そうね、私がラスボスになりますわ。
「聖女であるシャルロッテ・グランビル。
彼女こそが王太子の僕である婚約者に相応しい。
聖女とともに魔素を浄化していくのだ、わかるだろう?」
王城の広間で、響き渡る声。
王太子レオンハルトは美しい女性の側を支えていた。周りを見渡すとその場にいた全員が静かに頷いていたりした。
「アデル嬢も今まですまなかった。だがわかるだろう?聖女はこの国で守るべき存在なのだ。本当にすまない。」
国王が告げる言葉に理解が及ばず、整えられたヒゲを静かに見ていた。それを了承と得たと思ったのか、胸を撫で下ろしている。
現状を理解し始めてきたアデルは静かに手に持っていた扇を握りしめて真っ二つにした。
私の人生を狂わせておいて何を言ってるのかしら?
◇
私が産まれた国ドラナヴィアは魔法大国だった。
全ての生きる人間に魔力が備わっている。魔法大国には結界で守られており、邪である魔物を退けている。
魔物がたまると魔素がたまる、魔素がたまると汚染されるため浄化することが必要となる。浄化の力が強いものを聖女とよぶ。
アデル・ノルヴァリエは公爵家の娘だった。
私はそんな中魔力が高く、王太子との婚約者を押し付けられた。私は決められた時に両親に泣きついたが、王命であるためにどうしようもできなかった。アデルは、その決められた日に王城に上がることとなり両親と離された。まだ、5歳の頃だった。
私は、最初は教育に難を唱えていて逃げたりした。が、その度にご飯を抜かされたり罰を与えられた。見えないような罰を与えられるたびに泣きながら教育を受けた。
婚約者となるレオンハルト・ヴィルフロワは私が初めて茶会で挨拶した時には、
「なんだお前、そのくっらい髪色と目!僕はお姫様がいい!」
と私の顔を見て暴言を吐き、茶会の場から去っていった。その場にいた人たちに同情した目で見られた。
(私だってこんな乱暴な男の子嫌だ。)
泣きそうになったがいつもの、マナー担当の講師が後ろにいたので歯を食いしばって堪えた。自室に帰った時には大号泣した。
魔力が高いだけでは、いけないと魔法の勉強や護身術の勉強もさせられた。こちらも講師が鬼で自主練習をしていないと怒鳴られた。
魔力や護身術での教育は傷が絶えなくて痛くて辛かったが、周りの人に見えないようにと治癒魔法をかけながら何度も傷を作った。
両親へ現状が辛いと手紙を書けば内容を読まれて、書き直しを目の前でされた。
一応婚約者の王太子に教育が辛いと呟くと、
「ふん、こんなものも耐えられないのか。」
と鼻で笑われた。王太子の教育現場を見たことがあるけど、私とは違い正解するだけで褒められ、間違えば優しく指導されていた。私は間違えると怒鳴られ時には叩かれ、成功してもつけあがるなと言われた。
そんな生活の中での楽しみは、唯一自由に入ることを許された書斎図書室だった。ふかふかの椅子と暖炉に囲まれてのんびり本を読むことが好きだった。
そんな中で特に好きだったのは、市民で人気のファンタジー小説。堅苦しい文章の中で聖女と共にラスボスを倒すそんな物語。
作者は前世の記憶を元に物語を描きましたということを発表しており話題となっていたのだ。
聖女があらわれたからお役御免ですって?
