第4話:僥倖
私は彼女と共に、薄暗い『死の森』を散策していた。
神官服の純白は、先ほどの野盗の方々や、道中で出会った魔物たちから頂戴した「赤い飛沫」で、それはもう美しい模様に染め上がっている。
「……え、 もう?」
彼女は飽きてしまったようだ。
私は虚空を歩く彼女を見つめ、少し困ったように小首を傾げた。
無理もない。この辺りの魔物は、少し治癒をかけただけで、すぐに破裂して壊れてしまうのだから。
「ごめんなさい……」
命とは、本当に儚く、そして愛おしい。
血に濡れた指先を頬に当て、私はため息をついた。
ドレイク様たちと一緒にいた頃は、皆が程よく魔物の体力を削り、抵抗できない状態にしてくれていたため、とてもスムーズに観察できた。
だが、一から自分で調理するとなると、やはり勝手が違う。
(もっと、こう……心から、昂るような…)
その時だった。
森のさらに奥深くから、肌が粟立つような、どす黒く強大な魔力の波動を感じたのは。
「……まあ」
私は目を丸くし、思わず歓喜の声を上げてしまった。
この生命の波動、間違いない、幹部クラスだ。
「ねえ、感じますか?あぁ……神に感謝します」
神は、私と彼女のために、こんなにも素晴らしい舞台を用意してくださったのか。
さらに意識を澄ませると、その巨大な魔力のすぐそばで、小さないくつかの波長があることに気がついた。
「この魔力……」
一つは、若く荒削りな聖なる剣の輝き。
一つは、炎を操る粗暴な魔力。
一つは、素早く動き回る気配。
そしてもう一つは、それらを庇うように立つ、重厚な盾の気配。
「うふふ……」
私は思わず、声を上げて笑ってしまった。
間違いない、私を追放してくれた、ドレイク様たち勇者一行だ。
どうやら彼らは、運悪く魔王軍幹部と遭遇してしまったようだ。
波長から察するに、彼らの体力はとうに限界を超えているはず。
このままでは、あと数分で全滅してしまうだろう。
「神に、感謝します」
私は彼女の手をきゅっと握りしめ、恍惚とした吐息を漏らしていた。
「ドレイク様たち、今、行きます…」
勇者パーティの皆様が命懸けで戦っている地獄絵図。
ぞくぞくと背中を駆け巡る官能の予感。
「さあ」
私は赤い飛沫を散らしながら、愛しの彼女と共に、愛に満ちた戦場へと軽やかに駆け出していた。




