が俺らの仲間であることに変わりはない。たとえ、抜けたとしても」
コレ、俺の正直な気持ちです。今のうちから好感度うpしといて密な関係を保ってれば、油小路の変は起こらないと思うしね、多分……。
「残念です……が、今のその言葉、嬉しかったですよ。私も新選組の方々のことはずっと仲間だと思っております。では、私はこれで……」
「あーちょっと待った。伊東先生、まだ屯所見つけてないんだろ? 五条橋んとこの長円寺に行ってみ。俺が行ったときは人数多すぎで断られたけど、そこまで多くなければなんか受け入れてくれそーな感じだったし」
頭を下げて、伊東先生は出て行った。……はー、俺なんかより人望あるしアタマはいいし剣も強いしイケメンだし……あんな人に出て行かれると、平隊士も随分出て行っちゃうかもなぁ……。
ちょっと近藤さんに説教してみっか。佐幕によりすぎだー、とか何とか。……ダメだ。会津公に恩があるのは確かだし、朝敵になるまでは何言っても聞き入れてもらえないだろうなぁ……。なに、もしかしてウチの最大の問題児はあの人なんじゃね? ちょっと今からそいつを、これからそいつを、殴りに行こうか……。
そうそう、全然話が変わるけどストッパー宗次。あいつ、食い放題だと思って餡蜜を二十八杯も平らげやがりました。ああ、俺のささやかな老後の貯金が……orz