私は屋敷の荷物を片付けながら、あの物語を思い出していた。
「そうね、私がラスボスになりますわ。」
アデル・ノルヴァリエは本日2本目の扇を握りしめて真っ二つにした。
「腹が立って仕方ないですわ、そうよ私がラスボスになって暴れてやりますわ。」
手を合わせながらにんまりと微笑む。
どうせ、この王城からは追い出されるのだろう。そう、私にはあの小説で知識がありましてよ。荷物をトランクにまとめることにした。元々突然連れてこられたためあまり思い入れのあるものはない。
動きやすいようなワンピース類を中心に詰めていく。
「基本こういう婚約破棄の時は、王国を追い出されるのよね?。両親のところに帰りたいのも山々ですけど、いいように書かされた手紙の内容や、私に対しての悪評が言いふらされてると考えるといい顔はされないでしょうね。」
ため息をつく。公爵家には私が連れ去られた後に弟が産まれたと聞いている。つまり跡取りはいるのだ、私がいるととてもややこしいことになるだろう。
聖女が都市ノクターンで魔素の浄化をするという。うーむ、ラスボスになるにはどうしたらいいのかしら。
「とりあえずノクターンに先回りして見ちゃおうかしら。」
いそいそと荷物を詰め終わったのでここを去ることにしよう。東に向かうことにした。
部屋から出るが、意外と人がいない。部屋の廊下にでると遠くから声が聞こえる。
「王太子様ったら突然聖女を迎えるための準備をせよって、急すぎるわよね。」
「仕方ないでしょ、聖女様を婚約者にして囲い込みたいんだから。」
メイドたちが愚痴をこぼしながら、部屋を整えたりしている。なるほど、突然の準備、人員の配置換えなどの対応に追われて私の身の回りがかなり手薄らしい。
「どうすんのかね。あの前の婚約者。」
「教育もあんまりだったと聞くわ、むしろ新しい美しい婚約者様になるから良かったんじゃない?」
「そりゃそうか、前の婚約者追い出したりして!」
「そりゃ邪魔だろうしね!聖地巡礼で最悪連れ出したりしてね!なんかあった時に囮くらいにはなるでしょうよ。」
メイドたちがくすくす笑ってる。
バキッと手元から音がした。あらっ力が入りすぎてドアノブを破壊してしまったようですわ。
私をなんだと思ってるのかしら。とっととこんな場所逃げるが勝ちね。
そっと足元と自分にに風の魔法をかける。足音が聞こえないように数cm自分を浮かす。そして風により認識を阻害するように纏わせる。これはマナーの講師に何度も足音がうるさいと言われて、悩んだ末に魔力コントロールができるように3日寝ずに研究し、努力した。
魔力の講師に、風の魔力でコントロールができることを伝えたが魔力でマナーをさぼるなと魔法が飛んできただけだったなぁ。
そのまま王城の長い廊下を進んでいき、玄関までたどり着いた。昔は色々と工夫をして、この玄関から逃げ出そうとしていた。けど、何度も暴力を振るわれて心が折れて諦めた。
でも今ばたついているこの城からなら……。
私は一歩踏み出した。
風が目の前にふわっと通った。
「お嬢さん出るの?」
急に声をかけられて身構えた。隣に人が立っていた。フードを被った黒い髪の若い男だ。慌てて後ろずさると、男も慌ててフードを外した。
「ごめんごめん。別に止めに来たわけじゃないよ。
俺も一緒に出たいんだよね。どう?」
ニコニコと人当たりの良さそうな笑顔を浮かべている。この糸目具合は…
「あっお菓子のお兄さん。」
顔をしっかり見ると見たことのある人だった。泣きながら図書室で本を読んでたらお菓子をくれたり、よく声をかけてくれた。
最初は警戒していたけど、誰よりもこの王城で優しかったからすっかりいい人認定していた。
時には私が読んでいる小説の内容を自慢げに聞かせたこともある。
最近は大人しく教育を受けたりしていたため、あまり会っていなかった。
身体の力を抜いた。
「そうそうお菓子のお兄さんだよー。最近はおとなしくしてたのにどうしたの?」
「婚約白紙されたから、ラスボスになろうと思ってますの。」
「は?」
ヘラヘラとしていたお兄さんの糸目が開眼した。
そして腹を抱えてケラケラと笑い始めた。
そして右手をすっと私の前に差し出す。
「本当にアデルは面白いね。僕の名前はリュシアンさ。
君がラスボスになるまで見届けさせてくれないか?」
私はケラケラ笑うリュシアン様に目を見開く。
頭がおかしいことを言っているのは分かりますわ。でもそれに話をのると思ってなくて。
「いいのですか?私としては心強いのですけど。」
「ふふふ楽しそうじゃないか。僕の馬にのせてあげるし、僕は魔法も使える。
そうだ、空間魔法も使えるから荷物もしまってあげれるよ。」
私は勢いよくその手を握った。
東に行こうと思っていたけど足がなかったのだ。とても助かる。
「よろしくお願いしますわ!
