第1話:追放
深夜の野営地。
テントの中で静かな寝息を立てるミラの無事を確認し、俺たち四人は焚き火を囲んで重い口を開いた。
「……ミラの件だ。皆、気づいているだろう」
俺の切り出しに、勇者ゼインが苦しげに顔を歪める。
「ああ、ドレイク……。今日も、オークの死体の前でずっと震えてた。虚空に向かって、泣きそうな声で懺悔しながら……」
「アタシ、見てられないわ」
魔法使いのダリアが、苛立ちと悲しみを隠すように自身の腕を抱きしめた。
「あの子、敵の血を浴びるたびに、瞳の光が消えていくのよ。いくら回復魔法の腕が確かだからって、純粋な子に、命を奪う罪悪感を背負わせ続けるなんて間違ってる」
斥候のアクセルが、普段の皮肉を消した真剣な顔で焚き火を見つめる。
「……俺も同意見だ。あの小鳥みてえな震え方、いつか心がプツンといくぜ。この先の魔王軍領の地獄を見せたら、完全に壊れるだろうな」
全員の想いは同じだった。
ミラは優しすぎる。命の尊さを知る清らかな彼女にとって、この血塗られた旅は耐え難い苦痛なのだ。これ以上、あの汚れなき白百合を戦場に咲かせるわけにはいかない。
「……俺が、悪者になろう」
俺は決意を込めて言った。
「優しさを理由に外せば、責任感の強い彼女は絶対に納得しない。だから、あえて突き放す。足手まといだからクビだと、全員で冷酷に言い渡すんだ」
ゼインが唇から血が出るほど強く噛み締め、頷く。
「……彼女が平和な教会に戻れるなら、俺はどんな恨み言でも受け入れる」
◇
翌朝。
朝露に濡れる森の中で、俺たちは予定通り「非情な仲間」を演じきった。
「ミラ。お前は今日限りでパーティを抜けろ。足手まといだ」
俺の冷徹な声に、ミラがビクッと肩を跳ねさせる。
「え……?」
「ドレイクの言う通りよ」
ダリアが目を逸らしながら、冷たく言い放つ。
「アンタの祈る時間は長すぎるの。正直、テンポが狂って迷惑なのよ」
「俺たちの足引っ張る前に、安全な田舎にでも帰るんだな」
アクセルもわざとらしく鼻で笑う。
ゼインは……ただ黙って、辛そうに顔を背けていた。
ミラの大きな瞳が見開かれ、みるみるうちに涙が溢れそうになる。
彼女はプルプルと肩を震わせ、今にも泣き崩れそうな様子で俯いた。
(……許してくれ、ミラ。これが、お前を守る唯一の方法なんだ)
俺たちは胸が張り裂けそうな痛みをこらえ、ただ冷酷な仮面を被り続けた。
「……わかり、ました……。いままで、ごめんなさい……」
絞り出すような声でそれだけを言い残し、ミラは逃げるようにその場を走り去っていった。
その後ろ姿が見えなくなるまで、俺たちは微動だにしなかった。
「……行っちゃったわね」
ダリアがポツリとこぼし、静かに涙を拭う。
ゼインは膝から崩れ落ち、地面を強く殴りつけた。
「これで……よかったんだよな、俺たち」
アクセルの呟きに、俺は深く頷いた。
「ああ。彼女は俺たちが背負うべき血の汚れから解放された。……達者でな、俺たちの優しき聖女よ」
朝日の中、俺たちはただ一人、純粋な少女の幸せな未来を願って、静かに祈りを捧げたのだった。




