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超能力で気になる男子を落としたい神代さん(と難攻不落な佐伯くん)

作者: ロン毛丸
掲載日:2026/10/22

「最近のゲリラ豪雨はすごいな」


 佐伯愛世(さえきまなせ)は、窓の外を見ながら言った。


 七月の空は快晴だった。


 グラウンドでは、野球部だけが豪雨に襲われていた。


「ゲリラ豪雨って、あんなに狭いの?」


「最近のは狭いんだよ」


 愛世の声には、本人が期待するほどの説得力はなかった。



     ◇



 話は、その三十分前にさかのぼる。


 神代美鈴(かみしろみすず)は超能力者である。


 念じるだけで物を動かし、遠くの景色を見通し、まだ起きていない未来を知ることができる。ほかにも色々できる。


 愛世が本人に何種類あるのか尋ねると、少し考えてから「だいたい何でも」と答える。


 美鈴は、そんな自分を超エスパーと呼んでいた。


 正しい呼び方かどうかは怪しい。


 内容については、おおむね正しかった。


 美鈴は人の心を書き換えることさえできる。


 だが、愛世に自分を好きだと思い込ませたいわけではない。自分を好きになってほしいのだ。


 だからマインドコントロールは使わない。


 天候操作は使う。


 この日、美鈴は愛世と相合い傘がしたかった。


 相合い傘。


 男女二人が一本の傘を共有し、肩が触れるほどの距離を自然に確保できる、雨天限定の恋愛行事である。


 成立に必要な条件は三つ。


 美鈴が傘を持っていること。


 愛世が傘を持っていないこと。


 そして、雨が降っていること。


 第一条件は、鞄に入れた水色の折り畳み傘によって達成済みだった。


 残るは二つ。


「佐伯くん」


 昼休み、隣の席でパンの袋を開けていた愛世が顔を上げた。


「今日、傘持ってる?」


「持ってないけど」


「そう」


 第二条件達成。机の下でガッツポーズをとる。


「雨、降るの?」


「降るよ」


 美鈴は迷いなく答えた。


 愛世が窓の外を見る。七月の空には雲一つない。


「天気予報は晴れだったけど」


「天気予報がいつも正しいとは限らないから」


「未来を見た?」


「今回は違う」


「今回は?」


 愛世が眉を寄せる。


「それより、放課後はすぐ帰る?」


「そのつもりだけど」


「誰かと?」


「一人で」


「寄り道は?」


「しないと思う」


「そう」


 第三条件以外の確認は完了した。


「神代、今日何かする気?」


「何も」


「その言い方のとき、大体何かするよな」


「偏見」


「三か月分の経験」


 美鈴は返事の代わりにパンを一口かじった。


 四月の入学以来、愛世に能力を知られてから三か月。美鈴が何かを企んでいるとき、必要以上に平静な顔になることを、彼はすでに学習していた。


 ただし、その企みのほとんどが自分へ向けられていることには、まだ気づいていない。


 相合い傘には、偶然性が重要である。


 突然の雨。一本しかない傘。そして、偶然帰り道を共にする男女。


 避けられない事情によって距離を縮めるからこそ、そこには価値が生まれる。


 しかし、待っているだけで都合のよい偶然が起きるとは限らない。


 偶然が起きないのであれば、自分で起こせばよい。


 それを偶然と呼べるかについて、美鈴は考えなかった。



     ◇



 放課後。


 愛世が教科書を鞄へ入れている間に、美鈴は校門の上空へ意識を集中させた。


 空気中の水分が集まり、青空の一点に薄い雲を作る。雲は徐々に厚みを増し、灰色へ変わっていった。


 大きさは直径十五メートル。


 降水量は、走って逃げるほどではない。しかし傘を差さずに歩くには少し強い。


 愛世が校門へ到着する時刻まで、あと七分。