聖地巡礼の先回りをしていこうと思いますの、ノクターンで彼らの邪魔をしようと思いますのよ。」
ニコニコとするリュシアン様を眺める。
でもこの方王城にいたけど何物なのかしら?
リュシアンと名乗っているから下働きなのかしら?
疑問に思ったけど特には触れずにリュシアン様に手を引かれ、馬小屋に辿り着きそのままリュシアンに支えられながら馬に跨った。
目指せノクターンですわ!
◇
「アデルそっちに行ったよ、サラマンダー。」
「リュシアン様お任せくださいませ。」
水魔法を駆使して槍を作りサラマンダーを刺す。
ここ数ヶ月で判明したことなのだが、私の戦闘スキルが高いということだった。もはやイジメと言わんばかりの環境で育ったため魔力コントロールは精密と呼べるものだった。最初こそ戸惑ったが、護衛術もこなしていたため数ヶ月でめきめきと成長してしまった。
リュシアン様はとてもお強く魔法も、剣もできるのですが私もラスボスになるために強くありますわ。
そうね護衛術と評して騎士団と5:1はやりすぎたと思いますわ。複数からの敵がいることが当たり前だなんてなんて無茶振りでしてよ。
ラスボスになるための修行だったと今は思っておきますわ。
道中リュシアン様は甲斐甲斐しく私のお世話をこなしてくれた。宿を確保しつつノクターンまで馬を走らせ数日ほどで到着した。
「アデルほら降りよう。」
そうここ数日でリュシアン様は甘やかしてくれる。
手を差し出してくれるが、勢いよく降りる。
「大丈夫ですわ、ラスボスになるために頑張りますのよ。」
リュシアン様は差し出した手をしょんぼりとした顔で眺めていた。申し訳ないことしたかしら?
「アデルは思った以上に強いし、しょんぼりしちゃうな。」
「リュシアン様頼りにしてますわよ。」
時折捨てられた子犬のような表情でこちらを見てくるから褒めるようにしてる。リュシアン様は機嫌を直したのかまたいつものニコニコ顔で私を見てくださる。
くっこの人、顔の良さを分かってやってますわね。
少しざわつく胸を抑えて、ノクターンを眺める。
王都とは違い、静かな時が流れている。
ノクターンは、聖なる都市で教会で浄化を強めているという。
教会を目指して歩くことにした。
しばらく道を歩くと、大きな教会が見えた。
「とりあえず邪魔するために教会入りますか。」
リュシアン様に言われて、教会に入る。
中はステンドグラスが飾られて光が満ちていた。
その光の中で真ん中に水が流れる聖杯があった。
「リュシアン様……。」
「どうしたのアデル?まさかとは思わないけど。」
聖杯を眺めている私にリュシアンがいつものヘラヘラ顔を崩して声をかける。
「ふふ、やですわ。聖杯を壊したらどうなるかしらなんてそんなそんな。」
聖杯を改めて見つめて舌なめずりをする。
そうね、これが魔素を浄化してるものですものね。これに聖女が祈りかなんか捧げるんですものね。
「アデル?さすがにね。落ち着こうね。」
「ふふふ、ちょっと気になりませんこと?」
ちょーっと傷とかつけといたら聖女を慌てさせることになりませんかしらってそんなそんな。
鍛え上げた魔力コントロールで高濃度の魔力を素早く練り上げる。我ながらいい精度の魔力がねれた。
「えい。」
それを躊躇いもせずに聖杯に投げつけた。
私の魔力の塊が聖杯にぶつけられて眩い光が放つ。教会中真っ白な光に覆われる。
そしてその光が拡散されて広がっていく。
突然の光景に神官様が慌ててやってくる。
ラスボスとして素晴らしい動きをしたと思うわ。
誇らしげにして逃げる準備をしようとした。
