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Wind Orchestra!!➀

 自分が生きた証を残したいという思いからこの小説を書き始めました。

 半分はフィクションで半分はノンフィクション。誰かの目に留まる小説とはこのようなものなのかなと思い、適度なリアリティとドラマチックな展開を練りこむのにかなり苦労しました。実際、僕が通っていた高校は元男子校だったし、吹奏楽部の強豪校だったのは事実です。僕は僕自身を分裂させ青葉と緒方先輩に送り込みました。性格の良い方を青葉に、悪い方を緒方先輩に。僕の本質は緒方先輩に近いですが、あくまで表面だけは青葉のようになりたいと取り繕っていたのかもしれません。吹奏楽部は本当に良い人間教育の場です。それは吹奏楽に限らず他の部活でも同じことが言えますが、ここでは僕の自分勝手な主観を頼りたいと思うのです。

 感動は人の心に強く刻まれ、輝き続けます。僕の場合、それは音楽という形で頭の中を駆け巡り、まるで魔法にかけられたかのように現実を色鮮やかに彩るのです。学校に行くまでの道、車が走り話し声で溢れ信号が点滅し靴音が響く。そんないつもの風景が音楽という隠し味で心が弾むのです。

春の訪れ。校門の桜が柔らかな風に揺れている。まだ少し冷たい空気の中で校舎の窓から差し込む光はやけに眩しく、長い冬が終わった事を静かに知らせていた。

洗いたての教室にはそこが心地よいと言わんばかりに次々と風が吹き込んでいく。

いつもは控えめな黒板も、色とりどりのチョークで彩られその存在感を際立たせている。

窓の外では花弁が舞い、新しい一年の祝福にも思えた。

誰もがまだ知らない出来事や出会いがこの教室の中でこれから始まっていく。

そんな予感だけが、春の光と共に満ちていた。


新たな出会いと期待に胸を膨らませる高校一年生・塚本青葉(つかもとあおば)は、入学式早々その期待を折り曲げられていた。

新鮮で盛沢山な会話を横目に青葉は悟った。

そう、『意外とグループが出来るのが早い』。

進級において友達作りとは、コミュニケーション能力が如何に長けているかで決まる。

生憎、青葉はそれを得意としていない。完全に出遅れた。

既にいくつか仲のよさげなグループができており、そこに飛び行っていくのにはかなりの度胸がいる。

青葉はもう弱気であった。

それどころか、そもそも入学式で友達をつくれてしまう周りが異常だと内心言い訳をしていた。

話しかけてもらうほどのルックスを持ち合わせていないことも自覚している。その癖受動的なので、自分から攻めるべきなのか守りの姿勢を保つべきなのかせめぎ合うのだ。

しかし、待ってばかりの人生では何も始まらない。グループができているのも、誰かが先陣を切って誰かに話しかけているからだ。その勇気の素晴らしさとはいかなるものか…!!

この貴重な高校の一年間を無駄にすることは許されない。自分も青春を謳歌したいのだ!

よく考えれば教室の隅でいじけている自分に話しかけたい人なんているわけがないだろう!!

取りあえずあの男子二人組に声をかけてみよう。歓迎されたら話に乗ればいいし、冷たい目で見られたら逃げてしまえばいい。

ええい、当たって砕けるがいい俺!!!


意を決して席を立とうとしたその時、


「青葉、久しぶり」

「結城?!」


青葉の肩に手を乗せたのは、彼の幼なじみである結城遥(ゆうきはるか)であった。

結城とは小学生の頃からの付き合いである。

(通常なら)陽気な青葉と比べ、結城は大人しい性格のため、よく二人のペアを見かけた同級生からは不思議な目で見られていた。特別仲が良いかと聞かれたらそういうわけでもなく、お互いに他に仲の良い友達はいる。ただ、目があったら挨拶をし、帰りは一緒に帰る。適度な空間のある関係であった。