 雨雲の位置、大きさ、発生時刻。


 すべて計画どおりだった。


 美鈴は鞄から折り畳み傘を取り出した。


 計画は完璧だった。


 風向きを除けば。


 開いた窓から夏の風が吹き込み、カーテンを大きく膨らませた。


 校門上に浮かんでいた雨雲が、ゆっくりと動き始める。


「あ」


「どうした?」


「何でもない」


 雨雲は校門を離れ、駐輪場を越え、グラウンドへ向かった。


 美鈴は雨雲を作ることができる。


 大きさも位置も雨量も、ある程度は指定できる。


 しかし、作ったあとの雨雲は普通の雲になる。


 普通の雲なので、風が吹けば流される。


 恋する女子高生が生み出した雲であろうと、その都合までは考慮してくれない。


 美鈴は念じた。


 戻れ。


 雨雲は戻らなかった。


 サッカー部の頭上をかすめ、その奥にある野球部へ到達する。


 そして降った。


「うわ、冷たっ!」


「急に降ってきた!」


「ボールどこ行った!?」


 グラウンドから悲鳴が上がった。


 愛世が窓へ駆け寄る。


 マウンドから外野の一部だけが豪雨に包まれていた。その隣では、サッカー部が乾いたグラウンドで練習を続けている。


 教室に残っていた生徒たちも、異変に気づいて窓際へ集まってきた。


 愛世は折り畳み傘を持った美鈴を見る。


 美鈴はそっと傘を背中へ隠した。


 遅い。



     ◇



「最近のゲリラ豪雨はすごいな」


 そして時刻は、冒頭へ戻る。


「ゲリラ豪雨って、あんなに狭いの?」


「最近のは狭いんだよ」


「野球部のところだけ降ってるけど」


「ピンポイント型なんだろ」


「そんな型ある?」


「今できたんじゃないか」


 愛世は自然の神秘へ全責任を押しつけた。


 自然としても不本意だっただろう。


 クラスメイトたちは窓の外と愛世を交互に見る。誰も納得していない。


 しかし、「神代美鈴が相合い傘のために雨雲を作った」という正解へ到達する者もいなかった。


「まあ、最近は異常気象も多いし……」


 一人が窓から離れた。


 会話を終わらせるための説明として、ゲリラ豪雨は辛うじて機能した。


「神代さんは何か知ってる?」


 クラスメイトの女子が美鈴へ尋ねた。


 美鈴は背中へ隠した傘を鞄に押し込んだ。


「天気予報では降らないはずだったけど」


「だよね。変な雨」


「うん」


 三か月かけて、美鈴も多少は学習している。


 その返答に胸を撫で下ろした愛世は、美鈴と目が合った。


 彼女が窓の外へ視線を移す。


 豪雨がぴたりと止んだ。


「止み方も急だな」


「最近のはそうなんだよ」


 愛世は押し切った。


 正確には、押し切ったことにした。


「神代。ちょっと来て」


「どこに?」


「人のいないところ」


「二人で?」


「そうだよ」


「分かった」


 美鈴は素直に立ち上がった。


 教室の数人が、今度は雨ではなく二人を見た。


 超能力の秘密は守られた。


 代わりに、別の疑惑が生まれた。



     ◇



「学校では能力を使うなって言っただろ」


 人の少ない階段の踊り場まで来ると、愛世は声を落とした。


「使うなとは言われてないよ。なるべく控えろって言われた」


「今日から使うなに変更する」


「横暴」


「野球部に言ってくれ」


 窓から見えるグラウンドでは、ずぶ濡れの部員たちが水をかき出している。


「別に、知られても何とかできるのに」


「何とかする前に、今までどおり学校へ来られなくなるかもしれないだろ」


「佐伯くんは困る?」


「困るよ」


 愛世は即答した。


 美鈴の指が、折り畳み傘の留め具の上で止まる。


「毎回、俺が誤魔化すことになるから」


「……そう」


「何、その顔」


「別に」