「魔素が浄化されました、貴方様が聖女様なのですね。」
神官様が涙を流しながら、祈りを捧げている。リュシアン様と私は目が点になりながらお互い顔を見合わせた。
「このように光が満ちているのは数百年ぶりと思われます。あぁ言い伝えではなかったのですね。あぁ今までの祈りで1番素晴らしいです。」
神官様の話によると、かつてないほど魔素が浄化された状態らしい。私はラスボスとして、立派なことをしようと思っただけでして。
まさかの聖杯に高濃度の魔力をぶつけることが浄化の方法だなんて誰も思いつかなかっただろう。
リュシアン様を見ながら首を横に全力でふる。リュシアン様は小声で小さく諦めろと呟いた。
「素晴らしい聖女が現れたと王都に報告させていただきました。」
神官様仕事が早すぎませんか?半泣きになりながらリュシアン様を見つめていると、
「第1王子のリュシアンだ。この度はアデル・ノルヴァリエとこの地に巡ってきた。」
リュシアン様が神官様に挨拶しはじめた。
第……1王子……?
レオンハルト様から第1王子の話は聞いていた。なかなか世継ぎができずに魔力が高い養子を迎えたあと、レオンハルト様を身籠ったと聞く。そのため第1王子は後継者継承を拒否しレオンハルトに譲ったと聞いている。
淑女らしかぬ目をガン開きしたまま、リュシアン様をみると眉毛を下げてこちらを見ている。
「お二人のおかげでこの国は安泰です。」
神官様は微笑み私たちに一礼をし、その場から去っていった。
「リュシアン様!どういうことですの!」
「あっいや、アデルが様付けしてるからなんとなく気づいているかと。」
「無意識に呼んでしまたわ、いろんなことが起きすぎてますわよ。」
そういえば泣くたびに静かに現れていたし、私が王城に上がってからずっと支えてくれていたけどよくよく考えたらあれだけ自由で動けていたのは王族だったからで。
いろいろな出来事が起きて、パニックになっていたが
「私に利用価値があると知ったらまたあの日々が続きますの……?
私旅が楽しくて幸せでしたのに。」
自由にリュシアン様と旅立つ喜びを知った今王城でのあの生活に戻るのはかなり辛い。想像して泣き出してしまった。
「僕昔からアデルの泣いてるところに弱いんだよねぇ。
アデルいい案が1つあるんだけどどうかな。」
「なんですの?」
「それはね……………。」
◇
2人の男女が馬に乗ってかけていく。別の国の魔素を浄化するための旅に出ているというていで、自由に旅をしている。
「リュシアン様はいつも私を支えてくれますのね。」
「あぁずっと僕の一目惚れだったからね。」
いつもの細めでニコニコしているリュシアンを見つめる。私は真っ赤な顔をしているであろう。
リュシアンは初めて私を見た時に一目惚れしたが、王太子を辞退したために弟の婚約者として諦めたらしい。
あの後婚約白紙を白紙にするとほざこうとした王国を、リュシアン様が黙らさせてくれた。すでに白紙となり噂が広がっている中で再度、婚約とするとなると国民から不信感を抱かれる。
しかも勝手に私は両親の元に帰ったと思われ、調査すらされてなかったのだ。
リュシアン様は第1王子である自分と婚約することを提案した。私はリュシアン様との生活を手に入れた。
「ラスボスにはなれませんでした……。」
「アデルに余計酷い目合わせてたら僕がこの世界を滅ぼしてたかもね。」
「ふふ、そんな冗談を…………。冗談ですわよね?
リュシアン様?なぜそんな胡散臭い顔で微笑んでますの?リュシアン様!」
まさか本来のストーリーではリュシアン様がラスボスってことではないですわよね?
そうですわよね?




