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追放された聖女の私は、彼女と趣味を満喫する……はずでしたが、真の悦びは勇者パーティにあると気が付きました  作者: 邑沢 迅


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第6話:真理

「さあ、皆さん、立ってください」


 私が優雅に両手を広げると、神々しい光が勇者一行を包み込む。

 砕けた骨が繋がり、裂けた肉が瞬時に塞がっていく。


『チィッ……! こざかしい真似を! まずはその首から捻り潰してやる!』


 魔王軍幹部・ザルグが、四本の丸太のような腕を振り上げ、私へと襲いかかってくる。


 しかし、この凄惨な状況と、この後起こりうるであろう事象を夢想し、

 昂ぶり切った私の意識は、とうにこの物質世界になど存在していなかった。



 

 嗚呼……視界を圧する暴虐なる質量と、鋭敏に研ぎ澄まされた殺意の極致。

 生々しく蠢動する臓腑の、なんと蠱惑的で冒涜的な艶。

 やがて訪れる絶望を知らぬ、無垢なる生を湛えた瞳の、脆くも美しい煌めき。

 砕け、軋む白骨が奏でるは、死という結末へ向けて疾走する完璧にして残酷な狂想曲。


 嗚呼……この凄惨なる蹂躙の只中にあって、私はついに認識したのだ。

 これこそが世界を統べる神の恩寵――狂気と見紛うほどの『愛』なのだと! 

 至高だ。なんという圧倒的な生の顕現か。


 嗚呼……脊髄を這い回り、脳髄を焼き尽くすような甘美なる悪寒プレジール

 狂おしいほどの感情の濁流に呑まれ、熱を帯びて蜜を零す、私の秘めやかなる蕾。

 性愛などという泥濘の如き卑小な獣性など、とうの昔に脱ぎ捨てた抜け殻に過ぎない。

 私はついに見出したのだ。君という狂おしい幻影きせきを傍らに置き、この血塗られた至高の真理エデンへと至る道程を!

 よもや、魂の輪郭すら融解させるほどの背徳的な法悦が、この無慈悲な世界に隠蔽されていたなどと。

 信じられるものか!到底信じられるはずもない!


 嗚呼……私はようやくこの絶対的な真理へと辿り着いたのだ。

 魂の髄まで打ち震えるほどの歓喜。今すぐ血の滾りという名のインクで、世界への背徳的な賛歌ポエムを綴りたい衝動が胸を掻き毟る。

 だが、教えてくれないか。今も傍らで愛らしく微笑む、愛しい君よ。

 いかに神聖な美辞麗句を掻き集めたところで、この激情の奔流を、果たしてどうやって『言語』という矮小な檻に閉じ込めろというのだ!


 嗚呼、嗚呼……ああぁっ…ぁぁ…!




「ミラッ!ぐぅっ…!」


 戦士ドレイクが私の前へと立ちふさがり、攻撃を防ぐ。


 そこでようやく私はこの世界へと戻ってくることができた。

 絶頂へと至り、意識を失っていたようだ。

 ……やはり、



  この死地にこそ、

   勇者たちとの旅路にこそ、

    私の求めるモノがあったのだ。



「……治癒ヒール


『ガァ……ッ!? な、なんだこれは!? 腕が、内側から……ッ!』


 ザルグの右腕が、異常な速度で膨張し始める。細胞が爆発的に増殖し、自らの筋肉の圧力で太い骨がメキメキと音を立てて砕け散る。


「っ、あぁぁ…言葉では、足りない、言い表せない………ねぇ…?」


 私は愛しの彼女に向かって、うっとりと囁いた。


「ギャァァァァアアアアアア!!」


 悲鳴が森にこだまする中、私は愛する彼女と優雅なおしゃべりを楽しんでいた。



「……あぁ。神よ……」


 そこにあるのは、圧倒的な「救済」と「自己犠牲」の姿だった。

 ミラは意識がないのか、身動き一つしない。

 ザルグが腕を振り上げ、ミラへと襲い掛かろうとしている。


「ミラッ!ぐぅっ…!」


 俺はなんとかその一撃を食い止めるが、ミラはその光景に一瞥もくれず、悪魔の巨大な体に神聖な光を打ち込み続けている。光を浴びた悪魔の体は、そのあまりの神聖な力に耐えきれず、内側から浄化されるように崩壊と爆発を繰り返していた。


 そして彼女は、絶え間なく天を仰いで祈りの言葉を紡いでいる。


「っ、あぁぁ…言葉では、足りない、言い表せない………ねぇ…?」


 その声は震え、恍惚としているようにさえ見えた。

 痛いほどわかった。あんなにも命を奪うことを恐れていた彼女は、俺たちを救うためだけに、神への祈りに集中することで、無理やり正気を保っているのだ。


「……すまない、ミラ。俺たちが不甲斐ないばかりに、こんな凄惨な罪を背負わせてしまって……!」


 ゼインも、ダリアも、アクセルも。


 皆、ボロボロと涙をこぼしながら、ただ一人で巨大な悪に立ち向かう血まみれの聖女の姿を、目に焼き付けていた。



『ば、化け物め……! 殺せ……早く、殺してくれぇぇッ!』


 もはや原型を留めない肉塊と化したザルグが、哀れにも命乞いをする。


「美しき生命に、等しく…慈悲を…」


 パァン、という破裂音と共に、魔王軍幹部はついに息絶えた。


「――ミラッ!!」


 静寂が訪れた森の中、ドレイクは血だまりの真ん中に立つミラの元へ這い寄り、その場に深く、深く土下座した。ゼインたちもそれに続く。


「すまなかった……! 俺はお前を子供扱いし、何も理解していなかった! お前は安全な場所へ逃げられたはずなのに、自らの手を血に染めてまで、愚かな俺たちを救いに来てくれた……!」


「……」


ミラは一瞬きょとんとしたが、足元で号泣するベテラン戦士を見て、慈悲深い笑みを返す。


「お前こそが、真の救世主だ。ミラ、俺たちが一生かけてお前を守る。だから……どうか、これからも俺たちの背中を預かってはくれないだろうか!」


 その言葉に、ミラの胸は大きく高鳴り、

 そして脊髄を何かが走り抜ける感覚を覚えた。


「ああ、神よ、感謝します…」


 ミラは心からの感謝を虚空へと投げかけ、どこまでも清らかに、聖母のように優しく微笑んだ。


「……頭を上げてください、ドレイク様」


 ミラは血に濡れた手で、ドレイクの頬をそっと包み込んだ。

 そして、隣に立つ彼女とこっそり視線を交わし、穏やかに囁く。


「私の方こそ、……これからも『一緒』に、頑張りましょう」

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