 美鈴は傘を鞄へ押し込もうとした。


 愛世がその手元を見る。


「結局、何で雨なんか降らせたの?」


「実験」


「何の?」


「雨量調整」


「その傘は?」


「防災意識」


 愛世は美鈴の顔を見た。


 美鈴はふてくされたように折り畳み傘だけを見ている。耳がわずかに赤い。


「結局、何で雨なんか降らせたの?」


「必要だったから」


「何に?」


 美鈴は答えず、折り畳み傘の留め具を何度もなぞった。


「……その傘を使いたかったの?」


「悪い?」


「悪くはないけど、傘を使うために雨を降らせるのは順番が逆だろ」


 愛世は傘と、窓の外の水浸しになったグラウンドを見比べた。


「能力の試し方、もう少し考えた方がいいよ」


「実験じゃない」


「じゃあ何だったの?」


「もういい」


 美鈴は傘を鞄へ押し込むと、階段を下り始めた。


「帰る」


「一人で?」


 その足が止まる。


「佐伯くんは帰らないの?」


「帰るけど」


「じゃあ、一緒」


 美鈴は振り返らないまま歩き出した。


 愛世は少し遅れて、その隣へ並んだ。



     ◇



 昇降口を出ると、雨雲の姿はなく、七月の夕日が校舎を照らしていた。


 美鈴は鞄から折り畳み傘を取り出した。


 留め具を外し、晴れた空の下で傘を開く。


「晴れてるけど」


「日差しが強いから」


「もう夕方だよ」


「夕方にも紫外線はある」


「それ、雨傘だろ」


「雨にも使える日傘」


 美鈴は傘の片側へ寄った。


 隣には一人分の空間が残っている。


 愛世はそこを見たあと、傘の外を歩き始めた。


 三歩目で、制服の袖が横へ引かれた。


「神代」


「何?」


「能力使った?」


「風じゃない?」


「袖だけを引く風があるか」


「最近の風はすごいから」


 愛世は黙った。


 自分が使った言い訳だった。


 もう一度、袖が引かれる。


「分かった。入るから引っ張るな。制服が伸びる」


 愛世は傘の下へ入った。


 二人で並ぶには少し狭い。


 愛世の左肩が外へ出ると、美鈴が傘をそちらへ傾けた。今度は美鈴の右肩が出る。


 愛世が柄へ手を添え、傘を二人の中央へ戻した。


 指先が触れた。


 美鈴は手を離さなかった。


 愛世も、すぐには離さなかった。



     ◇



 美鈴の恋愛作戦は、それから一か月続いた。


 愛世の好みを知ろうと読心を使った日は、近くにいた二十七人分の思考が混線した。


 翌日の美鈴は、髪を結んだかと思えばほどき、明るく振る舞った直後に無口になり、手作り弁当を差し出しながら体育では異様な速さで走った。


「今日の神代、何か変だぞ」


「いつもの私と、どっちがいい?」


「いつもの神代」


 愛世は即答した。


 計画は失敗した。


 美鈴だけは、多少の成果があったと判断した。


 席替えでは念動力を使った。


 軽い紙ほど微調整が難しいという性質を忘れ、くじ箱の中身をすべて教室へ舞わせた。


「風だな」


 愛世は言った。


「窓、閉まってるけど」


「最近の風は窓くらい抜けるんだよ」


 夏の怪談が一つ増えた。


 瞬間移動で海へ誘おうとした日もあった。


 美鈴の瞬間移動は便利だが、移動先にある何か一つと自分たちの位置を交換する。何と入れ替わるかは選べない。


 二人が砂浜へ移動した瞬間、海岸に立っていた巨大な観光看板が学校の中庭へ現れた。


「新しい展示?」


 クラスメイトに聞かれた愛世は、搬入業者が場所を間違えたと答えた。


 愛世にも、そろそろ限界が近づいていた。


 未来予知で放課後を完璧にしようとすれば、行動を変えるたび未来が外れた。


 愛世の夢へ入ろうとした夜には、間違えて担任の夢へ入り、翌朝まで説教された。


 念写で愛世の欲しい物を調べようとすれば、愛世本人の写真が二十七枚できた。


