表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された聖女の私は、彼女と趣味を満喫する……はずでしたが、真の悦びは勇者パーティにあると気が付きました  作者: 邑沢 迅


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/6

第1話:追放

 深夜の野営地。

 テントの中で静かな寝息を立てるミラの無事を確認し、俺たち四人は焚き火を囲んで重い口を開いた。


「……ミラの件だ。皆、気づいているだろう」


 俺の切り出しに、勇者ゼインが苦しげに顔を歪める。


「ああ、ドレイク……。今日も、オークの死体の前でずっと震えてた。虚空に向かって、泣きそうな声で懺悔しながら……」


「アタシ、見てられないわ」


 魔法使いのダリアが、苛立ちと悲しみを隠すように自身の腕を抱きしめた。


「あの子、敵の血を浴びるたびに、瞳の光が消えていくのよ。いくら回復魔法の腕が確かだからって、純粋な子に、命を奪う罪悪感を背負わせ続けるなんて間違ってる」


 斥候のアクセルが、普段の皮肉を消した真剣な顔で焚き火を見つめる。


「……俺も同意見だ。あの小鳥みてえな震え方、いつか心がプツンといくぜ。この先の魔王軍領の地獄を見せたら、完全に壊れるだろうな」


 全員の想いは同じだった。


 ミラは優しすぎる。命の尊さを知る清らかな彼女にとって、この血塗られた旅は耐え難い苦痛なのだ。これ以上、あの汚れなき白百合を戦場に咲かせるわけにはいかない。


「……俺が、悪者になろう」


 俺は決意を込めて言った。


「優しさを理由に外せば、責任感の強い彼女は絶対に納得しない。だから、あえて突き放す。足手まといだからクビだと、全員で冷酷に言い渡すんだ」


 ゼインが唇から血が出るほど強く噛み締め、頷く。


「……彼女が平和な教会に戻れるなら、俺はどんな恨み言でも受け入れる」



 翌朝。

 

 朝露に濡れる森の中で、俺たちは予定通り「非情な仲間」を演じきった。


「ミラ。お前は今日限りでパーティを抜けろ。足手まといだ」


 俺の冷徹な声に、ミラがビクッと肩を跳ねさせる。


「え……?」


「ドレイクの言う通りよ」


 ダリアが目を逸らしながら、冷たく言い放つ。


「アンタの祈る時間は長すぎるの。正直、テンポが狂って迷惑なのよ」


「俺たちの足引っ張る前に、安全な田舎にでも帰るんだな」


 アクセルもわざとらしく鼻で笑う。

 ゼインは……ただ黙って、辛そうに顔を背けていた。


 ミラの大きな瞳が見開かれ、みるみるうちに涙が溢れそうになる。

 彼女はプルプルと肩を震わせ、今にも泣き崩れそうな様子で俯いた。


(……許してくれ、ミラ。これが、お前を守る唯一の方法なんだ)


 俺たちは胸が張り裂けそうな痛みをこらえ、ただ冷酷な仮面を被り続けた。


「……わかり、ました……。いままで、ごめんなさい……」


 絞り出すような声でそれだけを言い残し、ミラは逃げるようにその場を走り去っていった。

 その後ろ姿が見えなくなるまで、俺たちは微動だにしなかった。


「……行っちゃったわね」


 ダリアがポツリとこぼし、静かに涙を拭う。

 ゼインは膝から崩れ落ち、地面を強く殴りつけた。


「これで……よかったんだよな、俺たち」


 アクセルの呟きに、俺は深く頷いた。


「ああ。彼女は俺たちが背負うべき血の汚れから解放された。……達者でな、俺たちの優しき聖女よ」


 朝日の中、俺たちはただ一人、純粋な少女の幸せな未来を願って、静かに祈りを捧げたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