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追放された聖女の私は、彼女と趣味を満喫する……はずでしたが、真の悦びは勇者パーティにあると気が付きました  作者: 邑沢 迅


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第3話:使命

 ミラをパーティから外して数日が経った。

 俺たちは今、魔王軍の領地へと続く「死の森」を進んでいる。


「……くそっ、治りが遅えな」


 斥候のアクセルが、腕の切り傷にポーションを振りかけながら悪態をついた。

 回復魔法の使い手を失った代償は、思いのほか大きかった。ポーションでは傷跡が残り、疲労までは癒せない。連日の戦闘で、俺たち四人の体には確実にダメージが蓄積していた。


「文句を言わないの。あの子を危険な目に遭わせるよりマシでしょ」

 

 ダリアが息を切らしながら杖を杖代わりにして歩く。勇者であるゼインも無言で頷き、前を向いて歩き続けている。


 そうだ。これは俺たちが選んだ道だ。あの汚れなき白百合に、これ以上血の匂いを嗅がせるわけにはいかないのだから。


 その時、先頭を歩いていたアクセルがピタリと足を止め、鼻をヒクつかせた。


「……おい。血の匂いがする。しかも、尋常じゃねえ量だぞ」


 俺たちは即座に武器を構え、警戒しながら匂いの元へと茂みを掻き分けた。

 そして、開けた場所に出た瞬間——俺たちは、地獄を見た。


「な……ッ、なんだ、これ……」


 ゼインが剣を取り落としそうになり、ダリアは顔を真っ青にして口元を覆った。歴戦の斥候であるアクセルでさえ、ガタガタと足の震えを隠せずにいる。


 そこにあったのは、三人の人間の「成れの果て」だった。


 ただ殺されているのではない。腕の骨は皮膚を突き破った状態で『完全に治癒』しており、筋肉は異常に膨張して破裂したまま『傷口が塞がって』いる。内臓の一部が外に引きずり出され、まるで花びらのように規則正しく並べられていた。


 そして何より恐ろしいのは、彼らの顔だ。限界を超えた苦痛に歪んだまま、目は見開き、口は声にならない絶叫の形に固まっている。


 「……異常だ。こんな殺し方、見たことがない」


 俺は吐き気を必死に飲み込み、死体の状態を観察した。

 剣で斬られた傷でも、魔法で焼かれた跡でもない。これは……まるで『治癒と破壊を同時に、何度も繰り返された』ような痕跡だ。


「おいおい……魔王軍の仕業か? だとしたら、どんだけイカれた趣味してやがるんだよ……!」


 アクセルが呻くように言う。


「許せない……! 命をなんだと思っているんだ!」


 ゼインは怒りに震え、強く拳を握りしめた。

 間違いない。この森には、魔王軍……それも、対象を生かしたまま弄ぶことを至上の喜びとする、最悪の快楽殺人鬼が潜んでいる。


 俺は天を仰ぎ、深く、深く息を吐き出した。

 そして、胸の奥から湧き上がる安堵感に、思わず神に感謝の祈りを捧げていた。


(ああ……神よ。本当に、本当に良かった……!)


 もし、あのままミラを連れてきていたら。

 命の尊さに涙し、敵の死体にさえ祈りを捧げるあの純粋な少女が、この猟奇的な「肉塊の芸術」を見てしまったら。


 間違いなく、彼女の美しい心は一瞬で崩壊し、狂気の淵へと沈んでいただろう。

 俺は振り返り、青ざめた仲間たちに力強く語りかけた。


「ミラを置いてきた俺たちの判断は、正しかった。こんなおぞましい地獄、あの心優しい彼女に見せられるわけがない」


「……ええ。本当にそうね。あの子は今頃、平和な教会の庭で花でも育てているはずよ」


 ダリアが涙ぐみながら頷く。


「俺たちが、この最悪の悪魔を討つんだ。ミラの生きる平和な世界に、こんな化け物を絶対に行かせてはならない!」


 ゼインの決意に満ちた言葉に、俺たちは強く頷き合った。


(待っていてくれ、ミラ。お前の祈る平和な世界は、俺たちが必ず守り抜いてみせる)


 俺は、猟奇的な死体を残した「見えざる悪魔」への激しい怒りと使命感を胸に、力強く森の奥へと歩みを進めたのだった。

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