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7_花嫁を祝う光の中で

 挙式はそのまま披露宴へと移り、聖グランベル大聖堂に併設された白亜の迎賓館では、目を疑うほどに華やかな祝宴が幕を開けていました。


 天井のシャンデリアからは魔法の光が滴り落ち、会場中に散りばめられた大輪の百合が、甘く清らかな香りを漂わせています。

 国王陛下から直々に賜った祝辞に始まり、国内外の有力者たちからの献辞が続く中、わたしの耳には絶え間ない驚嘆の声が届いていました。


 レインハルト様の魔法省の同僚たちは、「あの冷徹な魔導師をここまで狂わせた女性は誰だ」と、隠しきれない好奇と敬畏の眼差しでわたしを見つめていました。

 かつての「日陰の令嬢」としての面影を完全に払拭し、圧倒的な光を放つわたしの姿は、彼らにとって最大の謎のように映っているのでしょう。


 そんな喧騒の合間を縫うようにして、懐かしい顔ぶれがわたしたちの元へ歩み寄ってきました。


「……シャ、シャルロット! ……いや、今はヴァルテンベルク公爵夫人、か。……すげえな、本当に綺麗だ。正直、オレ、最初誰だか分かんなかったぜ!」


 真っ先に声をかけてくれたのは、王立ラピスラズリ学園の同級生だったリオネルでした。

 燃えるような赤髪を少し照れくさそうに掻き、澄んだ青い瞳を輝かせる彼の姿は、学園での息苦しい日々の中でわたしが唯一「普通の自分」でいられた時間を思い出させます。


 騎士見習いとしての鍛錬で以前より逞しくなった体格を、慣れない礼装に包んだ彼は、わたしの隣に立つレインハルト様の圧倒的な魔圧に顔を強張らせながらも、精一杯の笑みを浮かべてくれました。


「……リオネル、来てくださったのね。嬉しいわ。……ふふっ、そんなに畏まらなくてもいいのよ?」

「そうはいかねーだろ! 相手はあの『最恐』……あ、いや、『最強』だぞ……。……でも、シャルロット。本当におめでとう。オレは、お前が笑っててくれるのが一番嬉しいよ」

「……ありがとう、リオネル」


 わたしの言葉に、レインハルト様がわずかに目を細めました。

 彼にとってリオネルは、かつてわたしが「逃げ道」のように頼っていた、少しばかり気に食わない存在かもしれません。

 けれど、レインハルト様はわたしの手を握る力をそっと強め、静かに頷かれました。


「リオネル、久しぶりだね。直接言葉を交わしたことは少ないが……、話は聞いている。シャルロットを支えてくれたこと、感謝するよ」

「っ……、は、はい! 閣下……じゃなくて、レインハルト様! オレ、これからも彼女の……ええと、騎士としての矜持にかけて、お二人の幸せを祈ってます!」


 リオネルがガチガチになりながら頭を下げるその後ろから、一歩、静かに歩み寄ってきたのは、リオネルの姉であり魔法専科の才媛として知られていたクラリス様でした。

 水魔法の使い手らしい、流れるような気品を湛えた彼女は、かつてはわたしの「魔力の乏しさ」を蔑み、この婚約が不釣り合いだと誰より厳しく言い切っていた方でもありました。

 鑑定の鏡を使ってまでわたしの秘密を暴こうとした彼女の瞳には、かつての刺々しい嫉妬心は微塵も残っていませんでした。


「……シャルロット様。……いいえ、ヴァルテンベルク公爵夫人。本日は誠におめでとうございます」


 クラリスは、流麗な動作で完璧なカーテシーを捧げました。

 その青い瞳がわたしを見上げた時、そこには純粋な敗北感と、それ以上の深い感銘が宿っていました。


「……かつてのわたくしは、血統と魔力の多寡こそがすべてだと信じて疑いませんでした。……けれど、今の貴方から放たれる、この美しさと気高さ。……それこそが、最強の魔導師に選ばれ、愛されるにふさわしい答えだったのだと、ようやく理解いたしました。……これまでの無礼、どうかお許しくださいませ」


「クラリス様……。わたくし、貴女の厳しい言葉があったからこそ、自分を見つめ直すことができました。……お祝いに来てくださって、本当にありがとう」


 わたしの返答に、クラリスは安堵したように微笑みました。


「……これからの貴方は、王国の女性たちの憧れ、そして北極星のような存在となるでしょう。……レインハルト様の愛に守られた貴方の光を、これからも遠くから見守らせていただけますか?」

「ええ、もちろんでございます」


 姉弟との温かな時間を経て、祝宴はさらに熱を帯びていきました。


 次から次へと訪れる、国内外の賓客たち。

 隣国の大使、北の王国の有力貴族、南の通商同盟の代表――。

 レインハルト様は、彼ら一人ひとりと淀みない挨拶を交わしながら、同時にわたしの体調を気遣うように、絶えずわたしの腰に手を添え、気遣ってくださっていました。


「……シャル、疲れていないかい? 少し中座して休むこともできるが」

「いいえ、大丈夫ですわ、レインハルト様。……こんなにたくさんの方に祝っていただけて、胸がいっぱいですの」


 わたしは微笑んで答えましたが、その時でした。


 背筋に、氷の刃を押し付けられたような、鋭いのに、どろりとまとわりつくような違和感が走ったのです。







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