 写真は美鈴の机の引き出しにそっとしまわれた。


 分身を作って作戦会議を開いた日には、美鈴同士で意見が割れた。


 告白すべきだと主張する美鈴。


 まだ早いと主張する美鈴。


 愛世の方から告白させるべきだと主張する美鈴。


 いっそ洗脳すればいいと主張し、残り全員から追い出された美鈴。


 作戦はことごとく失敗した。


 それでも、愛世との距離は少しずつ縮んだ。


 愛世は朝、美鈴の机を確認してから席へ着くようになった。


 能力を使いすぎた日には、何も聞かず飲み物を買ってきた。


 放課後、美鈴の姿が見えなければ教室で待った。


 怪現象が起きていない日まで、一緒に帰るようになった。


 美鈴の計画は、本人のあずかり知らぬところで着実に進んでいた。



     ◇



 夏休みの終わりが近づいた、八月最後の登校日。


 その日、美鈴は一度も超能力を使わなかった。


 落とした消しゴムは自分で拾った。


 教室へ忘れたノートは走って取りに戻った。


 自動販売機の前では、小銭を一枚ずつ入れた。


 愛世は落ち着かなかった。


「神代」


「何?」


「今日、何もしないの?」


「しないよ」


「体調悪い?」


「普通」


「何か企んでる?」


「企んでない」


「本当に?」


「三か月分の経験は?」


「何もしない神代は経験にない」


 美鈴は少しだけ笑った。


 愛世の方が、能力を使わない美鈴へ慣れていなかった。


 放課後、ほかの生徒が教室を出ていく。


 美鈴は帰り支度を終えた愛世を呼び止めた。


「佐伯くん、話がある」


「能力の?」


「違う」


「じゃあ何?」


 美鈴は何度も考えた言葉を頭の中へ並べた。


「私、佐伯くんのことが」


 そこで時間を止めた。


 教室から音が消える。


 カーテンも、窓の外の木々も、振り返りかけた愛世も動かない。


 美鈴は息を整えた。


 今の言い方では唐突すぎる。


 時間を動かす。


「神代?」


「私、ずっと」


 また止めた。


 二度目の静寂。


 ずっと、では重いかもしれない。


 別の言葉を探し、時間を動かす。


「佐伯くんと一緒にいると」


 三度目。


 美鈴は机へ手をついた。


 時間を止めても、自分の心臓までは止まらない。


 結果を知るだけなら未来を見ればいい。


 愛世の気持ちなら読心で分かる。


 断られる未来が見えたなら時間を戻し、告白自体をなかったことにもできる。


 それでは意味がない。


 美鈴は時間を動かした。


 愛世が振り返る。


「神代、大丈夫?」


「大丈夫」


「能力、使ってる?」


「使ってない」


「使ってるときの顔してる」


「どんな顔?」


「いつもより、いつもどおりの顔」


 愛世が美鈴の手を取った。


 今度は時間を止められなかった。


「使わないで言って」


 逃げ道を塞ぐような言葉だった。


 けれど、手は離さなかった。


 美鈴は息を吸った。


「佐伯くんが好き」


 教室は静かなままだった。


 今度は時間を止めていない。廊下を歩く生徒の足音も、窓の外の運動部の声も、秒針が進む音も聞こえている。


 止まったように見えたのは、愛世だけだった。


「ずっと、振り向いてほしくて。色々やったけど、全然うまくいかなくて」


「色々って……」


「雨を降らせたり」


「野球部に降ったけどな」


「席替えのくじを動かしたり」


「全部飛んだけどな」


「海に行こうとしたり」


「あの看板、戻すの大変だったな」


「今は静かに聞いて」


「ごめん」


 美鈴は一度、愛世から目をそらした。


 言葉にしてしまえば、あれほど繰り返した作戦の大半は失敗である。超能力者としての実績を紹介するには、あまり適切な内容ではなかった。


 それでも、どの失敗のそばにも愛世がいた。