「ここいい?」と、結城はまだ空いている青葉の前の席に座った。ゆったりと体をこちらに向ける。見慣れていたはずの顔は、少し大人っぽくなっていた。


「結城もこの高校だったんだ?!」

「うん。受験期であまり話す機会なかったけど、まさか一緒だとは思わなかった」

「てか結城頭いいんだな…」

「それは青葉もでしょ?」


青葉と結城が入学した藤ヶ崎(ふじがさき)第一高等学校は、偏差値70を誇る進学校である。

入試も合計で最低八割は必要であり、入学には相当な努力が必要だ。

藤ヶ崎は高台である古城跡に建てられ、青葉たちの代で123周年を迎える。

また、元々男子校であり、つい五年前に共学になったばかりだ。それ故に女子率は一般の高校に比べるとまだまだ少ない。

『家から近かったから』なんて浅はかな理由で受験をして受かっただなんて、青葉は口が裂けても言えなかった。


「ま、まあお互い様でしょ…」

「ここ青葉の家から近いもんね。いいと思うよ」

「ば、ばれてる…?」

「そうやって何気になんでもこなしちゃうところ、昔から変わらないよね」

「そんな事ないよ、俺不器用だし…ん?」

「…ねえ青葉、僕たち見られてるかもしれない。」


さっきから感じていた視線の正体が分かった。

近くに座る女子たちがこちらをチラチラと見ている。時々「かっこいいね」とか「話しかけてみる?」とか初々しい会話も耳に通る。

もちろん彼女たちは青葉を見ているのではない、結城を見ている。

そう、彼はモテるのだ。

思えば疑念は幼少期からあったのだ。切れ長の目に質感のある睫毛。伸びた背筋と佇まいは美少年を揶揄していると言っても過言ではない。ちなみに背丈は青葉と頭一個分の違いがある。もちろん頭一個分足りないのは青葉の方である。


「やっぱ見られてるよね?勝手に人の席座ってるのやばかったかも。…青葉?」

「あ?」

「…なんか怒ってる?」

「いや?まさか」


嘘である。本当は腸が煮えくり返るほど悔しいのである。

だが当たり前に誰も悪くないので、やり切れない劣等感を断腸の思いで飲み込んだ。

来世はイケメンに生まれると青葉は心に決めた。


「青葉はもう部活決めた?」


結城がふと青葉に尋ねた。


「まだかな。様子見て運動部入ろうかなとか、適当にしか考えてない。結城はそのまま吹奏楽?」

「うん、それ以外やることないし」


中学時代、青葉はバトミントン部に所属していた。とはいえ結構緩かったため、日頃の運動不足の解消程度に続けていた。

一方、結城は吹奏楽部に所属していた。ホルンという楽器を吹いているらしいが、青葉にとっては何のこっちゃという感じで『なんかキラキラしてるやつ』くらいしか分からない。よく分からないが、楽器を吹けるということ自体には憧れがあったので興味はあった。どうやら結城の楽器は一番吹くのが難しいらしい。中学時代の帰り道に、よく部活の話を聞いたものだ。


「いいじゃん、ここ結構強いって噂で聞いたし。応援する!」

「…うん、ありがとう」


いつもは目が合うはずの結城がどこか遠くを見つめている。

違和感を覚えつつ、式の始まる時間を母に伝え忘れていたのを思い出したのでスマホを取り出した。


「あっ」

「どうしたの?」


少ししてから青葉は勢いよくスマホの画面を結城に見せる。

ミュージックビデオだろうか。ポップなサムネイルが目を惹きつける。


「…これ好きなの?」

「そ!新曲配信今日なんだよ!嬉し~!!」


ウキウキで高評価を押す青葉を見ながら結城は話を続ける。


「青葉、音楽好きだよね。」

「最近このバンドはまっててさ、シティソウルっていうやつ?ツインボーカルってのもかっこいいんだけどシンセサイザーのソロもイケてんだよなぁ」

「青葉は音楽好き?」

「好きだよ?てか、この曲結城にも聞いてほしいからリンク送っとく」

「ん。ありがとう…」


結城が何か言いたげな様子に、青葉が気づく気配はない。

結城が青葉と目を逸らした時、強い風がわだかまりを搔っ攫うように、結城の前髪を掻きあげた。

結城はその風を深く吸った。


「…ねえ青葉」

「ん?」


そしてゆっくりと吐き出す。


「吹奏楽やってみない?」


「えっ?」

【登場人物紹介】

塚本青葉つかもと あおば

:高校一年生、ユーフォニアム担当。

結城の誘いで何となく吹奏楽と縁を持つ。結城とは小学校からの付き合い。


結城遥ゆうき はるか

:高校一年生、トランペット担当。

元々ホルンを担当していた。青葉の親友。

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