 驚き、呆れ、叱り、最後には必ず美鈴と一緒に後始末をした。


「佐伯くんが秘密を知ってるから、一緒にいてくれるのは分かってる」


 愛世の眉が動いた。


「でも私は、それだけじゃ嫌だから」


 未来は見なかった。


 心も読まなかった。


 断られたときに備えて、時間を巻き戻す準備もしなかった。


「私と付き合ってほしい」


 口にした瞬間、美鈴は愛世の手を離した。


 返事を待つためだった。


 愛世は何も言わない。


 数秒が過ぎる。


 美鈴にとって、未来を知らない数秒はひどく長かった。


「……その認識、逆なんだけど」


 やがて愛世が言った。


「逆?」


「神代が俺と一緒にいるのは、俺だけが秘密を知ってるからだと思ってた」


「違うよ」


「今、分かった」


 それだけ答えて、愛世は視線を落とした。


 美鈴が離した手は、二人の間にぶら下がっている。


「俺も最初は、秘密を知ったから放っておけないんだと思ってた。でも最近は、何も起きてなくても神代を探してた」


 能力事故が起きそうだから。


 また何か企んでいそうだから。


 危ないことをしないか見張るため。


 理由なら、そのたびにいくつも思いついた。


「今日、神代が何もしないから、ずっと気になってた」


「能力を使わない方が気になるの?」


「そうみたい」


「変なの」


「神代に言われたくないよ」


 愛世が笑った。


 それから、美鈴が離した手を取り直した。


「俺も神代が好きだ」


 美鈴の指が動く。


「能力のことがなくても、一緒にいたい。だから、俺でよければ」


「よければ、何?」


「……付き合ってください」


「そこはちゃんと言うんだ」


「神代に言わせたままじゃ格好悪いだろ」


 美鈴は握られた手を見た。


 読心を使えば、愛世が本心で言っているか確かめられる。


 未来を見れば、二人が明日も一緒にいるか分かる。


 どちらも必要なかった。


「はい」


 美鈴は愛世の手を握り返した。



     ◇



 校舎を出ると、八月の空はきれいに晴れていた。


 二人は手をつないではいなかった。


 教室では勢いで握れたものの、廊下へ出た途端、ほかの生徒の目が気になったからである。


 付き合えば自動的に恥ずかしくなくなるわけではない。


 美鈴は愛世の半歩隣を歩きながら、何度か右手を開いては閉じた。


 念動力を使えば、愛世の手を引き寄せられる。


 風のせいにしてもいい。


 しかし今日は能力を使わないと決めていた。


 美鈴は鞄へ手を入れた。


 中には、水色の折り畳み傘がある。


 相合い傘をするために雨を降らせた日から、使う機会がなくても毎日持ち歩いていた。


 空に雲はない。


 当然、傘を開く理由もなかった。


「佐伯くん」


「何?」


 美鈴は鞄から手を出した。


「明日も一緒に帰る?」


「帰るよ」


「雨が降らなくても?」


「むしろ降らせないでくれ」


「じゃあ、傘もいらない?」


「いらないんじゃない?」


「そう」


 二人は再び歩き出した。


 数歩進んだところで、美鈴の右手に愛世の指が触れた。


 驚いて顔を上げると、愛世は前を向いたままだった。


「佐伯くん」


「何?」


「今の、偶然?」


「偶然」


 愛世の指が、今度ははっきりと美鈴の手へ重なった。


「二回目だけど」


「最近の偶然はすごいからな」


「そういうもの?」


「そういうものだよ」


 使い回された言い訳には、やはり大した説得力がなかった。


 美鈴は追及する代わりに、その手を握った。


 鞄の中で、折り畳み傘が揺れる。


 雨を降らせる必要は、もうなかった。

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